表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/3

悲しき夜想

羽音が聞こえた。見るとまたカラスが自分の横に飛んできた。また真っ直ぐな黒い目で私を見つめている。このカラスと知り合って分かったことだが、彼はロックミュージシャンになることが夢だそうだ。そんな思いがひしひしと私に伝わってきた。ロックミュージシャン? 私は始め、その事実を知った時、鼻で笑ったものだ。カラスが何を夢を見ている。カーカーしか話すことが出来ないくせにと。出来ないと始めから決めつける。それでも彼はそのロックミュージシャンになるために、今も耐えず、発声練習を毎日している。夢を叶えるために、毎日欠かさず、一心不乱に頑張っている。

そんなカラスの姿を見続けて、私はいつからかこのカラスが気になる存在になっていた。自分の心の中でどんどんと大きな存在へと変わっていったのだ。彼は今も昔も何も変わらない。ただ真っ直ぐな目で、私を見てカーカ

ーと繰り返す。

 

 「おっと」


私が執筆の休憩中にイスに座ろうとしたら、黒い点のような物体がそのイスの上から動いた。そして圧倒的な想いが私に伝わってくる。私のここ数日の執筆活動で睡眠時間が減少していることを心配しているようだ。

世界平和を願う蟻。そう名付けたのは、この蟻が果てしないほどの慈愛の心に満ちていたからだ。言葉も何も発しないただの虫だという考えや常識が、一気に崩れ落ちたような気がした。それほど衝撃を与えてくれた蟻である。一番気をつけるのは、蟻がどこにいるかきちんと把握する事である。踏み潰してしまえば、この蟻を殺すことになってしまう。そもそもそこまで人生の中で蟻の命を気遣って、立ち位置や座り位置を考えたことはあったであろうか。普通に生きてきたのであれば、そんなことは微塵にも思うことはなかったであろう。とにかく自分以外の人であったり、ものであったり、とにかく彼女は自分の事のように、よく想っている。争いごとがあったのなら止めようと動くし、その度に私が、踏み潰されないように移動を手伝い、代弁をする。手間はかかるが、彼女の純粋な心は私の胸の中を暖かくし、何か伝えてくれる。そんな気がした。

 死にたくないセミに会ったのは、カラスと蟻のことについてある程度理解したころだった。カラスは毎日のように発声練習を行い、その横では蟻が、人助けならぬ、蟻助けをしていた。蟻食いの罠にハマった仲間を何とかしようとしている。カラスと蟻も毎日似たようなことをしている。セミもただ鳴いていた。彼らは絶えず、一日中鳴いている。

気がついたら、その特徴的な声が聞こえはするが、いつの間にか止んでいる。中々視認は難しいが、鳴き声はするのでいることはいる。

毎日、私の近くで鳴いては、離れてはと行ったり来たりする。いつも同じ場所にいるわけではないので、鳴き声で判断している。その日も朝から夕方までセミの姿は視認できなかったが声は聞こえた。そこで私がおかしいなという事に気がついた。

セミの声がいつもと異なっているのだ。いつもの真っ直ぐな自己アピールをしている声が今日は違う。どこか悲しげで、憂鬱げに聞こえた。それは一体どういうことなのであろうか? 疑問に思い、聞いて見た。答えてくれるかどうか一瞬迷ったが、やはり聞いてみることにした。セミはここで重い口をようやく開いた。


「死にたくねぇ」


そう一言つぶやいた。セミの寿命は成虫になってからほんの一週間足らず。生まれてからほとんどを土の中の暗い中で過ごす。ようやく出てきたとしても、雄セミは自分の子孫を残すために、全力で鳴き続ける。自分という存在がここにいるということをアピールするために。それで鳴き続けても、相方が出来なかった場合の雄セミは無残にも何も残すこともなく、ただ死んでいくのだ。もしかしたら彼はそのことを知っているのかもしれない。

身体に何かしら今までとは違う変調を感じ、

そのことに気がついたのかもしれない。鳴き声が泣き声に変わるとき、自分達の不遇を呪い、死んでいった仲間たち思い、彼はずっとそう思って泣いていたのかもしれない。それはひどく悲しいメロディーであり。死んでいった仲間たちを想う鎮魂歌であり、自分にも宛てられた言葉でもある。


