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第四話【コロッケ】

書くとよりわかる、我々の食卓の豊かさ。

わたしは闇エルフのリーネ。

永い間世界をさ迷い、林檎酒を末期の飲み物と決めて温泉村を訪れた。

村の温泉旅館で七歳の少年であるコルスと出会い、死への扉をふさがれた。

彼の【力】でおそろしい程に若返ったわたしはコルスの命尽きるその日まで、すべてを捧げようと考えている。





「コロッケ! コロッケ! コロッケ! そういうのがいいんだよ!」


冬の村の朝。


旅館の裏手には林檎農園と畑が広がり、畑の馬鈴薯や玉葱を収穫しながらコルスが謎の言葉を叫んでいる。


彼は不思議な子だ。


「ああ、どっかにこの気持ちがわかるやつはいないのか! 馬鈴薯や玉葱はあるのに何故人参が見つからないっ! 嗚呼、カレーを作りたい!」


なにを言っているかは今一つわからないが、寄り添うことくらいは出来る。

彼と悩みを分かち合いたい。

コルスはエルフの目から見ても神秘だ。

ほんの数十年しか付き合えないのが残念に思えてしょうがない。



畑はとても広い。

子供一人でどうにかなる大きさではない。

しかし、コルスは一人で管理している。

馬鈴薯や玉葱が『それのみ』空を飛んできて、どんどん麻袋に入ってゆく。

見たことのない魔法だ。

だが、魔力が感じられない。

コルスによると魔法ではないらしいが、永年生きてきたわたしにもよくわからない。


「おっ、猪だ! やっぱり今日はコロッケだな!」


弓矢を用意するわたしよりも素早く猪に近づき、あっという間に仕留める。

血抜きをされた猪の皮がぺろりと剥かれた。

どうやってあんなにきれいに剥けるのだろうか?

謎だ。

「よし、内臓はスープにしよう。」

あどけない顔で笑うコルス。

可愛いわたしのコルス。





「今日はコロッケの試食会だ!」


コルスが宣言し、周囲の女性たちが拍手する。


コロッケとは挽き肉と馬鈴薯と玉葱と岩塩を混ぜて小麦粉に溶き卵を付け、パン粉を衣にして油で揚げた料理らしい。


コルスが料理をするというので厨房へ村の女衆が集まってきた。

コルスがいなかったら、村は豊かにはならなかったと思われる。

村人は皆肌艶がよく、余裕がある。

コルスあらばこそだ。

彼のお陰で、闇エルフのわたしはこの村で受け入れられている。

ありがたいことだ。


蒸した馬鈴薯を潰したり、玉葱を刻んだり、ドワーフの作った道具で猪の肉を挽き肉にしたり、と皆で手分けする。


コルスの指示に従い、皆がてきぱき動く。

彼が玉葱と挽き肉をフライパンで炒める。

子供と思えないような技にため息が出た。


オリーブ油で満ちた鉄の鍋が徐々に熱くなってゆく。

オリーブ油はこの頃村にも流通し出していて、油料理にも使われている。

黒パンを砕いたパン粉をまぶし、コルスがコロッケを揚げてゆく。

揚がったコロッケが鉄の網へ次々に並べられた。

コルスの母や姉が完成品を女衆の持ってきた皿に手際よく載せてゆく。


そして、試食会が始まった。

コルスはコロッケにマヨネーズを浸けて食べている。

卵と林檎酢と岩塩とオリーブ油を混ぜて作ったマヨネーズは村人の好物のひとつだ。

近頃は帝都でも流行りだしているらしい。


「貴族様でも食べられないよ、これは。」


「コルスはどこで知ったんだい、こんな料理をさ。」


「古代帝国時代には食べられていたらしいよ。本で知った。」


彼はそう答えた。


「コルスはまるで学者様だねえ。」


わたしは知っている。

この世界にこのような料理など存在しないことを。

伊達に永い間生きている訳ではない。

コルスはどうやって知ったのだろう?





試食会は盛況のうちに終わり、女衆はコロッケをたずさえて各々の家に帰った。


「次はトンカツや肉団子や酢豚も試してみたいな。嗚呼、キャベツはあるのか、この世界?」


猪の煮込みものを作りながらぶつぶつ言うコルス。

相変わらず彼はよくわからない言葉を使う。

コルスの叡知はエルフを凌ぐと思う。

彼を手伝いながら、その知恵に少しでも近づこうとする自分に戸惑う。

やはりわたしもエルフなのか。

惹かれてゆく気持ちは感情なのか知識欲なのか。



可愛いコルス。

わたしのコルス。

お前のためにすべてを捧げましょう。




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