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第八話【新しき村】

お気に入りに登録してくださった方々並びに評価してくださった方々に感謝します。

これからもよろしくお願いいたします。

わたしは闇エルフのリーネ。

コルスに助けられた元老婆。

彼の【力】で助けられたわたしは、現在少女の姿をしている。

不思議なコルス。

わたしのコルス。

彼にすべてを捧げるべく、寒冷地にある温泉村で共に暮らしている。





「ミネラル! ミネラルが必要なんだ! なあ、リーネ! 昆布知ってるか? ひじき知ってるか? 寒天知ってるか?」

「ごめんなさい、コルス。すべて初耳です。」


コルスはどこでそんなことを知ったのだろう?

おそらくはエルフの長老すら知らない知識を。


「だあっ! リーネすら知らないとなると殆どの奴が知らないか!」

「コルス、それは誉めすぎです。」

「リーネはこの世界の生き字引だからな。」

「そんなことを言われたら惚れちゃいますよ。」

「惚れてくれ、惚れてくれ。うはは。よし、先ずは近くのアラルコン村へ向かおう!」


温泉村から東へ三日ばかり歩いた先に寒村且つ漁村のアラルコン村がある。

村の周囲は険しい山岳地帯で、温泉村から訪れるには山越えしないといけない。

村の人々は海からやって来たり、山の民が定住化して集落になったそうだ。

アラルコン村は元々さびれた名もない漁村だったが、コルスの技術指導により名を与えられた。

寒さに強い羊を飼い、現在ではアラルコン・セーターで知られる上質の衣類を織り上げるまでに至っている。


「かーちゃん、オレ、リーネと一緒にアラルコン村まで行ってくる。」

「コルスは最近よくあの村に行くねえ。いつ頃帰ってくる?」

「夕方には帰ってくる。」

「わかった。気を付けてね。リーネ、コルスを頼んだよ。」

「おう、行ってくるぜ。」

「はい、わかりました。」


先日ハミルの街の子爵から貰った絨毯に乗って、わたしたちは空を飛んでゆく。

南のアスラン王国で聞いたお伽噺を思い出す。

この絨毯自体に魔法はかけられていない筈だが、現に空を飛んでいる。

不思議だ。





アラルコン村に着くとコルスと共にさっそく村長の家へ向かった。

最初見た時の村長の家は掘っ立て小屋に近かったが、今はしっかりした作りの家になっている。


「村長! 鮪節作りは進んでいるかい?」

「おう、コルスか。まだまだかかるな。」

「そうか。気長にいこうぜ。オレん家の農園で採れた林檎だ。食ってくれ。」

「こんなにくれるのか。いつもすまないな。」

「なに言ってんだ。オレたちの仲じゃないか。」


けらけら笑うコルス。

彼がこの村を知ったのは偶然だ。

蟹の魔物が村を襲っているところに颯爽と現れて、あっという間に退治したらしい(村長談)。

「あの蟹旨かったなあ。特に蟹味噌。」とはコルスの談。

「食べないの? これ、旨いぞ。」と皆に勧め、おずおずと食べる子供たちがおいしいと言ったのを切っ掛けにみんなして海水で茹でて食べたそうだ。

その味は村人たちにとっても衝撃的だったらしく、この村では普通に蟹を食べるようになった。

魔物ほどではないが、蟹が捕れるらしい。





鮪節というのはコルスの命名した乾燥食品で、近海を泳ぐ鮪と呼ばれる魚を斬り刻んでその身を蒸して燻製にしたものらしい。

カビが重要だとコルスが言っていたが、カビってなんだろう?