「死にたくねぇ」


夏のセミの泣き声を聞くと、彼の事を思い出す。今でも彼は泣き続けているのであろうか。自分の存在をアピールしながら、消えかけていく命の灯火を燃やしながら。

 カラス、蟻、セミという新たな登場人物が現れ、しかもそれぞれ独自の意思を持っていた。話が非常に膨らみ、内容が重厚になっていく。その三種とも私に伝えたいメッセージがあったのではないかと思う。いつしか叫びを認めるノートが三冊目に突入し、そろそろ三冊目の購入を考えていた。私はノートを買いに行くことを決心した。

極力外に出かけたくない私でも比較的、好きであったところはロフトであった。赤や青といった蛍光ランプ。ファッション性の高いバッグに。今、国民の大半に普及しているアイフォンやスマーフォンを保護するカバーやシール、電話を彩る装飾品。また女性に対しては肌の状態をケアするスキンケア用品やキラキラと煌く入れ物に入った化粧水。子どもたちが心躍るとすれば、数百近くにも及ぶ文房具であろう。ノートだけでも、品物を見るだけでそれなりの数があり、時間を費やしてしまう。そして、結局は値段は同じで紙質がよく、ペンの滑りがよく、にじまないノート一冊にするのか、それなりの紙質の三冊セットのノートにするのか迷う。

結局はこの書きやすい一冊のノートにするのだが、毎度のことながら考えてしまうのである。以前と比べて、少し残念なところもある。

このご時世で、売れるものしか売らなくなったことだ。不況に倒産と気持ちは分かるのだが、それでも少し違うなと感じる。買い手が売り手の思惑が感じたら終わりだからだ。

 そんなすっきりしないときに急に現れたのはスター気取りのカエルだった。このカエルは本当に嫌な奴だった。見た目がまず巨大なヒキガエルなのだが、彼から伝わってくるのは、非常に大きな自分にたいする圧倒的な自信だった。何故そこまで自信が持てるのであろうかという疑問が浮かんだ。醜いカエルだ。世間一般から見てもかっこいいと思う人は、ほとんど皆無であろう。そして、ヒキガエルは耳障りな声で鳴き始めた。そのゲロゲロという泣き声は聞こえる通り。汚らしい音の調べだった。ロックミュージシャンになりたいカラスの鳴き声や、死にたくないセミの鳴き声は心に響くものこそ、何かがあったが、このカエルからは一切そんなものは伝わってこない。逆にこのカエルの立ち振る舞いは。不愉快ささえ感じるほどだ。一体何を伝えようとしているのであろうか。この絶対的な自信を見習えとでも言おうとしているのか。このカエルのただの自己満足ではないだろうか。このカエルの叫びがよく理解できない。今までの三匹はこれといったものを持っていたのだが、このカエルの場合はただ単純に思い込んでいるだけだ。一体何がしたいのであろうか。しかし、どこかでこのカエルと似たような感覚を覚えたことがあるような……はて。

思い返してみるが思い出せない。諦めてノートに記入しようとするがカエルの姿をみていると馬鹿らしくなってきた。だが一応はきちんと記入はする。もしかしたら大いなるメッセージ性があるのかもしれな

いし、私はそれに期待して、このカエルの主張を逐一、メモをしていった。カエルは相変わらず。その場でどっぷりとしていて、終いには、動くことすら辞めてしまった。あまりの暴挙にさらに苛立ちを覚えてしまう。何なのだ、このカエルは。せっかく面白そうな題材が揃ってきて、いい作品ができそうなのに。このカエルのおかげで台無しになりそうな気がした。不安な感情を抱きながら、私はそろそろ頃合いだなと感じ始めていた。筆をついに動かし始めた。応募作品の執筆が開始されたのだ。その私の姿を見て、ほくそ笑んでるカエルがいる。後

々、このカエルが何を言おうとしていたか、分かるが。今の私にはそれに気がつく余裕もなかったのである。

 

 



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