第九話【戦士隊】
ハミルの街まで来たら仕事にありつけるのかと思って村を飛び出したが、仕事などそうそうなかった。
冒険者ギルドまで行って登録料の銀貨一枚を払ったが、ろくに仕事がない。
仕事がないから、等級が上がらない。
等級が上がらないと更に仕事がない。
悪循環だ。
俺はここで終わる人間じゃないんだ。
ここの領主の息子の子爵は親切な男と聞いていたので会おうと思ったが、警護の騎士に追い払われた。
ちっ。
ん?
なんだ、坊主。
誰だ、お前?
仕事がある?
おいおい、大人をからかうなよ。
アラルコン村?
聞いたことねえぞ。
一攫千金?
なに言って……。
ん?
…………ああ、お前、コルスじゃないか。
久しぶりだな。
え?
仕事?
ああ、お前のためならなんだってやるさ。
しけてるねえ、この街は。
あたしらのとこに来る連中はケチな奴ばっかりさ。
あ~あ。
村で嫁になるのが嫌で飛び出したのに、村から出てきたような奴ばっかり相手だよ。
歳ばっかりとっちまう。
どうしようかねえ。
ん?
なんだい、坊や。
おねえさんと遊びたいのかい?
ませてるねえ。
商売の邪魔だから、あっちに……。
ん?
…………あら、コルスじゃない。
久しぶりね。
え?
仕事?
いいわよ。あんたの頼みじゃ仕方ないわね。
ハミルの街にも貧しい者が集まる場所は存在するが、先日若い連中がごっそりいなくなった。
街頭に立つ娼婦も若い娘がいなくなり、おまけに孤児も見あたらなくなった。
奴隷商人か人拐いか魔物の仕業ではないかと噂されたが、事実はわからない。
領主の息子である子爵は調査の続行と継続を強く主張したが、予算の関係でそれは簡単に打ち切られた。
形式的且つ簡略で曖昧な調査しか行われなかったが、そもそも彼らは支配層から人と見なされていない。
厄介者を一掃出来たと笑う者たちが大半の中、苦虫を潰したような表情を隠さない子爵は酷く目立った。
その馬車隊は温泉村に向かっている。
馬車の周りは徒歩の男たちが三八名。
馬上の騎士が一名。
馬車は四台あり、一台は騎士の未亡人とその娘と使用人たちが乗っている。
残りの三台は田舎娘が二二名と子供一五名が分乗している。
食料はたっぷり積まれており、全員が嬉しそうな顔をしていた。
ハミルの街から出発した彼らが野営した翌日には何故か一週間はかかる筈の温泉村に到着し、コルスに迎えられた。
七歳の少年と再会を喜びあった彼らは温泉に浸かって疲れを癒し、アラルコン村へ向かった。
アラルコン村までの街道がいつの間にか整備されていて、三日後一行は難なく村へ辿り着く。
彼らは歓迎され、新築された集団住宅へ住んだ。
子供たちは希望する家に引き取られ、娘たちは村の独身男性に引き合わされてそのまま夫婦になる者もいた。
きゅんときたらしい。
一緒にいたコルスがにやにやするのを、隣の闇エルフは悪い顔しているわねとエールを呑みながら思った。
移民の面々が闇エルフのリーネを見ても動じていなかったのは、彼女からしても実に不思議なことである。
コルスは数人の商人を引き連れて村を訪れていた。目利きの商人ならば見落としもないだろうと期待して。
移民してきた男たちは漁師になるか村の防衛隊になるかを選び、総員二〇名で結成された防衛隊はアラルコン戦士隊を名乗った。
当面は村の防衛と戦闘訓練と村周辺の開拓が業務である。
彼らは刃のこぼれた剣やぼろぼろの鎧を身に付けていたが、コルスから新しく鋼の剣と革鎧が支給された。
お揃いであり、隊員たちは感激した。
忠誠心あつき勇猛な彼らはきっと戦果をあげるに違いない。
戦士隊隊長にはある騎士の三男坊が就任する。彼は夫を亡くした騎士の妻と結婚し、村は合同結婚式を兼ねた宴会を行った。
騎士っていってもよ、兄貴二人がどうにかでもならないと俺にお鉢が回ってくることなんかないじゃないか。
派手な戦争でもありゃ別だが、街の防衛戦規模じゃ出世も望めねえなあ。
副隊長も張りきり過ぎたんだよ。
奥さんと娘さんをどうするんだ。
まあ、俺に出来ることはたいしたことじゃないが、菓子を持っていったり話をしたりするくらいが関の山だぜ。
ほんと、頭打ちだ。
どっかの村でのんびり暮らそうかな?
冗談で言ったら、なんか奥さん妙に乗り気だった気がする……。
そんな訳ないか。
おう、コルス。
どうした?
腕の立つ戦士か騎士を探している?
なんだそりゃ?
魚とエールの旨い村で防衛隊を作る予定って、お前、ほんと訳わかんないことを考えるよな。
お前の兄貴に似てるよ、そういうとこ。
ああ、あいつは勇敢だったぞ。
あれこそ、勇者だな。
副隊長も勇者だったのかねえ。
そうだ、コルス。
俺、今暇なんだ。
その防衛隊の隊長ってやつを受けてもいいぜ。
ああ、ほんとさ。
家は兄貴たちが仕切っているし、俺の出る幕なんてないんだ。
おう、任せとけ。
副隊長仕込みの特訓を施してやる。
ああ、後でまた会おう。
さ、奥さんに話を通しておくか。
会えなくなるのは残念だが、まあ致し方ない。