コルスはまるで学者だ。

子供の姿をしているが、その知恵はエルフの長老並み、いやもっと上かもしれない。

わたしの知識欲がむずむずする。


「鮪がこの村の近海にいたのは収穫だなあ。鮪のステーキだな、今夜は。先ずは刺し身だ。」


コルスは新鮮な魚を生で食べる。

最初見た時は驚愕した。

「生で食える魚ばかりじゃねーよ。」と言っていたが怪しい。

干し魚はコルスの指導で味わいを深め、棄てたり肥料にするしかないと思われていた小魚は干すと出汁の元になることが教えられた。

出汁、というのも料理の革命だ。

コルスによると、出汁が取れると旨い料理が出来るらしい。

昆布がーっ! 椎茸がーっ! と叫んでいたが、よくわからない。

確かに出汁を使ったスープはおいしい。

村には燻製の技術も伝えられ、魚介類の交易で得られる利益は飛躍的に上昇した。

東の帝国から商人が来るらしいが、以前はかなりぼったくられていたそうだ。

コルスから知恵を貰い、彼自身が商人たちとやり取りしたのを見たお陰で村人たちは奮起したようだ。

そうして得られた利益は寒さに強い羊を買う費用に充てられ、その羊毛は上質な衣類を作る元になる。

ちなみにその羊はコルスが連れてきた。

彼は村の恩人だ。

村人を増やし、商いのわかる者を定住させて防衛戦力を揃えるのが現在の課題である。


「どっかの盗賊団でも洗脳して定住させるのは……ダメだ、こないだみたいに討伐隊が来る。独り働きの奴をちまちま……手癖が悪いのは洗脳すればいいか。騎士崩れとか冒険者崩れとか、そういう方向もいいかもしれないな。人口を増やすといったらどっかの村娘を……。うーん、ハミルの街でぶらぶらしている奴らを……。」


なんだかこわいことを呟いているような気がするが、気にしないでおこう。





鮪節作りにはドワーフが関わっている。

コルス曰く日持ちしない鮪節はとっくに出来ているが、日持ちする鮪節が出来ていないのだという。

鮪節の試作品は既に出汁や料理に使われ、一定の評価を得ている。

「世界一硬い食いもんさ。」とはコルスの談。

南方で作られているという魚醤はこの村でも独自の発展を遂げ、料理によく使われている。

コルスは鮪の刺し身を魚醤に浸けてぱくぱく食べながら、ドワーフと技術的な打ち合わせをしていた。


「コルスはよく喰うな、そんなもん。」


ドワーフがあきれた顔で言う。

まあ、そうなるな。


「旨いよ。」

「お前の喰うもんは幅広すぎてよくわからんわい。」

「これだと生節だな。水分を飛ばしたらどうかな?」


二本の試作品な鮪節をきんきんと打ち鳴らすコルス。

水分が失われているのがわかる。

どうやったのだろうか。

精霊力は感じなかった。


「コルスのその術はさっぱりわからん。」

「これでカビ付け出来たら御の字だけど、どうかなあ。取り敢えず、この堅さを目標にして。」

「簡単に言いおるわ。」

「ドワーフの技術力に期待しているよ。」

「抜かせ。」





この村に来たら、アラルコン・エールを呑まなくてはいけない。


「エールだから、上面発酵型の醸造酒というかビールだな。これを蒸溜したらウイスキーか。確か岡山県でビールをウイスキーにしている会社があるし、ドイツだかフランスでもそういう会社があるよな。」


コルスがなにやら訳のわからないことを言っている。

二杯目もおいしい。

遠くに運べないのは残念だ。

温泉村へ持って帰りたいな。


「村長! 一樽実験していいか?」

「じゃあ古い樽をやる。三つだ。」

「ありがとう。」


コルスが樽に手をかざす。

なにをやっているのだろう?

三杯目もおいしい。

この鮪もおいしい。

刺し身をぱくつく。

魚醤を浸けて食べると、実においしい。

村長が妙な目付きで私を見つめている。

どうしてだろう?


