第五一話【アイアシェッケ】
「ケニーは朝の連続テレビジョン劇を見ていたか?」
「まあ、朝劇はそれなりかな。」
「オレは【こなもん】が特に好きだったな。」
「毎回冒頭でおいしそうな食べ物が出てきて、『朝飯テロ』って言われてたね。」
「第一話でパンが出てくるとは思わなかった。」
「あのふっくら感がまたもう胃袋をがっちり掴む感じで、やられた感があった。」
「地味な世界観で視聴率は伸びなかったみたいだが、よく出来ていたと思うよ。」
「あと、【からいもん】もよかった。」
「あの全編鹿児島弁で通したお話か。字幕を付けたり、タイムスリップしたお侍さんが出てきたり、南方文化に鋭いメスを当てたりと、斬新な演出が光っていたね。」
「料理対決で長崎ちゃんぽんが出てきたり、泡盛が出てきたり、と旨そうだった。中でも種子島篇とやんばる篇は素晴らしい。」
「食べ物の話ばっかりだね。」
「まあ、オレたちだとそうなるだろ。ちょっと前だけど、【エルフさん】もよかった。」
「『村の外れの鎮守の森には妖精さんが住んでいます。』って第一話の冒頭で語り出して、あれにはびっくりした。」
「あのウクライナの女の子は綺麗だったな。」
「神秘的な面を強調する演出が、ネットで散々ネタにされていたね。」
「エルフのクッキーはよかった。」
「うん、あれは本当によかった。」
「彼女は第一話と第二七話と最終話にしか出ないんだけど、それがよかった。」
「リーネの作ったクッキーを食べて、『嗚呼、これが本物のエルフのクッキーなんだ!』って感動した。」
「あれを見てから食べると感無量になるな。」
「あのエルフさんが本当にいるのかいないのかが曖昧で、それが主人公の女の子の妄想だったのか、それとも……ってところにやきもきした。」
「田舎ののんびりした雰囲気が都会から切り離された厳しさを突きつけていて、大都市から来た観光客と地元民の意識差が印象的だったなあ。」
「【二億年のマリリン】はいろんな意味で衝撃的だった。」
「朝劇史上、最多の厳しい意見が寄せられた番組だった。」
「考古学者を主人公にした異色の作品だったし、考証も出来る限り頑張っていた。」
「マリリンがすべてをぶち壊す勢いで、作品世界を暴れ回っていて痛快だったな。」
「ホントは一年の予定だったらしいね。」
「あまりの弾けっぷりに半年で打ち切られた怪作として、有名になってしまった。」
「最後の週はこれでもかと製作側が詰め込み過ぎ、収拾のつかない状態で驚いた。」
「けっこう見てたな。」
「けっこう見てたね。」
「日本では有名なバームクーヘンだが、本国ドイツではあまり有名ではないらしい。」
「な、なんだって!?」
「どうやらドレスデンが発祥地らしい。」
「へえ。」
「ちなみにひよこは福岡が発祥地だ。」
「あれ? 東京じゃないの?」
「福岡だ。」
「……ところで春以降の計画案についてなんだけど。」
「ん? なにかあったか?」
「アイアシェッケっていうチーズケーキがあってね……。」
アイアシュッケとも呼ばれるアイアシェッケは、ドレスデンでよく食べられている焼きチーズケーキのことだ。
今日もコルスの料理教室は賑わっている。
えらくめかしこんだ女性や気合いを入れた男性がちらほらいるのはご愛敬か。
春になって、雪もかなり溶けてきた。
これからは観光客の多く訪れる時期。
彼らの胃袋を掴み離さぬ必要がある。
「温泉村とその周辺地域では酪農が盛んだ。乳製品を活用したお菓子で、観光客も地元民もおいしく楽しくしてゆこう!」
おおっ! と握りこぶしを上げる女性陣。
おいしいことはよいことだ。
此処で作られるアイアシェッケは三層から成る。
タルトとクリームチーズとスフレ。
本場ものとは少々異なる感じだが。
表面がまだら模様になっているものもあって、それが『まだらの卵』という意味につながるという説があるのだが、それらはドレスデンのコーゼルパレーで出される元祖とは外見からして違う。
ややこしい。
全体的に少々かしましい雰囲気で、それでも生地を捏ねたり石窯で焼いたりしてゆく内に完成は近づいてくる。
さてさて、実食の時間だ。
お茶と一緒にいただこう。
さっぱりふわっとしたチーズスフレは卵の味わいも活かしていて、なかなか旨い。
なめらかにして豊かなコクのクリームチーズにはラムレーズンが幾つも散りばめられていて、質のよいラムと干し葡萄の香りが味の奥行きを更に深めている。
台座となっているタルトはしっかり火が通っていて、さくさくして旨い。
これは受けるだろう。
皆の笑顔がまぶしい。
コルスはさっそく販売開始に向けて、腕利きの女性陣と協議を進めている。
私の思いつきがこうして形になってゆくのを見ると、とても嬉しくなるな。
アイアシェッケを食べたのはこれが初めてだが、想像力も役に立っている。
文献で調べた菓子を作るようなもんだ、とコルスが言っていた。
次はなにを作ろう。
カヌレやクグロフ。
そんなのもいいな。




