第五七話【這い寄る金貨とせつない吐息】
「どもっ! あっしは這い寄る金貨筆頭のソリンです! 今後ともヨロシク、です!」
自称金貨だとはな。
喋る硬貨は珍しい。
しかも愛想がいい。
私ことケニーは今、温泉村近郊にある地下迷宮第二層で魔法生物から話しかけられていた。
魔物が出ない廃迷宮と聞いていたのだが、何処かに齟齬があったようだな。
一円銀貨くらいの大きさがある、金色の硬貨が私の周りで跳び跳ねていた。
コルスたちと定期巡回に来ていたのだが、用足しを済ませた矢先に近寄ってきたのだ。
まさに這い寄るモノだな。
初対面でやたら愛想のよい奴には気をつけろ、と昔上司が言っていた。
しかも、知性的な魔物だ。
用心するに越したことはない。
「あっしらの攻撃方法は多彩ですよ。引っ掻いたり、噛みついたり、せつない吐息を浴びせて相手の殺る気を削いだり、仲間を呼び寄せたり、火炎系や凍結系の魔法にかなり耐えたりします。どうです、お買い得でしょう。」
自分自身を売り出しに掛かる魔物。
裏切らないという保証は何もない。
先日仲魔になった骸骨だって同様。
しかし、硬貨がどうやって、引っ掻いたり噛みついたり吐息を浴びせたり出来るんだろう?
「そもそも、どうやって喋っているんだい?」
「魔法の力です!」
キラン、と輝く硬貨。
便利だな、魔法の力。
よく見ると、江戸川乱歩の『二銭銅貨』のように開く構造となっているようだ。
仕掛け付きの硬貨か。
「もうじき、他の方々と合流されるんでしょう? さあ、今すぐ僕と契約して一緒に幸せになろうよ。」
「えっ?」
「い、いや、今のは受け狙いでして。」
「考えておくよ。」
「ちょ、ちょっと待ってくださいよ!」
「またの機会がありましたら、よろしくお願い致します。」
「それって、可能性が殆どないってことじゃないですか!」
「サヨナラだけが人生さ。」
「そんな、殺生で御座る!」
「まあ、その内いい人が見つかるよ。」
「見つからない時の定型表現来たあ!」
「それではサラバだ。」
「お慈悲を願います!」
「なに、寸劇やってんだ?」
「ああ、コルス、いいところに。この這い寄る混沌から勧誘を受けてね。」
「そんな大物じゃありません!」
「仲いいな、お前ら。」
「まだ主従関係じゃない。」
「それはこれからですね。」
「えっ?」
「えっ?」
「なに言ってんの?」
「まさか、あっしら一党を見捨てるおつもりじゃないですよね。」
「いつの間にか、重い話になっている?」
「あんなに話し合ったのに冷たいです!」
「しかも話が斜め上に捏造されていた!」
「まあ、袖触れ合うも多生の縁ですね。」
「仲魔になることは確定か?」
「今後ともヨロシク、です。」
ケニーは不確定名:小さな物体を仲魔にした。
金運が二上がった。
せつない吐息を吐けるようになった。
ケニーはお子様と魔物にモテモテです。




