第七話【命の妙薬】
ちょっと時代小説風味。
職人的分野に於いて高い技術力で名高いドワーフは髭もじゃの種族で、酒をこよなく愛することでも知られる。
彼らは特に酒の情報交換に熱心で、旨い酒のためなら遠路もいとわない。
そんな彼らが妙な情報を手にした。
温泉村で絶品の林檎酒が醸し出されていると。
彼らも林檎酒を呑まないではなかったが、その度数の低さと甘さから敬遠気味である。
違うのだ、とその情報をもたらしたドワーフは震えながら言った。
場所はハミルの街の酒場。
周りはドワーフだらけだ。
「ワシもな。初めは半信半疑だったのだ。温泉村の少年から一杯貰うまではな。」
温泉村は良質の温泉と林檎が有名で、そのドワーフは傷を癒すために温泉旅館で湯治に行ったのだった。
歴戦の冒険者であるドワーフは村に闇エルフの少女が住んでいることに驚いたが、それをなんとも思っていない村人たちにも驚いた。
少女はコルスという少年と共に暮らしているらしい。
そのコルスはドワーフに冒険譚をせがみ、彼は村の子供たちに冒険の数々を語ってみせた。
その礼だと言って少年が寄越したのが林檎酒だ。
「林檎酒か。」
ドワーフは何気なく言う。
「呑んでみな。」
にやりと笑う少年。
そして、熟練の冒険者は新しい世界を知った。
「ワシはな、あの村に住もうと思っておる。」
男が定住化を拒んでいたことは皆知っていたから、周りのドワーフは驚いた。
「さほどに旨いのか?」
「ああ。あの酒のためなら、温泉村に住むのは悪くない。」
ざわり。
どよめくドワーフたち。
「あれは商人たちが高値を付けるに足る酒だ。故にワシらの喉を潤すには程遠いだろうて。だが。」
「だが?」
聞き手は鸚鵡返しする。
「コルスの友人になれば、酒も簡単に手に入る。なにより。」
「なにより?」
つられて再度鸚鵡返しする聞き手。
「貴族や王族よりも旨いものを当たり前に喰える。それはドワーフ冥利に尽きることだ。ではな、皆の衆。」
からからと笑いながら、戦士はドワーフたちの元から立ち去った。
「コルス……それほどの者か。」
誰かが一人ごちる。
程なくして。
田舎と闇エルフと旨い酒と料理を天秤にかけ、偏見に勝ったドワーフたちが温泉村やその近くへ多く住むようになった。