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第六七話【地下は奇書に埋め尽くされた図書館】

コルスは大抵週に一回、ハミルの街の図書館に行く。

図書館は入館証が必要でそれは銀貨一枚かかるから、用のない者は訪れない。

領主である伯爵は見栄っ張りだから、蔵書の質はかなりよい。

ただ、よいとはいっても地方都市としての『よい』だから、遠路遙々旅人が訪れることは先ずない。


人口一万ほどの地方都市は周辺の規模で考えたら大きい方だが、百万規模の王都や帝都に比べるべくもない。

よって、司書は大抵暇である。

日に一〇名も来たら、かなり多い方だ。

利用者は大抵学者か役人で、過去の時物の確認や昔の実例を参考にしたりが殆どだ。

ハミルの街は芸術や学術を標榜する都市でないので、まあこんなものだろう。


蔵書が急に何冊も増えることなどないし、書物の貸し出し持ち出しは原則的に禁止だから、出入口の防犯用魔方陣が機能しているかどうかの確認や来訪者の身元確認などが司書の主な業務である。

魔法の技術の大半は失われたが、一部は今も使われていた。

魔方陣も比較的に簡単なものならば、それなりに流通している。


役人や学者に対する受け答えがきちんと出来なければならないのは司書の必須事項で、知性派でないと勤まらない仕事だが一方では閑職と見なされていた。


司書のアネッタはまだ十代半ばだが優秀な少女であり、男ならば出世街道を順調に昇っている筈だが現在進行形で停滞している。

適当な時期に結婚を勧められて寿退職するのが関の山だろう。

何度か領主である伯爵の息子の子爵がかなり激しく女性の地位向上を父親に訴えたが、のらりくらりとかわされてうやむやにされた。

子爵は善良な青年だが、まだまだ父親のしたたかさには及ばない。

アネッタにしてみれば、それはそれで仕方ないと思う。

子爵には個人的に感謝の気持ちを覚えるが、もし彼女が出世しても喜ぶ者は大していないだろう。

むしろ、憎まれて足を日っ張られるのがおちだ。

現在の仕事も閑職と見なされているから、比較的誹謗中傷が少ないのだ。

それでもうるさい輩は絶えないし、やっかみは確実に存在する。

しかも、若き娘のこの役職を狙う有象無象は意外と少なくない。

知識職だから相応しくない者はなれない筈だが、貴族の娘の箔付けと考える者もいる。

そういう輩への対応策として司書補という名前だけの役職が設けられ、希望する貴族の娘に便宜的に与えられた。

知識人からは反対意見も出たし、図書館勤めを出来そうにもない娘がなるには問題のある役職である。

しかし一定の需要があるから、名誉職的に与えられていた。

実際に図書館へ来る娘は殆どいないのが救いである。

余程無謀でない限り、娘の側も理解していた。

なにより、知的な者から見下されるのは無意識的意識的問わずたまらないことだから。

たまに妙に張りきった令嬢がやってきて、図書館はてんやわんやになる。

貴族の令嬢に正面きって文句を言える者など、数えるくらいしかいない。

そうした事例がここ数年で何件か発生したため、最近は司書補の役職は慎重に与えられることになった。

今更ではあるが。


たまたま王都から訪れたある老魔法使いがアンポンタンな司書補から被害を受け、激怒した時は大変な事態に陥った。

伯爵が魔法使いに謝罪した話は瞬く間に広がり、領主である彼の評判はがた落ちになった。

評判が悪いのは今更だが。

子爵がその件で涙ぐましいまでに奮闘したので、街の人々は表向き領主の悪口を言うのをやめた。

ハミルの街を支えているのは子爵だというのが大半の住人の見解である。

彼の奮闘で人口は増加傾向にあるし、生活水準は向上している。物価も安定方向であるし、なにより子爵は小さな頃から人気が高い。

父親が子爵の人気を利用しているのではないかと疑う向きもあるが、そこまで賢いものかよと笑われるのが常であった。





アネッタはコルスが気に入っている。

ちょっとおっさんくさいところが感じられて気になることもあるが、幼いながらも知識人であることは確かだったから、彼女の彼に対する評価は高い。


コルスは近頃村のてこ入れに夢中で、それで参考文献を見にきているのだと言った。

彼の手土産の焼菓子やプリンはとてもおいしく、彼女は心待ちにしている程だ。

警備係のフランチェスカもコルスに好意を感じており、三人でお茶会になることも少なくない。

家族や友人たちからはこの頃肌艶がいいねと言われ、きれいになったとも言われる。

確かにコルスと話をすること自体が楽しい。

それは友人である女性騎士も同様のようだ。


コルスともっと一緒にいたい。

もっとすっと傍にいたいなあ。





コルスは女たらしだと思う。

わたしという者がありながら、ハミルの街の女性図書館司書と友人の女性騎士を引き抜いた。

移籍は彼女たち自身の意思によるとされたし、表面上は問題なく移住してきた。

彼は側室や愛人を何人増やすつもりなのだろう?

彼女たちは子爵からずいぶん説得されたらしいが、あっさり退職して温泉村に引っ越してきた。

元司書はコルスの秘書となり、元騎士は彼専属の護衛となっている。


やれやれ。







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