第七〇話【おっさん転移者はこんなに役職を兼任してたまらない】
「少佐! 少佐! しっかりしてください!」
薄暗い部屋だ。
いや。
此処は艦橋か。
私は……指揮官?
「ご無事でなによりです。」
副官が豊かな胸を押さえてうつむく。
「直撃か?」
「右舷に一発。既に消火済みです。」
「トーマとカーマは?」
「両艦とも撃沈は免れましたが、中破状態です。」
「敵艦隊は?」
「駆逐艦を二隻撃沈。巡洋艦一隻小破。残る駆逐艦二隻は大破、旗艦らしき重巡洋艦一隻は健在。」
「撤退する。光子魚雷は全弾使え。プロトン砲は二〇秒ごとに発射。本艦を殿軍として、後退を始める。では作戦開始!」
「左舷被弾! 消火を急げ!」
「プロトン砲の直撃来ます! 取り舵一杯!」
「小破した巡洋艦に集中砲火をかけろ!」
「駆逐艦から光子魚雷が放たれました!」
「全力で回避しろ!」
「巡洋艦一隻の撃沈を確認しました!」
「撹乱用のアルミニウムをばら撒け!」
「巡洋艦から光子魚雷多数! 直撃来ます!」
激しい震動。
重力発生装置が切れ、私は天井に頭をぶつけて失神した。
夢か。
頭が痛いので押さえたらたんこぶが出来ていた。
「なあ、ケニー。」
「なんだい、コルス。」
「地下迷宮というと名古屋かなあ。」
「梅田じゃない?」
「東京駅もけっこう迷宮化しているような気がする。」
「新幹線は品川で乗り降りした方が楽だね。」
「異世界への転生・転移特典として補佐役を付けて貰えるとしたら、誰がいい?」
「長門有希。」
「いいねえ。」
「ウリクルもいいな。」
「いいねえ。」
「郭嘉もいいぞ。」
「陳宮もいいね。」
「赤毛のお兄さんは?」
「ますますいいねえ。」
「なあ、ケニー。」
「なんだい、コルス。」
「記憶というのは年々薄れゆくものだ。」
「なにしみじみと言ってんだい。まるでお爺さんみたいじゃないか。」
「転生者と転移者の違いは記憶力の違いが大きいかも知れないんだ。」
「そうなのかねえ。」
「オレが本を執筆しているのは知っているだろ。」
「ああ、手伝っているからよーく知っているよ。」
「じわじわと記憶が薄れている実感はあるんだ。」
「『生まれ変わり』、の子供みたいなものかね。」
「たぶん、そうなんだろう。今年八歳になって、あと七年で成人だが、その頃には前の世界の記憶は殆どないかもしれない。」
「そういうものかな?」
「そういうものだよ。」
「じゃあ、今のうちに出来る限りのことをやっておこうじゃないか。」
「ケニーが来てくれて、本当に助かっているんだ。礼を言っておく。」
「水くさいな。友達だろう? 助けるのは当然のことさ。」
「そう言ってもらえるとありがたい。ケニーには役職を与えないとな。」
「いいよ、そういうのは。」
「そうもいかんさ。オレが後ろ楯になれなくなった時の保険だと思ってくれ。」
「コルス……。ありがとう。」
「どういたしまして。」
「ところで、温泉村で賭場を開いたり、博奕を行ったりはするのかい?」
「そうだな。よし、ケニー。賭場を任せる。酒場は普通にあるから、これで呑む打つ買うが揃うぞ。ついでに娼館も頼む。」
「ちょ、ちょっと待ってくれ。私は話を振っただけで、自分自身で経営したい訳じゃない。それにそんなに私が経営出来る訳ないじゃないか。」
「大丈夫だ。慣れた奴を配下に付けるから。『頭』が要るんだよ。」
「頭なら、他の人も持っているだろう。」
「そっちじゃない。かしらの方だ。」
「パチンコもアッハンなお姉さんもろくに知らない童貞になにが出来るというんだ?」
「抑えが出来たら上等だ。ちなみに全都道府県で、パチンコ屋の普及率が人口比一位は宮崎県だ。」
「宮崎県の人って、そんなにパチンコ好きなの?」
「さあな。例えば函館は競輪場も競馬場もあるが、博奕狂いが多いとは言わないだろう。」
「そういうものか。」
「そういうものさ。」
「賭場はどうするの? 壺振りの人がいて用心棒がいるようなのはやだよ。」
「なにを想像しているんだ。まあ、小遣い稼ぎが出来たらいいなあ、くらいがいいだろう。それでもハマる奴はハマるが。」
「博奕に狂うとこわいからね。」
「同感だ。だから、ワトスン博士が楽しんだであろうドッグレース系を導入する。」
「ドッグレース?」
「競馬の犬版だ。」
「ふうん。」
「コオロギや鶏も考えたが、どちらも無理だからそれがいいだろう。」
「で、女の子の方だけど。」
「盗賊野盗山賊の類の女性犯罪者を何人か捕縛して、村外れの迷宮に収監しているんだ。」
「はい?」
「冒険者という、派遣業みたいに不安定な職業があるだろう。」
「うん。」
「今の平時は職業としては特に大成しにくい。三年も芽が出なければ、人は先ず腐る。腐らず努力しても、五年で頭打ちになりやすい。そうなると、どうなる?」
「破れかぶれになる。」
「そうだ。社会保証制度とか、年金とか、そんなものとは程遠い世界だからな。落ちぶれるのはあっという間だ。女性ならば、堕ちたら大抵娼婦か犯罪者だ。娼婦ならば性病や望まぬ妊娠・出産という問題があるし、犯罪者になったら捕まり次第拷問凌辱の末に打ち首だ。凌辱を除いては男も女も同じだ。……いや、アーッ! なこともあるか。」
「……むごいな。」
「だから、犯罪者は男女訪わず残忍酷薄になる。居場所が知れて捕まれば、それで人生終了だからな。情状酌量や人権なんてもんは、豊かで平和な法治社会にしか存在しないんだよ。収監した女性陣を大人しくさせたが、器量はみないい。取り敢えずは娼婦で始めて、なにか別のことが出来そうなら他のことをさせよう。誰かと仲よくなったら結婚させるという手もある。柔軟にいこう。」
「で、その女の子たちを束ねるのが私? 無理だろう。扱い方がわからないし。」
「大丈夫、ケニーは女の子にモテるから。」
「嘘だっ!」
「本当だって。あんなに色目を使われたり誘惑されているのに。」
「えっ?」
「えっ?」
「冗談だろう?」
「こんなことで冗談は言わん。」
「……コルスがそこまで言うってことは既定路線なんだね。」
「まあ、そうなるな。」
「わかった。」
「わかってくれるか。」
「ああ、勿論だ。」
「よし、ケニーはドッグレースが開催されるあの建物の総責任者になるのでよろしく。」
「はっ?」
「補佐は付ける。おきばりやっしゃあ。」
「えっ? えーっ!?」