「よし、四〇度になった。ではこれを何年ものにしようか。一二年で試すか。」


四杯目を呑み終わる頃、コルスが蜂蜜色のお酒を入れた陶器のコップをわたしの目の前に置いた。

匂いをかぐ。

つんとする。


「強そうなお酒ですね。」

「アラルコン一二年、てとこだな。ウイスキーは一二年経つと味がけっこう変わる。小泉先生によると一七年くらいまでがおいしいウイスキーだそうだが、このウイスキーは何年まで耐えられるかな?」


ふうん。

よくわかんないけど呑んでみよう。

どれどれ。


「かなり個性の強い酒ですね。でも悪くないです。潮の香りがしますし、樽の香りもしますね。」

「樽の内側を焼かないナチュラルカスクの自然派ウイスキーだ。カラメルや樽の内側を相当焼かない限り、色は大してつかないからこんなものだろう。初めてにしちゃ悪くないな。ちょっとしょっぱいから、タリスカーみたいな感じかな? ヨード香は殆どない。ピートを使わないからだな。」


コルスは訳わかんないことばかり言う。

もう一杯呑んでみよう。

ふむふむ。

これは違う樽のものだ。


「こちらとこちらは味が微妙に違います。」

「流石はリーネ。酔っぱらっていても味覚は敏感だな。」

「誉めても接吻くらいしかしませんよ。」

「リーネの酔いがさめたら考えるさ。」


もう一杯。

これはまた別の樽の酒。

味のわかる闇エルフ、それがわたし。

なーんちゃって。

うはは。


「やはり三樽とも味が微妙に違います。」

「混成させるヴァテッド・モルトなんて芸当は……オレなら出来るが他の奴らは出来ない。それぞれの樽によるシングル・カスクで売るしかないか。下手に信用を落とすと洒落にならん。問題は受け入れられるかどうかだな。」

「まーた、コルスは小難しいことを言います。わたしにもわかるように言ってください。」

「抱きつくな、酔いどれエルフ。」

「いじめちゃいますよう。うふ。」

「仲ええのう、お前ら。」

「村長。これを呑んでみてくれ。」

「ふむ。どれどれ。」

「どう思う。」

「とても……強いの。」

「売れるかな?」

「どうかのう。」

「よし、先ずはうちの村にいるドワーフたちに呑ませてみよう。判断はそれからだな。」

「ところでコルス。これはなんじゃ?」

「アラルコン・エールを元にした酒。」

「冗談だろう?」

「冗談じゃないさ。これはアラルコン村の新しい武器のひとつだ。」

「武器?」

「経済戦争を勝ち抜くための武器さ。地方に於いては、継続販売出来る独自の価値ある特産品が高い利益をもたらすのだから。」

「コルス。お前がなにを言っとるのかよくわからん。学のないワシにもわかるように話せ。」

「これを売ると金になる、ってことだ。」

「よくわかった。」

「問題は蒸溜だな。錬金術って知ってるかい?」

「なんだ、そりゃ?」

「リーネ。」

「エールをもう一杯呑んでいいですか?」

「そろそろ帰るから八杯で止めとけ。錬金術って知ってるか?」

「じゃあ、樽をいただきましょう。錬金術? 知らない子ですね。」

「リーネも知らないか。課題は多いな。村長。エールの樽を貰っていいか?」

「好きなだけ持っていきな。」

「ははは。金は出すよ。」

「村の恩人に金まで出されたら面目が立たん。」

「わかった。今日は一樽でいい。新しい技術を思いついたらまた来るよ。」

「そうそう、コルス。お願いがある。」

「なんだい?」

「村の若い衆に嫁を探してもらえないだろうか?」

「はい?」

「お前の才覚を見込んでの頼みだ。一生エールをただで好きなだけやる。」

「わかりました。その依頼、見事果たしましょう。」

「勝手に決めるな、ドワーフもどき。」

「酷いです、コルス。」

「ダメかな、コルス。」

「そういや、村長も独身だな。」

「あ、ああ。」

「わかった。出来る限り探してくるが、期待はしないでくれ。」

「次回、コルスの不思議な嫁探し! 真実は見えるか?」

「なに言ってんだ。帰るぞ、酔いどれエルフ。」

「あーれー。」





コルスが自分自身の嫁を探す頃、私はどの位置にいるだろうか?


コルス。

わたしのコルス。

お前のためにすべてを捧げましょう。






リーネはドワーフ並に酒好きです。


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