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第五二話【妖精遣い】

「やっとお目覚めね。」


厳しさの中に心遣いの伴う声がした。

新任隊長である私の心強い副官だな。

夜更けの空は、星々を瞬かせている。

鼻をくすぐるのは硝煙と鉄のにおい。

目の前には誇り高き戦闘妖精がいた。

人によく似た姿の美しき戦乙女たち。

此処は山の中か。

我々は転身中か?

砦はとっくの前に陥落したのだろう。

古い歩兵銃には銃剣が装着してある。

どうも乱戦の中を切り抜けたようだ。

記憶が曖昧なのは疲れた所為なのか?

私は有能な秘書兼副官に話しかける。


「ムーラか。」

「ええ。貴方の頼れる秘書妖精よ。」

「アーケにミーチャにカスミンは全員無事なのか?」

「みんな無事よ。今は交代制で歩哨をしているわ。」

「そうか。」

「そうよ。」


今は彼女の番という訳だな。

ムーラは気丈に振る舞っているが、疲労がかなり蓄積している筈だ。

今いる四名とも、無理をする子ばかりだ。

疲弊させぬよう、気を使わねばならない。


「では今から私が歩哨をやる。お前は寝ていないんだろう? 少し休むといい。」

「満身創痍の指揮官に言われても説得力ないわね。貴方こそ、休んでいなさい。」

「しかしだな。」

「しかしも案山子もないわ。休みなさい。指揮能力が落ちちゃうと部隊としては悲劇的よ。」

「わかったよ、かあさん。」

「ふざける余裕があるなら大丈夫ね。」

「痛い、痛い。そんなところを握らないでくれ。」

「指揮官がおちゃらけているからよ。」

「緊張していると実力を出せないぞ。」

「そうね。死なない程度に頑張るわ。」

「その意気だ。」

「もう少し寝ていなさい。後で起こしてあげるわ。」

「秘書殿に従うほかないな。」





ずいぶんと現実味にあふれた夢だったな。

平和のありがたみを夢で感じるだなんて。





「なあ、ケニー。」

「なんだい、コルス。」

「ケニーが実は勇者じゃないかという説が最近村に出回っている。特に爺さん連中がそうじゃないかと疑っている。」

「な、なんだって?」

「ケニーはここいらじゃ見かけないような姿形をしているし、邪神の幼体を倒したしな。」

「ちょっと待って。」

「ん? どうした?」

「邪神の話は初耳。」

「今初めて言ったからな。」

「それはどういうこ……。」

「今朝、ケニーが現れた場所を調査しに行ったら、これがあった。どう思う?」

「とても……光の戦士が腕にはめそうに見える腕輪だな。」

「たぶんオリハルコンだろうな、素材は。……いや、もしかしたら、それを上回る代物かもしれん。」

「なにがなんだかわからないよ。」

「あの日、ケニーが村へ現れる直前に邪悪な気配が膨らんだんだよ。それが、ケニーの気配と重なって消滅したっぽい。この腕輪はたぶん戦利品だろう。遺品というべきか? 雪に埋もれて見つからなかったのが、雪解けで発見されたのさ。」

