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第六八話【ハイマスター】

歴戦のニンジャであるマスター・フーマの朝は早い。

体をほぐすために近隣をひとっ走りする。

戦闘速力を維持しつつ一気に駆け抜ける。

フーマ衆の頭目の彼は体を鍛えることに余念がない。

戦闘機械たる自己を研磨して、更なる高みを目指す。

ニンジャはそういう生き物だ。





先日、長年一緒に組んでいた男が異世界から転移したおっさんに敗れた。

敗れたからには、その相手に従わねばならぬ。

それがニンジャの掟だ。

そういう訳で、彼は現在ケニーという男に従っている。





ニンジャの業務は多岐に渡る。

炊事洗濯掃除といった家事から、書類業務農業漁業林業酪農謀略交渉調略斥候土木作業恋占いとあらゆる分野での能力を要求される。

一人でこなせる筈はない。

よって、何人ものニンジャが分身の術を扱うが如くに多方面で奮闘することになる。


フーマ衆を構成するのは頭目、上忍、中忍、下忍の四種。


頭目はマスター・フーマのことで、ニンジャのあらゆる技能に精通した最強の忍び。ハイマスターとも呼ばれ、嘗ては何人かいたらしい。かの狂王の迷宮にも出没したそうな。

上忍はハイニンジャとも呼ばれる頭目の側近。

中忍はマスターニンジャとも呼ばれる実力派。

下忍はニンジャ軍団の基幹戦力たる戦闘員群。


帝政ローマ風に言うと以下の如し。

頭目は前線指揮官も兼ねる軍団長。

上忍は指揮能力に長けた千人隊長。

中忍は鋭い判断力を持つ百人隊長。

下忍は軍団の手足となる戦闘工兵。


マスター・フーマが体をほぐして村へ戻ってくる頃には、各地に潜ませている『草』たちからの報告をまとめた秘書の中忍が彼を待ち受けている。

彼女から報告書を受け取り、口頭での報告を聞きながら情報を取捨選択してゆく。

断片ではさほど意味のなさそうな情報も、他の情報群と擦り合わせることで重要な意味を帯びてくることがある。

何気ない噂話。

行商人の持ち寄る商品の変化。

旅人たちから得られる伝聞。

思い込みや偏見などを極力排除して精査してゆく。

すると、浮かび上がってくるものがある。

それを掴み取るのだ。


朝食を秘書や若いくノ一たちと取りながら、彼は頭の中身を高速回転させる。

盟友の主君になったケニーの元へ情報を報告に行く。

大抵彼はコルスと一緒なので、報告が二度手間にならなくて都合がよい。

北嶺にある温泉村にとって、確度の高い情報が複数あることは大きな戦力になる。

いつの時代も情報は貴重な品だ。

判断出来なければ持ち腐れだが。

コルスにはそれがわかっている。

ケニーはそれがわかりつつある。

ミトラス帝国と通じているアヘヒロを優遇しているのもその為だ。

お互い様なのだから。





休憩時間になったマスター・フーマは村北部にあるオサミシ山脈の峻険な山肌に挑戦しようかと思ったが、部下の娘たちの柔肌に止められた。

携帯糧食を開発しているので、それを試食して貰いたいというのだ。

致し方なし。





夕刻。

逢魔が時。

マスター・フーマは自らの影と対峙する。

静かに時を待ち、手刀の一撃喰らわせる。

先を尖らせた鉄の棒を投げ、闇に潜んだ。





夜。

マスター・フーマは温泉にゆったり入る。

彼の脇は美しき側近たちが防備していた。

手拭いひとつあれば簡単な戦闘が可能だ。

常時高速回転している頭脳も今は休みだ。

風呂から出れば彼は体を揉みほぐされる。

美しい部下たちが上司の全身を攻略する。


やがて、彼は眠りの舟に乗船する。

新しい戦いのために機能を休める。


魂を震わせる死闘のために。

全身全霊持ちて戦うために。






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