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第六二話【村に道は拓かれる】

「♪騎士が欲しい~小麦粉が欲しい~黒糖が欲しい~オリーブ油が欲しい~珈琲が欲しい~紅茶が欲しい~醤油が欲しい~お米が欲しい~」


妙な節回しにて歌うはコルス。

異世界から転生した七歳の少年で、中の人は美少女声優ではなくてただのおっさんである。


彼は世話好きなショタおかん。


此処は温泉村にある温泉旅館。

コルス一族が経営する旅籠で、庶民から貴族までの幅広い宿泊に対応している宿泊施設だ。


「♪鉱山が欲しい~石炭が欲しい~金山が欲しい~銀山が欲しい~銅山が欲しい~ミスリル銀が欲しい~綿花が欲しい~おやつが欲しい~」


彼は現在、温泉村周辺の詳細な地図になにやら書き込みをしている。

彼の周囲には、三名の人間と二名のエルフと一体の翼竜がいた。

人間は以下の通り。

◆ミトラス帝国のメッサー商会から来た商人兼騎士兼男爵のアヘヒロ。一〇名の婚約者を持つチート野郎巨根兄貴である。

◆騎士見習いのフリートヘルム・キルステンは一〇歳の少年。コルスの護衛として専任騎士とされてしまった、お人好しの赤毛君。現在五歳年上の婚約者がいる。

◆料理と裁縫担当のアンネリーエ・ミュールマイスターは、一五歳の一見儚げ系美少女。中身は肉食系で、婚約者のフリートヘルム攻略戦をお楽しみ中。策士系でエグい戦略に才能を持つ……らしい。


エルフは以下の通り。

◆闇エルフのリーネは外見ローティーンの美少女で中の人は老女。いわゆる、ロリババ。冷静な突っ込み役だがたまにボケる。精霊魔法と弓の名手で薬師。博覧強記で知恵袋。

◆エルフのサーニャは肌が青白く日中は肌が火脹れになるので、屋内で過ごすしかない。村一番の歌姫。おっぱいが大きい。おっとりしたボケ役。


以下、翼竜。

◆翼竜のミューは幼体で赤ん坊。よちよち歩きが村の面々に癒しを与えている。

村の名物のひとつ。「みゃあみゃあ。」と鳴く。つぶらな瞳は悪党をも改心させるとかしないとか。

空は飛べないし、炎も吐かない。今のところ。この子はコルスを親だと認識している。


「♪嗚呼、洛陽の紙価を高めたい~」

「コルス。どこから突っ込めばいいのですか?」


突っ込み役の闇エロフが少年に鋭く突っ込んだ。

だがしかし案山子お菓子。


「♪好きなだけ~やりたいだけ~したらいいじゃない~」

「皆さん、申し訳ありません。コルスが酔ったおっさん状態なので、もうどうにも止まりません。」

「♪止まらない~止まらない~だけど予算がそんなにない~お酒で少し儲けよう~」

「まあ詰まるところ、コルスは欲しいというか必要というか、そういうものを歌に託して語っていると考えたらいいんだな。」

「そう思っていただければ間違いないと思います、アヘヒロさん。」


「♪欲しいものは沢山あるのに~手に入りそうなものもあるのに~お米は何処だ~小豆は何処だ~醤油は誰か作ってないんかい~便利は不便~」

「ところで、ケニーは何処にいるのですか?」

「♪ハミルの街で~初めてのおつかい~じゃなくて~研修へ行った~一週間は帰ってこない~貴方はいない~ケニーはいない~この世界を知るために~この世の摂理を知るために~」


新しくやって来た移住希望者の背後を洗う作業。

調略されているかいないかを確認してゆく作業。

諜報戦。

情報戦。

開発の進捗状況の確認。

酔ったおっさんのように歌いながら、異世界転生少年は指示を次々に飛ばしてゆく。

ローマ街道のような、アウトバーン的高速移動道路の開発も進んでいるようである。

斥候隊のむくつけき世紀末ヒャッハー野郎たちが、汗水を垂らして作業に邁進する。


アヘヒロも忙しい。

商売の打ち合わせに商品の買い付けに帝国への定時報告。

その姿はまさに大車輪。

すべてを知ることは出来ないが、未知の情報や知識の宝庫であるコルスやケニーから吸収するものは膨大だ。

祖国のミトラス帝国は既に多大な恩恵を受けている。

即時に対応出来る皇帝が英断するお陰で。

その一例が備中鍬だ。

通称、ビッチュー。

まだまだ大量生産には漕ぎ着けていないが、幕末の偉大なる山田方谷の工夫は異世界の農業にも大きな影響を与えている。


此処が、この世界の最前線。

アヘヒロがそう思った時、前科数犯は間違いなさそうなヒャッハー野郎どもが旅館にやって来た。


「アヘヒロさんに、是非とも見てもらいたいんです。」


ギラギラした目で、街道の様子を見て欲しいと言った。


「いいでしょう。」


有能な商人の行動力は高い。

何故かニヤニヤするリーネをそれとなく気にしながら、すぐ傍を警護するように歩く元山賊野盗盗賊たちと一緒に歩く。


「すべての道は温泉村に通ず、なのか?」


アヘヒロは一人、呟いた。

幅五メートルを持つ街道。

その両脇にも道があり、今は其処を人や荷馬車が行き来している。

小さな村の事業ではない。

まるで国家事業に見える。

いや。

本来国家の行うべき事業。

そうなのだ。

冬が来るまでに開通する予定らしい。

おそろしい。

時折夜更けにコルスが土砂を斬り飛ばしているため、本来何年もかかる筈の事業がかなり進んでいた。

少年の特殊能力を知らないアヘヒロは戦慄する。

如何な技を用いたのかと。

コルスへの忠誠心あつきヒャッハー野郎たちは、異国の男前な商人を見てにやにやした。

自分たちの行っていることがどれだけ素晴らしいのかを知ることは大切だ。

他意はない。

その筈だ。


「これを見てください。どう思います?」

「とても……素晴らしいですね。」


そう言うと。

彼に密着した無精髭の眼帯男が、ニヤリと嗤った。





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