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第六〇話【斧鉞】

「よお、あんたも徴兵された口かい?」


古参兵らしき男が、私の隣に座った。

光子魚雷が近隣宙域で爆発したのか、少し足下が揺れる。


「やっとカミさんに会えて連日連戦だったのによ、再召集だぜ。まったくよう。」


どうやらとても気さくな人物らしい。

なにかを諦めたような笑顔で、私のような者に話しかけてくる。


「戦況が悪化してんのにこんな旧式を使わせるたあ、一体どういう料簡をしてんのかね?」


確かに。

私は苦笑する。

この巨大な宇宙要塞の整備台には、旧式の人型機動兵器が並んでいる。

同じ機種しか見当たらなくて、悲しい。

戦争の初期に活躍した名機だったが、今の状況を覆せる程の力はない。

新型は出撃中か、撃破されたのだろう。

そもそも国力の差が大きすぎて、敗退的な状況は覆せそうに見えない。

最前線で在庫処分とは、笑えない話だ。


突然、出撃を命じる放送が雑音混じりで聞こえてきた。

女性の金切り声が、空間を割ってゆく。

途端に周りが慌ただしくなった。

要塞の揺れが激しくなってゆく。

ぼんやりしていた整備兵たちが、にわかに動き始めた。


「ちっ、もう出番だよ。あんたもそろそろ準備しな。生還出来たら、『トーリン隊長の仔牛亭』で一杯やろうぜ。」


彼は明るく手を振りながら、彼自身に割り当てられた古い機体に乗り込んだ。

私も先日配備されたばかりの機体の操縦席に潜り込んで、発進準備を整える。

手入れはきちんとされているようだ。

装甲板が閉まり、前右左のパネルが光って周囲を映し出した。

光学機器系統に異常がないことを確かめ、実体弾を使用する大型機関砲の照準誤差を調整した。

最新機体の装甲を貫けない武器ではあるが、使い方次第でそれなりの成果はあげられるだろう。

たぶん。

補助電脳もなんら問題ないようだ。

下手な冗談を言ったら無視された。

無骨な小型の斧は、左腰のマウントラッチに取り付けられていた。

これは刃の部分が高熱化して装甲板を破壊する代物だが、既に時代遅れの産物になっている。


噂では巡洋艦以上の戦闘力を持つ機体が、敵の主力として暴れているらしい。

そんな、おっかない奴とはやり合いたくないな。


「さあ、俺たちの出番だぜ。」


陽気にも聞こえる声で男は出撃した。

出撃命令に従い、推進材を消費する。

宇宙空間に煌めく光は死をもたらす。

その中へ飛び出した。

座標を再確認して、機体の探索装置を動かす。


と、すぐ近くに敵機が見えた。

そんな、バカな!?

戦場にそぐわぬ乳白色の機体。

そこから放たれるは光の奔流。

それは共に出撃した僚機を容易く貫き、回避する間もなく、私の機体にも容赦なく浴びせられた。





目覚めると汗びっしょりだった。

下着は水分でグッショリだった。

隣室で寝ていた筈のフーキーが隣で寝ていたのは少し気になったが、彼女はまだ幼いし、愛情に飢えているのだろう。

まっ、いっか。

下着を換え、裏庭に出る。

ひんやりとした春の深夜。

エルフのサーニャが月を眺めていた。

乳白色のまんまるい天体。

儚い雰囲気の白い肌の娘は無表情だ。

いや、そう見えるだけかもしれない。

私もしばし一緒に眺める。

お互い無言のまま眺めた。


月は冷えた暗い空にきらきら輝いて、それはそれは美しく見えた。





翌朝、脱いだ下着が見えなくなっていた。

フーキーは知らないという。

記憶違いなのか?

よくわからない。





スコン。

そういえば、とある格闘漫画で斧鉞ふえつって技が出てたな。

スコン。

最初の頃はなかなか上手くいかなかった薪割りも、今ではなんとかこなせるようになっていた。

スコン。

手斧を降り下ろす。

スコン。

ん?

振り返ると、村娘たちが私を見つめていた。

何故かフーキーも混ざっている。

スコン。

なにが楽しいのかねえ。

スコン。





風の強い、春の午後。

肌寒い。

何故かトニーが憤怒の表情で、私に木剣を渡してきた。

温泉村の東にあるタロン村の若き村長と愉快な仲間たちが、私を取り囲んでいる。

時代劇かマカロニ・ウエスタンか。

或いはランバージャック・デスマッチか。


トニーの剣は普段、意外と堅実だ。

だが。

今はがむしゃらな殺人剣であった。


「トニー、なんのつもりだ?」

「お前のモテるのがいけないのだよ。」

「謀ったな、トニー!」

「俺からの手向けだ!」

「やらせはせん! やらせはせんぞ!」

「認めたくないものだな。余所から来た奴の方が数段モテるという現実は。」

「トニー、それは勘違いだよ。」

「なにを言うか! 貴族の娘たちだけでは飽きたらず、様々な娘に手を出す悪党め!」

「私はモテないぞ。結婚だって、いつの間にか決まっていたし。村の女の子たちにモテているなんて、そんなことがある訳ないだろう。」

「黙れ!」

「そもそも、トニーにはハンナちゃんがいるじゃないか。それに、みんなにも嫁さんがいるし。私は何故弾劾されるんだ? 訳がわからないよ。」

「モテるお前に俺たちの気持ちがわかる筈などないからさ! ちなみにハンナは、俺の母になったかもしれない女性なのだよ!」

「確かに包容力が半端ないよな。あの子はいい子だ。それに、みんなの嫁さんたちもいい子揃いだ。」





時間稼ぎしたお陰で、トニーと愉快な仲間たちはハンナ率いる幼な妻軍団に引き取ってもらうことが出来た。


絶望的なトニーたちの顔は印象的だった。

頑張れ、兎に角頑張れ。

……。

私がモテているだと?

それはなんの冗談だ?

私は童貞のおっさん。

今まで女の子と付き合ったことさえない。

まあ、もう少ししたら、知らない間に決められた婚約者が海を渡って来るんだけど。

……。

弱ったなあ。

中学生くらいの女の子と、どう付き合ったらいいのかさっぱりわからん。

……まっ、いっか。

なんだかまた大きくなったような気がする、仔牛の一太郎の体を洗おう。

そうしよう、そうしよう。

村娘たちからさりげなく渡された布切れで体を拭くと、それらはすべて彼女たちが持ち帰った。


みんな清潔だな。

改めて感心する。

見習わなくては。






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