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第七三話【春祭Ⅰ】

温泉村では年一回、春に大規模な祭が開催される。

近隣のロマラン村やハミルの街のみならず、周辺の村落や街からも人々が訪れる。

娯楽の少ない世界に於いて、祭は貴重な喜びの場。

そして、男女の出会いの場でもあり、その年の商談が行われる経済活動の場でもある。

要は一遍にすべてやっちゃえという期間。

寒さを離れつつある、春のうららかな日を予想しての三日間がハレの日々だ。

花々の咲き乱れる小さな村は特産品を並べた露店が立ち並ぶのが通例だが、今年はコルスとケニーによる梃子入れが多く為されていた。

祭の際に着用される衣装の意匠は胸元を更に強調してフリルを多用した膝丈のものに改良され、ハミルの街やオーファーアイセルの街などで事前に宣伝活動を行った。

『特宣隊』と呼ばれる可愛い娘たちをコルスが自ら率いて、宣伝に努めた。

コルスも女装してこの新しい意匠の衣装を着用し、多くの男性を魅了する。


「使えるものはなんでも使う。当たり前だろ。」


宣伝は思った以上の効果を表し、コルスは数多くの男性から声をかけられた。

世が世なら事案である。


広報活動の結果、例年より多数の観光客が訪れる公算は高く、仮設宿泊施設が幾つも設置され、オークと女騎士のおしどり夫婦も人手として村に呼び出された。

近隣のメルクリン村やタロン村やアラルコン村からも有志を募り、温泉村は活気に満ちている。

ウィッグにより長い髪と化したコルスは村の女性陣によって美少女化され、彼はその姿のままてきぱきと指示を飛ばしていた。

商隊も続々到着し、馬車を倉庫兼宿泊施設にして露店の準備を始めている。

コルスと知り合いのおっさん系行商人たちも、ポカンとした顔で彼の可愛らしい女装を注視していた。


コルス春祭仕様は性別問わず人々の琴線を鳴らし、それは祭の最中も猛威を発揮しそうだ。

祭の夕方からは、リーネやサーニャらと共に酒場で看板娘になるらしい。

綺麗どころを集中運用しての積極攻勢だ。

コルスお得意の一点集中砲火が為される。

男たちの財布はどんどん軽くなるだろう。


村の男衆も何故かコルス春祭仕様におっかなびっくりといった感じで接していて、なんだか微笑ましい。


「あ、あのよ、コルス。」

「なんだ、トニー。」

「お、お前、本当は女の子だったのか?」

「落ち着け。女装をしているだけだぞ。」

「そ、そうだよな。は、ははは、お、俺、なに言ってんだろうな。」

「トニーは元公爵家の姫様たちの受け入れ方面を担当してくれ。そろそろ来るらしい。本当はケニーを充てたいところだが、戦力的に回せないんだ。頼む。」

「お、おう。俺とコルスの仲じゃないか。任せとけ。」


顔を真っ赤にしながら、マッハの勢いでアラルコン村方面行きの馬車に向かうトニー。

可愛い子からの頼まれごとには弱いのだった。

それでいいのか、トニー。




村が祭仕様になってゆく。

気の早い観光客が訪れて、ちょっとエッチい服装の娘たち相手に財布の紐を緩めていた。

あれでは早々に財布がすっからかんになるであろう。

私は届けられたアラルコン・エールの樽を確認しながら、自分自身が結婚することに現実感を覚えられないでいた。

実質的には婚約だが、おっさんな私が可愛い貴族の娘さんたちと結婚ねえ。

上手くやっていけるのかな?


「ケニー。」


後ろから声をかけられた。


「あ、悪い、コルス。樽はきちんと予定通りの数が届いている。」

「それは重畳。きりきり稼ぐぞ。」

「コルスは儲け話が好きだねえ。」

「稼げる時に稼がないと、飢饉の時に一発でやられる。交易路を広げ、いざという時に備える。有事に対処するのは当たり前だろ。」

「なんだか、ミニ共和制ローマみたいだね。」

「特に詳しい訳じゃないが、ローマ人の考え方は随所で参考になるからな。稼ぐためなら女装だってやるさ。」

「可愛いよ、コルス。」

「リーネがこの姿にとても興奮していたから、特定層を直撃すること疑い無しだ。」

「トニーたちやアヘヒロまでなんだか様子が違う。」

「可愛いは正義だからな。」

「あれ? それ、こういう時に使う言葉なのかい?」

「さあな。兎に角、三日間で稼げるだけ稼ぐ。売れるものはなんでも売る。なにか質問はあるか?」

「ノー、サー!」

「よし、行くぞ!」

「イエス、マム!」



もうじき、祭だ。

この一年の稼ぎ時。

天候も安定している。

沢山人が来るといいな。






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