「で、でもそんなことは全然感じなかったよ!」

「もしかしたら、奴は温泉村に侵入してオレたち村人を全滅させるつもりだったのかもしれない。」

「なんかいきなりシリアスな展開!?」

「まあ、活躍する間もなく、邪神は潰された訳だ。」

「シリアスは開始と同時に終了した?」

「幼体とはいえ、邪神はまともに戦って勝てる相手じゃないから助かったよ。ありがとう、ケニー。」

「どういたしまして。でも実感はない。」

「ケニーは言語能力を取得しただろう。」

「あっ、そう言われると辻褄が合うな。」

「それに、今まで運動競技をろくにしたことのない文系四〇代のおっさんが、それなりに武芸をたしなんでいるんだ。体力や能力が全般的に底上げされたんじゃないか?」

「そう言われると……そうなのかなあ?」

「ケニーにはなにかしら適性があると思うよ。現在は勇者候補生ってとこか。」

「よしてくれ。……本当は魔法の適性があったりなんかしちゃったりして。」

「この世界は魔法が衰退しているからなあ。それはないんじゃないかな?」

「じゃあなんだろう? 案外、召喚師だったりして。」

「デヴィル・サマナーとか死霊遣いとか獣遣いとか妖精遣いとか、そういう才能が眠っているのかもしれない。」

「よし、今日の午後からはそういう訓練をしてみることにする。」

「ちなみにミトラス帝国のサカタ辺境伯は、歴戦の妖精遣いだ。彼を目標としよう。」

「おう! ところでさ、コルスが籠手をはめているなんて珍しいな。」

「アミュレットにはミスリルの籠手だからさ。剣先にぶら下げるのもなんだし。」

「えっ?」

「まあ、後でこの腕輪を拾った場所というか、ケニー自身が現れた場所に行ってみるといい。一〇〇〇ポンド爆弾を落としたような跡地になっているから。」

「はい?」





ケニーは不確定名:腕輪を入手した。

身体が疲労しにくくなった気がする。

以前訪れた場所ならすぐ行けそうだ。

もうなにもこわくないと言いそうだ。





私がこの世界へ現れた時の場所は、何故か爆心地になっていた。

推理してみる。


先ず、邪神の幼体が瞬間移動か空中飛行で此処までやってきた。

その直後、間を置かずに私がこの場所へ重なるように出現した。

呼応したのだろうか?

反応したのだろうか?

対消滅して、私という存在が復元した?

或いは、私が邪神の幼体に打ち勝った?

……わからない。

結果として私は此処に存在し、邪神はその存在を失った。

もしかして、二身合体……いや、まさか。

邪神の力を身につけた英雄譚の始まりか?

いや、そんな脚本も演出も私には不要だ。

はて、これからどうなるのやら。





一週間いろいろ試してみた。

魔物が出る西の森に出かけ、スライムやスケルトンなどを相手に念じてみたり話しかけてみたが、上手くいかなかった。

コヨーテの群れにも念じてみたり話しかけてみたりしたが、散々追いかけられる破目に陥った。

ぬいぐるみや人形にも念じてみたり話しかけてみるが、動く気配はなかった。

どうやったらいいんだろう?

ところで、妖精って何処に住んでいるの?





適性探しは続く。





とある山中にある、何故か戦闘力が世界随一で美少女がやたらにいる小さな村。

平凡な雰囲気の男性が、魅力的且つ蠱惑的な美女に剣呑な顔で詰め寄っている。


「聞きたいことがある。」

「夜伽の件ですか、魔王様?」

「ちゃうわ。厳重に封印しておいた筈の、邪神の壺のひとつが開封されていた。しかもそれを報せるべき警報が無力化されていた。」

「そ、そうですか。」

「こっちを見ろ。」

「え、えへへ。」

「やったか?」

「な、なんのことでしょう?」

「やったな。」

「わ、悪気はなかったんです。悪魔として正しくこの世に悪と混沌をもたらす必然性に基づき、その義務を遂行したまでです。」

「本音は?」

「いっぱい死ぬと魂が沢山集まって嬉しいかなって、抗いたがい誘惑に負けました。」

「ていっ!」

「はうっ!」

「幸い、すぐに討伐されたようだからよかったものの、これで被害が拡大したら大変なところだった。開封されると同時に自動で邪神へビーコンを打ち込むようにしておいたから、今後は少しましになるだろう。」

「あ、あの……幼体とはいえ、邪神を簡単に討伐出来るのは魔王様くらいですよ。」

「邪神が倒されたのを知っていたのか?」

「早すぎて腐ったのかなって思いました。」

「暢気だな。」

「悪魔ですから、人間とは時間の感覚が異なるんです。」

「そうなのか。」

「そうですよ。」

「被害が聞こえてこない、ということは瞬殺されたのか?」

「まっさかー。……でも、瞬間的に戦闘力が膨大化する仕様なのかも…………通常は能力が一般人仕様になっていて私が認識出来ないのだとしたら……まさか、『魔大公』や『天龍公主』が介入し……。」

「ほう。では魔王並の力を持つ者が、私以外もこの世界にいる訳だ。」

「そんな筈はありません! 勇者の候補者は見つけ次第すぐ……はっ!」

「勇者候補生を潰しているのか。」

「あ、あの……。」

「詳しく聞こうか。」

「ちょ、ちょっと……魔王様……。」





世界は今のところ、平和です。








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