第五五話【可愛い仔牛】
「ムリームの群れだっ!」
前衛のドワーフの戦士が悲鳴を上げる。
此処は地下一〇階。
迷宮最下層。
激戦を幾つも経ていた我々のパーティは既に疲弊しきっている。
早急に地上へと戻り、体力や魔力を回復させる必要性があった。
あとほんのもう少しで、城への転移装置に辿り着ける筈なのに。
蛙に似た姿のムリームは魔法生物だ。
体力は無駄に高く、魔法使いの唱える広域爆裂呪文にさえ生き残る程である。
凍てつく強力な攻撃魔法に耐えうる力も持つ。
戦士の最高峰の武器のひとつ、樫楠杜の剣でさえ一撃で葬れるとは限らない。
しかも、更に厄介なことに仲間を喚ぶ。
ケロケロと鳴いては近域に小さな魔方陣を生み出し、異界から同族を呼び寄せるのだ。
その上、戦闘が長引けば、別の魔物たちがやってくるかもしれない。
既にムリームは一八体もいる。
「つべこべ言ってんじゃないよ!」
勝ち気なエルフの魔法使いが最高位攻撃型爆裂魔法を唱えた。
爆炎が広がる。
私は真っ二つの剣を構え、突撃する。
まだだ。
まだ、やらせはせんよ。
焼けただれたムリームにとどめを刺し、仲間を召喚しようとしていた個体に一撃を加えた。
「帰ったら、呑む! 兎に角、呑む! お前も付き合え!」
怒鳴る隣のドワーフ。
「ああ、わかった!」
折角サムライに転職したのだ。
此処で殺られてはたまらない。
二人で雄叫びを上げながら、再突撃した。
夢が段々現実味を帯びているみたいに思われる。
剣を握った重み。
広域爆裂魔法が放たれた後の、焼けつくにおい。
仲間たちの現実感。
あれは……あそこは……。
……。
外へ出ると寒かった。
雪がちらついている。
朝になったら消えるだろう雪。
夢の記憶みたいな雪。
春とはいえ、雪が降らないとは限らない。
今年は羊毛布団と羽毛布団を開発しよう。
春先になると、何処からともなく山賊たちが湧いてくるらしい。
「火付盗賊改方である! 神妙に致せ!」
ノリノリで十手を山賊たちに向けるコルスに苦笑する。
今日のパーティは以下の面々。
翼竜のマントを羽織ったコルス。
弓を巧みに操る闇エルフのリーネ。
酔いどれ冒険者のカスタ。
最近私の秘書になった弓兵のフーキー。
自由騎士たちから成る騎士隊。
そして、私こと半ゴブリン的戦力のケニー。
今日はさすまたを装備した。
様式美には従っておこうか。
生け捕りにせよとの指示に従い、夜更けに本作戦は行われた。
歩哨は歴戦の戦士たちによってあっさりと無力化されていた。
およそ三〇人の山賊はあっさりと制圧された。
日中に戦闘していたら、ただでは済まなかっただろう。
お楽しみだった連中もいる。
……ってほぼ全員かよ!
下半身剥き出しのおっさんたち。
何本もの大きなフランクフルターがぶらんぶらんしている。
油断していたとはいえ情けない。
女賊も三人いた。彼女たちの衣類に乱れはなく、厳重に縛られていた。
「女賊は扱いが難しいんだよな。」
なにか意味ありげに私を見つめるコルス。
「戦力強化自体は必要なんだよ。」
だから、何故私を見つめるんだ、コルス。
「村外れの迷宮にいるのも含めて、これで一〇人か。」
じっと、私を見つめるコルス。
「どうするんだ?」
仕方ない。会話しよう。
「どうしようか?」
なんか、わざとらしい。
「殺すのか?」
「勿体ない。」
「娼婦にでもする気か?」
「元娼婦もいるだろうが、ダメだろう。向いていたら、山賊にはならない。」
「じゃあ、どうするんだ?」
「そうだなあ。生き甲斐を見つけさせようか。」
「生き甲斐?」
「そうさ。魂を燃焼させるような、そんな価値観というか喜びだ。取り敢えず、迷宮に収監しておこう。」
コルスはニヤリと嗤った。
なんだか、ゾクリとする。
「山賊たちも程なく慣れるだろう。」
「慣れるかね?」
「じき慣れる。」
「断言するね。」
「似た者同士だし、価値観も似ている。染まるのは早いだろう。」
「斥候隊の戦力強化は喜ばしいけど、反乱は大丈夫かな?」
「裏切らないさ。」
「そうなのかい?」
「折角得た生き甲斐を、人は安易に失いたくないものさ。」
「まあ、そりゃそうだろうね。」
「心配しなくていい。仕組みは既に上手く機能している。」
山賊たちは、村北部の薬草園に駐屯している斥候隊に組み込まれることとなった。
騎士隊が彼らを護送する。
女賊たちは我々が預かることになった。
何故、彼女たちは私をちらちら見ているのだろう?
フーキーの機嫌が何故か悪い。
理由を聞いたが教えてもらえなかった。
女の子は難しい。
山賊らを討伐しての帰り道。
森の中。
牛の鳴き声が聞こえてきた。
そして、何処からともなく仔牛が現れた。
その仔牛は、奇妙だった。
全身が緑色で、その、メカメカしい。
鎧を着たメカニカルな牛という感じ。
なんだかSF的な仔牛だ。
仔牛が近づいてきて、私に体をすりよせてきた。
人懐っこい仔牛だ。
可愛いじゃないか。
リーネやフーキーもその体を撫でている。
嬉しそうに鳴く仔牛。
いいねいいねいいね。
コルスが何故だか厳しい表情をしていた。
「そいつは……?」
「コルス、牛飼おう、牛。この子、人懐っこいし、いいんじゃないかな?」
「まさか……ゴーゴン? なんでこんなところに?」
「こんなに懐いてくれるなんて、嬉しいねえ。」
「ケニー。」
「なんだい?」
「ケニーにはコレが普通の仔牛に見えるのか?」
「まあ、なんかメカメカしていてSFっぼいけど、それはそれで可愛いじゃないか。」
「可愛い……だと?」
「駄目かい? 散歩も私がやるし、体も洗うし、どうだろう、かあさん。」
「オレはケニーのおかんではない。」
「あはは、くすぐったい。」
「敵対心は見られないな。」
「群れからはぐれたのかな? よしよし。」
「なんか手慣れているな。」
「そう? ところでこの仔、なにを食べるんだろう?」
「さてな。電気でも与えたらいいんじゃないか?」
「コンセントは見当たらないね。」
「かなり硬そうな装甲で覆われている。」
「成長するかな?」
「機械生命体が?」
「連れ帰ろうよ。」
「ケニーがそんなに言うのは珍しいな。……まあ、いいだろう。」
ケニーは不確定名:奇妙な動物を仲魔にした。
友好度が一三上がった。
戦闘力が五五上がった。
支持率が三二上がった。
統率力が一七上がった。
童帝力が八八上がった。
見よ、この童帝力の強さを!
……あれ?




