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第八〇話【這い寄る金貨は眠らない】

チャリーン、チャリーン。

夏の夜更けの温泉村郊外。

金属製の仔牛の隣で数枚の金貨が嬉しそうに跳ねている。

どちらも、魔法のことわりで作られた過去の遺産だ。

たまさか迷宮で冒険者を駆逐する役割が与えられた存在。

だがしかしかかし。

現在は絶大な力を持つ魔法使いからの支配を脱していた。

仮初めの命を与えられたモノたちの足下には魔物の死骸。

温泉村付近に本来現れる筈のない亜種の人喰い鬼は、体中に噛み跡を残して絶命していた。

致命傷は腹部の損傷。

疾走してきた重量物、バイクかなにかに突撃されたかのような傷跡がそこにある。

仔牛が高圧蒸気の息を吐く。

途端、石と化してゆく魔物。

悠然と現場を去ってゆく仔牛と金貨たち。

そこにはいしくれ残るだけ。





私の名はケニー。

少年ケニヤではない。

今朝は早くから這い寄る金貨たちのハイテンションに付いてゆけず、ただただ戸惑うばかりだ。


「で、で、旦那、若奥様たちとはどうなんですよう?」

「昨晩はお楽しみでしたねグフフ、ですか、このリア充野郎!」

「このーこのー、トニーさんが悶えまくって、またハンナちゃんからお仕置きされていましたぜ。」


トニーはなにをやっているんだ。


「まだ顔も見ちゃいないよ。結婚式では彼女たち、ベールをかぶっていたし、今は花嫁修行中とやらで彼女たちに近づくことすら出来ない。」

「じゃあ、じゃあ、欲求不満はどうしているんですかい?」

「ムラムラするでしょでしょ。困っているでしょでしょ。」

「そんで、そんで、メイドたちに手を付けちゃったりなんかしちゃったりして。嗚呼禁断の魅惑の関係! ドロドロの物語待ったなしで御座る御座る。」

「してはいないしするつもりもない。」

「なにその模範回答。」

「おっさんの癖にいい子ぶるなよな。」

「つまらんつまらんそんな回答は求めていないないない。」

「ソリン。お前さんの眷属がフリーダム過ぎて困るんだけど。」

「いやあ、あっしの仲魔はいい奴揃いですよ。あまり気にしないでくださいな。」


チャリンチャリンと私の周囲で跳ねる金貨のようなモノたち。

仕方ないので、彼らを革袋に詰めてギュッと口を縛って一晩放置しておいたら少し大人しくなった。


やれやれ。


さてと。

街道計画を手伝いに行かねば。

街道が出来れば流通が変わる。

流通が変われば経済が変わる。

変革を。

変革を。

アヘヒロが帝国から戻ってきたら、更に忙しくなる。

やらねば。




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