第六話【娘三人】
オレの名はコルス。
なんちゃってファンタジーな世界に転生した元おっさんで今は温泉村の温泉旅館に住む七歳の少年だ。
突っ込みどころが多いような気もするが、気にしないでくれ。
温泉村は寒冷地にあり、林檎と林檎酒と林檎の加工品が特産品だ。
最近知ったのだが、この世界では温泉村より北にまとまった集落はないらしい。
ちなみに温泉村は二〇〇人くらいの規模でハミルの街は一〇〇〇〇人くらいだ。
温泉村を三日ほど南に歩くと隣のロマラン村に着き、更に三日ほど歩くとハミルの街に着く。
温泉村の北には雄大なオサミシ山脈が拡がり、山脈を越えた北になにがあるかは殆ど知られていない。
オサミシ山脈は薬草の宝庫で尚且つ遭難者続出の死の山脈でもある。
オレの特殊能力である空間把握は現在オサミシ山脈からハミルの街まで検索可能で、水分が含まれたものならばなんでも操れる特殊能力は、さほど知性的でないものをしもべに出来る力でもあることが判明した。
こえーな。
気をつけよう。
温泉村から北に一日歩くくらいにある、渓谷の洞窟を拠点にする盗賊団を発見したのは偶然だった。
朝起きると空間把握に努めるのだが、前日までいなかった連中が引っ掛かった。
人数は二八人。
騎士崩れと戦士崩れがいる。
そういや、一週間前から移動していた連中がいたな。
こいつらか。
敵対させて殺し合わせようか、それとも畑の肥料にしようか、それとも……。
「コルス、なにか悪い企みをしていますね。」
闇エルフのリーネがいつの間にか傍にいた。
「オレ、悪い子?」
「ええ。いつもはいい子ですが、時々学者になったり商人になったりしていますね。今は悪い人の顔をしていました。」
「えーとね、悪い人たちをやっつけるか利用するかで悩んでいたんだ。」
「突っ込みどころが多すぎて困りますが、悪党の討伐ならば冒険者ギルドに依頼した方がよいのではないですか?」
「温泉村の冒険者ギルドは出張所規模だし、専属冒険者はいない。今いるのは五級の冒険者見習いたちだ。盗賊団は二八人。騎士崩れや戦士崩れがいるから、返り討ちに逢うのは目に見えている。」
「戦うつもりですか?」
「ううん。」
「えっ?」
「実験台になってもらおうと思う。」
翌日の午後。
仕事が一段落したオレとリーネが盗賊団の拠点に行くと、丁重に迎えられた。
オレの命令に絶対服従するように暗示を与えてみたのだが、上手くいったようだ。
騎士崩れの頭目が麻袋をオレに渡す。
「ご指示のありました薬草を集めておきました。」
「わかった。ありがとう。これがお前たちの報酬だ。」
林檎に林檎酒にパンに漬け物や干し肉などを与えた。
「我らの主君に永遠の忠誠を!」
盗賊団の皆が唱和し、オレに頭を下げた。
連中が連れていた奴隷娘三人を引き取り、魔法の絨毯でオレは村へ戻った。
姉貴くらいかオレくらいの女の子たち。
痣や傷が多かったので翼竜の血を飲ませる。
彼女たちを風呂に連れていってよく洗い、飯を喰わせたら眠ってしまった。
「コルスはこの子たちを妾にするつもりですか?」
手伝ってくれたリーネが訳のわからないことを言い出した。
「は? なんでさ?」
「貴方も男の子ですし、わたしだけではもの足らなく……。」
「オレ、マセガキ確定?」
「えっ、違うのですか?」
「……。あの子たちはこのままだとじきに死ぬ。だから引き取った。かーちゃんが雇い人がどうこう言っていたから丁度いいかもしれない。駄目なら、オレの手下だな。」
「そしてどんどん女の子が増えてゆくのですね。」
「しないよ。するつもりもない。」
「盗賊たちはあのままにするつもりですか?」
「まあね。」
「男ばかりになりましたが、大丈夫でしょうか?」
「互いに愛しあっているから、大丈夫だろうさ。」
「はい?」
「夜は近づかない方がいいぞ。」
「……一ヵ月もちますかしら?」
「春先まで生きていたらびっくりだな。」
二回目の薬草を受け取った次の日、ハミルの街から騎士団と冒険者たちの合同討伐隊五〇人がやって来て、温泉村を前線基地にした。
盗賊団は悪名高き組織らしい。
子爵の兄ちゃんが指揮官としてやってきて巧みに指揮を取り、盗賊団を分断して一気呵成に潰した。
完勝した彼らは温泉村で一泊した後、ハミルの街に帰ることになった。
その夜、兄ちゃんがオレの部屋にやってきた。
オレとリーネとオレ預りになっている奴隷娘三人の五人いる部屋は手狭で、現在離れを増築予定だが、奴隷娘三人はオレから離れようとしない。
「今、いいかな?」
兄ちゃんが困惑した顔をオレに向ける。
「いいよ。」
「その子たちは?」
「オレが買った。」
「マセてるなあ。」
「違うって。村の労働力強化策だよ。」
「コルスは相変わらず難しい言葉を使うね。二つ聞きたいことがあるんだ。」
「なにかな?」
「盗賊の頭だけじゃなくて、みんな勇敢でね。技量じゃこっちがまさっていたけど忠誠心はあちらが上だったんだ。」
「ふーん。」
「奴らは全員逃げることもなく投降もしなかったから討ち取ったけど、『我らの主君に栄光あれ!』って言いながら突撃してきたんだ。あれはちょっとこわかったな。」
「それで?」
「なにか知らない?」
「さあ?」
「……あとね、連中は奴隷娘を連れていた筈なんだ。でも、どこにもいなかった。」
「ふーん。」
「コルスやリーネと似た年代らしいって話なんだけど、盗賊団は全員死んじゃったし、こっちの方も訳がわからない状態なんだ。」
「オレの方でなにかわかったら連絡するよ。」
「そうしてくれると助かる。」
「兄ちゃん。」
「なんだい?」
「ヒメネスを一樽上げる。」
「二〇年ものの林檎酒か?」
「皆さんへどうぞ。オレからの気持ちさ。」
「し、しかし……あれは樽だと金貨二枚の価値が……。」
「野暮なことは言いっこなしさ。」
「コルスはこの子たちを大切にするつもりか?」
「当たり前だろ。」
「そうか。ならいい。林檎酒は皆でありがたくいただくよ。」
奴隷娘三人は、どうやら闇市で買われたらしい。
主人が曖昧だったので、所有権はあっさりオレに移った。
隊商のおっちゃんに後日確認したところ、幼い娘や老人は使い捨て前提なので所有権はゆるいらしい。
働き盛りの連中だとかなり厳しくなるが。
翼竜の血と温泉効果で奴隷娘三人は色艶がよくなり、笑顔を見せるようになった。
今最大の問題は三人がオレから離れようとしないことだ。
朝から晩までまるで忠犬だ。
なんでこうなった。