第七四話【春祭Ⅱ】
俺の名はトニー。
タロン村の村長をしているナイスガイだ。
コルス春祭仕様にドキドキして、ちょっぴり危なかったのはここだけの話だ。
付け毛して長い髪になって、女の子の恰好をしていてただ可愛いだけなんだ。
それだけなんだ、それだけ。
ハンナに知られたら、泣かれてしまう。
いや、わかっているんだよ。
コルスが男の子だってのは。
うん、わかっちゃいるんだ。
えーと、なんだったっけか?
そうそう、ケニーの嫁さんたちになるお嬢さんたちをアラルコン村まで迎えに行かないといけない。
トキタとかいう、元公爵家専属執事の食えない爺さんと一緒だ。
美人秘書の方がよかったな。
この爺さん、話の聞き方が上手い。
少ない言葉で鋭い質問をしてくる。
夜明けから丸一日馬車に揺られて日が落ちる頃、海沿いのアラルコン村へ到着した。
豆粒のように小さく沖に見える船が、元公爵家に残った財産のひとつだそうである。
トキタの爺さんによると、明日の午後には到着するだろうとのことだ。
先触れの小型艇に乗っていた可愛いメイドさんと打ち合わせをして、行動の詳細を詰めておく。
エールを軽く一杯やろうとしたら、爺さんに止められた。
ちぇっ。
翌日、元公爵家令嬢たちとその母親を間近で見ることになった。
謁見だ、謁見だ。
……ちと違うか。
ハンナより年上の子、同じくらいの子、少し下の子の三人組だ。
そう、聞いている。
どんな子たちかな?
ん?
…………。
……なん……だと!?
めっちゃ別嬪じゃねえか!!
ケニーの野郎!!
こんな綺麗どころの娘たちと結婚するだなんて!!
なにをどうやって、どう上手くやりやがったあ!?
あんの野郎め!!
ムカムカするぜ!
俺の心が嫉妬に燃える、ケニーを倒せと囁き燃える!
「嫉妬は見苦しいですぞ。」
執事の爺さんが後ろから囁いてきた。
わ、わかっているっつうの。
お、覚えてやがれ、ケニー!
温泉村に戻ると、祭の準備を既に終えていて行商人の露店が幾つも設営されていた。
商談を始めている気の早い奴らまでいた。
胸元を強調した、フリルいっぱいで短いスカートを着た若い女連中が村を闊歩する。
美少女仕様のコルスが、ひなびたおっさんのケニーと一緒に指示を飛ばしたり様子を見ていたりした。
なんでこんな冴えないおっさんに、綺麗な嫁たちが嫁ぐんだろう?
「トニー様には、それはそれは可愛らしいハンナ様がおられるではありませんか。」
またまた後ろから囁かれた。
俺の心を読まないでくれよ。
花々の咲き乱れる温泉村で春祭が始まった。
例年よりかなり沢山の人々で賑わっている。
コルスが率先して宣伝した甲斐があったな。
露店もかなり増やされているし、扱われている品も多様だ。
村外れまで増設した仮設宿屋さえ満員御礼状態で、コルス考案による簡単なテントが幾つも急遽作られた。
村の家の空いている部屋もすべて客室に転用され、身元の確かな者がそこに泊まる。
もてなしを徹底するようにとコルスからの指示に基づき、村は積極攻勢真っ最中だ。
ちなみにちゃんとした宿屋は女子供優先である。これはコルスの指示だ。
コルスやハンナに話しかける奴らを見かけると、ムカムカする。
朝から串焼きをせっせと作りながら、黒い気持ちが止まらない。
煙が目にしみる。
「トニー、調子はどうだ?」
「ああ、悪くはないぜよ。」
いつものように話しかけてくるコルス。
いつもと違う雰囲気が俺を戸惑わせる。
ケニーが貴婦人や令嬢たちを真っ赤になりながら案内しているのを見て、どす黒いナニカが靄のように心を覆う。
「トニー、手が止まっているぞ。」
やさしくコルスが言う。
そんなにやさしく見つめないでくれ。
俺は……俺は……この気持ちは…………。
不意に後ろからぽんぽん、と背中を叩かれた。
振り向くとハンナがいる。
「後でちょっとお話しようね。」
首を絞めたばかりの鶏を持ちながら、彼女はお日様のように微笑んでいた。




