第五八話【命を吹き込まれたもの】
それらはオリハルコンで出来ていた
騎士の持てる最高の力
勇者が使えば強力無双
きっと勝利をもたらす
そういう力の源だった
魔王に立ち向かえる力
それらは力を尽くした
魔王は死闘の末に死す
それらは壊れてしまう
直るには時間がかかる
地下深くで眠りにつく
力ある者来る時を待つ
それらはオリハルコンで出来ている
「少し鎧関係の話をしようか、ケニー。」
「そうだね、コルス。」
「十字軍で板金鎧な全身鎧を着た騎士が蒸し焼きになってけっこう死んだ、と末弥純さんが『LOGOUT』で書かれていた。」
「おお、あの美しい絵を描かれる人か。」
「あの随筆は加筆して出版すべきだったと思う。やたらでかい楯の話も面白かったしな。」
「コルス、脱線している。」
「そうそう、全身鎧ってのは脱ぐのも着るのも大変で、一人では無理。重量も二〇キロかそれ以上で、騎兵は従者がいないとなにかと不便。」
「ふむふむ。」
「ラ・マンチャの騎士がサンチョ・パンサを従えているのは、鎧的に正しい。」
「老騎士が落馬したらば、それこそ大変だろうな。」
「十字軍に従軍した騎士たちは我慢に我慢を重ね、暑い戦場で熱中症や熱射病になって次々に死んだ訳だ。」
「真夏と真冬に全身鎧を着たら、寿命が縮まるね。」
「そこで、騎士たちは鎖帷子を着るようになった。」
「ああ、そういうことか。」
「物事にはちゃんと意味があるんだ。彼らはプレートメイルな全身鎧からチェインメイルな鎖帷子になって、その上にサーコートと呼ばれる服を羽織った。熱対策だな。」
「ほうほう。」
「時期や階級や諸事情で板金鎧を着る連中もいたみたいだが、サーコートは必需品だった。実用性以外にも地位や権威を示すことが出来たし、便利だったからだろう。」
「ほむほむ。」
「そういう訳で、全身鎧を着た騎士が一人で行動するのはいろんな意味でおかしい。」
「そこに行き着く訳?」
「理屈で考えても、従者や準騎士や騎士見習いや配下などが付いてくる筈なんだ。馬がいるなら、それを世話する馬丁がいる。騎士一人につき、数人はお付きがいないとなあ。」
「ふむふむ。」
「誰もいない、となると全身鎧の着用が理屈に合わない。一人で着たり脱いだり出来ないんだから。特に全身鎧を着た女騎士が一人だけで活動するなんて、現実的に考え……。」
「コルス、ストップ! 理屈はわかったから、それ以上言ったらダメ!」
廃迷宮の定期巡回は這い寄る金貨を仲魔にしながら、暢気な雰囲気だった。
そして我々は深層に潜ることになった。
「此処はその内商業施設にしようかと考えている。」
「地下迷宮物件か。いいね。」
パーティの長であるコルスが笑う。
「しかし、魔物に満ちたパーティだな。」
そう。
今回のパーティは魔物中心だ。
パーティの内訳は以下の通り。
◎少年のコルス。指パッチンで強力な敵も一撃で倒してしまうスペシャルボーイだ。
◎闇エルフのリーネ。精霊と弓の遣い手。コルスの嫁さんになるために暗躍中とか。
◎地獄の道化師のフラック。口から冷気を吐くので、夏場はありがたい存在になるだろう。
◎仔牛の一太郎。これは先日から飼い始めた、メカメカしい仔牛の名前だ。名付けた時に、コルスが微妙な顔をしていたのはご愛敬。なんか大きくなった気もするが、そんなにすぐ大きくなる訳がない。私の仔牛がそんなに急に大きくなる筈がない。
◎骸骨のスファイロス。帝政ローマ風のトーガを着て石板を持っている。初対面のコルスが何故か血相を変えて殺しそうになって、あの時はとっても大変だった。
◎這い寄る金貨のソリン。なんかなつかれた。
そして、私ことケニー。半ゴブリン的戦力のど素人だ。竿付き鉄球を振り回している。最近、やっと慣れてきた。
四階で昇降機を乗り換え、九階へ向かう。
昇降機から降りると、なんか変な気配がする。
「待ち伏せか? やられた!」
「魔力の高まりを感じるね。」
「スファイロス、知っているのか?」
「これは懐かしい。攻撃魔法が来る。」
「左様。最高位攻撃魔法が来ますな。」
フラックもスファイロスも暢気なもんだ。
闇に浮かぶのは二つの籠手。
籠手の間に光の玉が見える。
なんだか危険な感じがする。
「マジックガントレット!? なんでそんな厄介な奴が!?」
「コルス、あれを知っているのか?」
「パーティが全滅する! 喰らえ!」
コルスが指を鳴らした。
パチン!
