第七九話【その身を守る為に】
朝も早くから棒を振るう。
北の山間部にある村は、夏といえど日が照る前は肌寒い。
要所を金属で覆ったり輪っかで締めた棒の先には鎖が付いていて、その先端はイボが付いた鉄球になっていた。
モルゲンステルンとも呼ばれる竿系武器。
ゲームでは冷遇されることも多々あるが、歴史的にはよく使われてきた道具。
殺傷する為の武器である。
鋭いトゲがあったらどうだろうかと思ったが、実戦向きではないらしい。
絵的ではあるが、曲がったり折れたりしたら修繕が面倒だし、こびりついた血肉を取り去るのは手間隙がかかる。
素人のおっさんが剣だの斧だの振るってもなかなか上手くはいかないから、素人でもなんとかなりそうな気がしないでもないものにした。
人殺しなぞ真っ平御免と言いたいところだが、この身は異世界から転移してしまった身だし、ここは生き死にが日常的な場所。
私の名はケニー。
ある日突然異世界に飛ばされた、特に取り柄のないおっさんである。
今日の温泉村は少し冷える。
夏になったとは言え、少し風があるとひんやりする。
風の強い日は寒いくらいだ。
本日は世話好きの異世界転生少年のコルスが住む旅籠の裏庭で、私の武装の見直しをすることになった。
先日行われた、模擬戦の結果が思わしくなかった所為でもある。
剣道柔道空手アマレスなどをたしなんだことのないアラフォーのおっさんが、歴戦の戦士に勝てる筈もない。
特別知恵がある訳でもないし、さてはてどうやって生き延びようか?
「今日はケニーの装備を見直してみよう。」
「コルス、この剣は重すぎて持てないよ。」
「ふむ。バスタードソードは無理か。」
やたら大きくて重い大剣は持ち上げるのが精々で、これを縦横に振り回すなんてとても出来ない。
では短剣や小剣はどうかというと、振り回せないこともないが相手の懐に入って刺すとか貫くとかは大変困難に見えた。
猪や鹿などを相手にするのと、人を相手にするのは全然異なる。
でも装備自体はしておこう。
世の中、なにが起こるかわからないし。
クロスボウは及第点を貰えたが、破損時の損失額が大きいので注意して扱わないといけない。
このセカイでは繊細な最先端兵装。
狙撃銃みたいなものか。
遠距離から騎士をも一撃で倒せるのは魅力的だ。
「フルヘルムなバケツ頭は、防御力と視界を妨げられることを天秤にかけた方がいいな。」
頭部をすっぽり覆う鋼鉄の仮面。
重い。
見えない。
息苦しい。
諦めよう。
結局、頭部のみを覆うニットキャップみたいな兜にした。
籠手は先だっての戦闘で入手したもの。
時々勝手に動くので少し困るが、ま、あまり気にしないようにしよう。
作りはとても精緻且つ精密に出来ており、工芸品の域に達している。
手袋に鉄片を縫いつけたり貼りつけたりしたものではないところがふるっていた。
コルスによると付喪神みたいなものらしい。
這い寄る金貨みたいなものなのかな?
脛当て、安全靴も新型を貰う。
安全靴はコルスの発案によるもので、村娘も標準装備して不測の事態に対処している。
あれで蹴られると痛い。
先日、トニーが嫁さんのハンナに蹴られて悶絶していた。
鎧は鎖帷子に胸当て。
その上にサーコートと呼ばれる貫頭衣みたいな布を被る。
気分は十字軍だ。
マントを貰えたのが、今回最大の収穫だろう。
「クロフツ爺さんお手製だ。」
村一番の革職人の技が光る、翼竜の翼をマントにしたものだ。
このセカイでは相当高級な部類に入る。
入手難易度が非常に高い代物だが、コルスが二頭討伐したお陰で大きな恩恵を受けていた。
「コルスとお揃いだね。」
「そういうことになる。」
これらをすべて揃えると、いっぱしの戦士みたいに見えないでもない。
「明日の模擬戦では頑張るように。」
「なんやてえ? せやかて、工藤!」
「だれが工藤やねん。ま、ぼちぼちやりや。」
あ、明日は大変だ!
翌日。
私は体中に痣を作った。




