第四七話【狂騒の試験室】
「なあ、コルス。」
「なんだい、ムーミン。」
「それ違う。」
「冗談だ。なんだ、ケニー。」
「ゲームやお話で訓練所の教官を見かけると、彼らが探索や冒険に出た方が早く事態が解決すると思うんだけど。」
「あのな、そんなことをしたら、若者の出番がなくなるだろう。」
「あっ、そっか。」
「それに、教官はその国家なり組織なりで大切な人材だ。人にものを教えられるのは貴重な能力なんだぞ。それに、そのような貴重な人材を投入せざるを得ない国家や組織は滅亡寸前だ。」
「滅亡?」
「そうだ、本来銃後の存在を最前線に送り込む訳だからな。」
「迷宮の中で強力な呪文を使っても、何故中の石壁が崩れないんだろう?」
「そもそも敵と戦っていること自体が幻想だとしたら、筋が通るだろう。」
「えっ、本当は戦っていないの?」
「冒険者たちは頭部に電極をつなげ、擬似戦闘を繰り返しているんだよ。」
「なにそのアヴァロン。」
「何故魔物を倒したら金品が入手出来るんだろう?」
「あれはな、本当は討伐料なんだ。」
「えっ?」
「魔物が金銭や巻物などを持ち歩くだなんて、先ずないだろう。」
「武装している魔物だったら、倒した後でも入手出来るだろう?」
「人の姿をした魔物だったなら、そういうこともあると思うよ。」
「人の姿?」
「あれはたまたま見かけた余所のパーティじゃない、たぶんな。」
「えっ? えっ?」
「相手の魔法を封じるって、どんな状況なんだろう?」
「本当に相手の魔法を完全に封じられるのならば、それは相当高度な魔法だぞ。」
「擬似的に封じているのかな?」
「騒音を撒き散らしているんじゃないか?」
「ラッパを吹くとか、太鼓を叩くとか?」
「雰囲気はぶち壊しだが、相手の集中力を削ぐという点では有利だろう。」
「もしかしたら、毒電波を発信していたりして。」
「それなんてSFだな。」
「迷宮内で個人タクシーって営業出来るんだろうか?」
「あれ、タクシーという名称を当て嵌めているけど、本当は違うんだ。」
「えっ?」
「ほら、タクシーって言っとけば、みんな安心するだろう?」
「えっ? じゃあ、タクシーじゃないとすると、あれは一体……。」
「頚狩り兎って地味にこわい。」
「あれ、実は兎じゃないんだ。」
「えっ?」
「バニーガールが冒険者たちから金を巻き上げているんだ。」
「はい?」
「復活料と称して、彼女たちに金銭が貢がれているのだよ。」
「微妙にリアルで厭な話だ。」
「なあ、コルス。」
「なんだい、ムーミン。」
「それ、さっきやった。」
「まあ、そうなるな。」
「冒険者って、そんなに大変なのかい?」
「派遣社員が正社員になれる確率みたいなもんかな。我泣き濡れて蟹と戯る、というところか。」
「あー、なんとなくわかった。」
「まあ、槍や剣や弓や武術の才能が際立っているとか、この世界では滅多にいない魔法や法術や治療魔法を使えるとかだったら引く手数多だろうけどな。」
「あれ、リーネは?」
「一時期傭兵をやっていたらしいが、生活費はかつかつだったそうだ。」
「エルフで弓が使えて精霊を呼び出せるのに?」
「闇エルフだからな。」
「……そっか。」
「カスタだって、まともに王都で鍛錬を続けていたらたぶん今頃は王国騎士だっただろう。」
「確かに剣捌きは上手い。あれ? じゃあ、なんでゴブリン討伐に失敗したの?」
「多勢に無勢だ。いかな勇者でも、部隊を連れて敗走していたら、訓練された兵隊にゃ勝てんよ。踏みとどまったら死ぬだけだ。英雄なら違うだろうけどな。単騎無双なんて弟切草……じゃなくてお伽噺だ。」
「冒険者は派遣社員に近いのかなあ?」
「オレが冒険者から相談を受けたら、いい勤め先を見つけ次第現役から引退しろと助言する。」
「これは手厳しい。」
「冒険者なんて、長い間出来る職業じゃないからな。それに、片手間に出来るものでもない。」
「引退した冒険者ってどうなる?」
「オレの親父みたいに宿屋のオヤジに鞍替えするか、貴族の世間知らずを陥落して玉の輿に落ち着くか、伝を頼って其処で世話になるか、何処かの屋敷の用心棒か門番になるか、盗賊・野盗・山賊・海賊に落ちぶれるか、ってとこかな。あんまりいい末路は聞かんな。」
「『俺、最強!』って感じの勇者が暴れまわるようにはならないか。」
「尖兵としてあたこち前線送りにされて潰されるか、毒を盛られて殺されるんじゃないかな。協調性なさそうだし、他人の意見に耳を貸さない感じだし。」
「そうなるか。」
「そうなるな。」
「少し経済の話をしよう。これを見てくれ、ケニー。どう思う。」
「とても立派な林檎だ。」
「うちの果樹園で採れたものだからな。幾らに見える?」
「銅貨二枚ってとこかな。」
「何処の値段?」
「ハミルの街。」
「正解だ。もう少し小さかったり器量が悪いと二個で銅貨三枚だ。市場価格は変動するから、絶対の価格じゃないがな。では、ミトラス帝国へ運ぶと幾らになる?」
「銅貨五枚かそれ以上。」
「いいぞいいぞ。今まで、この村の連中はそういう計算がなかなか出来なかったんだ。」
「商人の言いなり?」
「それに近いな。で、オレが一回仕切って『教育』した。」
「ほほう。」
「大量生産・輸送・消費に程遠い世界だと思えばいい。なんでも手作りだし、良し悪しが見抜けないと大損する。」
「大変だな。」
「大変だよ。」
「珈琲はどうなんだろう?」
「珈琲や紅茶の歴史はエグいからなあ。」
「戦略物資ってやつ?」
「そうだ。プラハでは珈琲一杯銅貨一枚換算だったのに、コペンハーゲンでは一杯銅貨一〇枚換算になるようなもんだ。」
「現地価格を考えるともやもやする。」
「フェアトレードも灰色部分があるしな。代用品としてはタンポポやアズキがある。」
「アズキが珈琲になるのかい?」
「珈琲もどきだ。珈琲を買えない連中が煎って飲むんだよ。アメリカではアズキは動物の飼料扱いだ。アズキをこんなに好む国民なんて、世界的には珍しいだろう。イカもそうだな。」
「イカはいいよね。」
「イカにも。」
※コルスは冗談も言っています。