光の玉が真っ二つになり、爆発する。
しまっ……。
殺られ……ていない?
不可視の障壁が目の前に張られていた。
熱や衝撃波などはすべて遮られている。
「撤退は出来ないか。リーネ、巨人を召喚出来るか?」
「アースジャイアントなら出来ます。」
「わかった。それで頼む。フラック、スファイロス、合体攻撃なレイド・アタックを仕掛けるぞ。」
「お任せくださいませ。」
「まあ、やってみるよ。」
「ケニー、一太郎、ソリンは下がれ。オレたち三名で突撃する。リーネは防御を頼む。行くぞ! フラック、スファイロス、ジェットストリームアタックだ!」
死闘が始まった。
「逝けるぞ! フラック、スファイロス、もう一度ジェットストリームアタックだ!」
「オレのこの手が真っ赤に燃える! お前を倒せと轟き叫ぶ!」
「今! 必殺の! 切なさ乱れ打ち!」
「天馬流星拳!」
「アースジャイアントが塵になっただと? あいつら、魔法戦に慣れている! フラック! スファイロス! 今度はトリプラーだ!」
スファイロスが投げつけた石板をもろに喰らい、左の籠手が倒れた。
それは三名がかりでぼこすかやられる。
右の籠手がふらついていた。
今だ!
私は素早く駆け寄って、激しくどつき回した。
三回当たった。
まだまだ!
遠心力を活かし、宙に浮かぶ籠手をモルゲンステルンで何度も何度もどついた。
壁に叩きつけ、鉄球を何度も何度もぶつける。
死ね
死ね死ね
死ね死ね死ね
死ね死ね死ね死ね
死ね死ね死ね死ね死ね
死ね死ね死ね死ね死ね死ね
死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね
はあはあ。
あと何発喰らわせたら殺せるんだ?
もう一発。
もう一発。
えい。
えい。
ん?
誰だ、私の服の裾を引っ張るのは?
魔法の籠手の左手が、必死に引っ張っているような気がする。
……気の所為だな。
此処で殺らねば、後々大変なことになる。
私が殺らねば誰が殺る。
恨みはござんせんが、死んでもらいます。
「ケニー。」
「コルス、邪魔しないでくれないか。そいつが殺せない。」
「もういいんだ。戦いは終わったんだ。」
「よくないだろう。こんなに強力な敵が健在だと、どれだけ被害が拡がるかわからない。今殺らないで、何時殺るんだ?」
「そいつらに既に戦意はない。」
「騙されちゃダメだ、コルス。」
「落ち着け。今のケニーは普段の姿とかなり異なるぞ。」
「そりゃそうだろう。戦闘による一時的な興奮状態だ。」
「よく見てみろ。どちらの籠手も既に降伏をしている。」
「偽装だよ。そうやって、誤魔化しているに違いない。」
「お前ら、このままだとケニーにバラバラにされるぞ。」
ため息混じりで、コルスが魔法の籠手たちに言った。
何故だ?
何故わからない?
みんな、油断しちゃダメだ。
殺らないと。
早く殺らないと。
そいつらは危険だ。
バラバラにしないと。
グチャグチャにしないと。
粉々に砕かないと。
金剛石を手の甲に付けていようと、砕いてみせる。
我が鉄球に砕けぬものなし。
「ケニー、“氣”に当てられたな。」
“氣”?
なんのことだ?
大丈夫。
私は大丈夫。
さあ、殺ろうじゃないか。
いざ、始めようじゃないか。
三千世界を充たすための闘争を。
狂おしいほどに求めてくるこの気持ちを満たすための、大きな杯を用意してもらおうじゃないか。
「ケニー、すまん。」
後頭部に衝撃を受け、私は気絶した。
泣いている双子を、あやす夢を見た。
目覚めると、即座に一太郎がスリスリしてきてスファイロスがまあまあとなだめてソリンがおべんちゃらを言ったため、私の戦意は失せた。
こいつら、大丈夫かな?
魔法の籠手は何故だか私が管理することに決められた。
震えているように見えないこともないが、気にしない。
「もし、変なことをしたらすぐにバラバラにするからな。」
私は籠手たちに向かって囁いた。
近くにいた、這い寄る金貨たちまで何故か怯えていた。
やだなあ。
私がそんなにおそろしい訳ないじゃないか。
まあ、おいたをしたらどつき回すけれども。
ケニーは不確定名:命を吹き込まれたものを装備した。
なにかとても強力な攻撃魔法を使えるような気がする。
使っていると、体調がよくなってくるような気がする。
ケダモノたちからの防御力が上がったような気がする。
毒物に抵抗する力が滅茶苦茶上がったような気がする。




