第五六話【月と夜の無法者たち】
◎瓦斯の塊。
◎初級破戒僧。
◎歩く死者。
最初の従者たちはそんな奴ら。
苦戦しながら敵対者たちを打ち倒してゆく。
破戒僧たちがなかなか治癒呪文を唱えてくれないので、体力があまり回復しない。
お前ら、私の部下だろう?
簡易結界の中で注意するが、おっさんたちはぼんやりした顔で頭を下げるだけだ。
なんちゃって坊主どもめ。
◎下級精霊。
◎火吹き蜻蛉。
◎中級破戒僧。
やっと戦力が安定してきた。
敵対者たちが火焔魔法や炎の息で倒れゆく様は心地よい。
油断しているとこちらも攻撃魔法や鋭い一撃で倒されるが、お互い様だ。
蛙の暗殺者とか蛾の守護者とか訳のわからない奴らを倒しながら、難解極まる迷宮をさ迷う。
たちの悪い冗談に溢れた、悪意ある監獄。
◎地獄の番犬。
◎瓦斯竜。
◎牙の教徒。
戦力がかなり強化された。
そこそこの敵対者は瞬殺。
壁の落書きを読むと、『なにか忘れていないかね?』とある。
人生は忘れものだらけさ。
なんちゃって。
一万年と二千年に一回の総決算奉仕会の案内が、気球の垂れ幕で示されている。
なんだ、あれは?
ロン・ウォーレス記念浴槽にて入浴。
世俗の垢がこそげ落ちてゆくようだ。
「簡単には帰しませんよ!」
娘たちが私の体を洗いながら言った。
◎上級悪魔。
◎黄泉の哲学者。
◎鋼鉄の自律人形。
この戦力で未踏破領域を塗り潰してみせよう。
待つがいい、安穏と惰眠とを貪る愚民たちよ。
殺伐とした夢だったな。
厭な感触が残っている。
崩れ落ちる冒険者たちを歓喜の目で眺めるなんて、そんな無意識の願望があるのだろうか?
目覚めた私は夜の温泉村を独り歩く。
気づくと隣には地獄の道化師がいた。
小柄な体躯に仮面と派手な服の妖魔。
伝説の時代にその業を駆使した魔物。
「思い出されましたか?」
彼は問う。
「なんのことだ?」
「おやおや、まだまだのようですな。」
「あんたの主はコルスだろう?」
「それはあくまでも、真の主が目覚めるまでのことですよ。」
「真の主?」
「ええ、そうです。……本当に気づかれておりませんので?」
「なんのことやらさっぱりだな。」
「まあ、よいでしょう。おや? 珍しいことがあるものです。」
「えっ?」
「私の同輩ですよ。別の種族ではありますがね。」
月の光に照らされた、帝政ローマ風のトーガを着た骸骨が我々の前に立っていた。
石板を抱えた彼は朗らかに私へ言う。
「やあ、久しぶりだね。」
「どちら様で?」
「おいおい、冗談が前より洗練され過ぎているぞ。フラック、どういうことだ?」
「さあてね。こういうことは貴方の方が専門家でしょう。哲学者なのですから。」
「なんともややこしいことになっているようだな。」
「ええ。護符は取り返したのですがね。」
「ほお。そりゃあすこぶるよいことだ。」
「でも、肝心の力が……。」
「そりゃ残念極まる……。」
「あのう。」
「なんだい、主様?」
「主?」
「そうさ。」
「誰が、です?」
「私の目の前にいなさる方のことさ。」
「えっ? フラックってお偉いさん?」
「ハハハ、愉快な方だね。」
「如何でしょうか?」
「まあ、悪魔族も一枚岩じゃないし、下らない派閥が幾つもある。人間の真似をするとはねえ。……この恰好では説得力がないか。あの急進派でお馬鹿の淫魔は拘束されたみたいだし、爵位持ちの偉い方々は皆保守派でとても慎重だ。私は比較的自由な立場だから、主様たちに加担することにしよう。幸い、私はこの姿に慣れているから、スケルトンの振りをしてもさほど違和感はあるまい。」
「加担、というと?」
「主様を補佐すると言っているのさ。」
「よろしいのですか?」
「これで、いいのだ。」
「ええと、それではお願いします。私の名はケニー。貴方のお名前はなんですか?」
骸骨はニタリと嗤ったように見える。
彼は快活に言った。
「そうさな。スファイロスとでも名乗っておこうか。スケルトンとして扱ってもらって結構だ。」
ケニーは不確定名:骸骨を仲魔にした。
魔力がちょっぴり上がった。
童帝力がかなり下がった。




