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第三六話【老兵】

温泉村は八の字みたいな形でオサミシ山脈に囲まれているが、その山脈の中腹に小屋を建てて住んでいる老人がいる。

彼の名はクラッセン。

偏屈老人として有名で、たまに温泉村に来ては薬草や木工品を売ったりするが、村人との交流を避けている節が見られる。


「なあ、コルスえもん。あの爺さん、なんとかならないかな?」

「いきなりなんの話だ、トニー?」


温泉村から東へ歩いて一日の距離にある、開拓村のタロン村の新人村長たるトニーがコルスの元へ相談に来ていた。

息抜きというかサボりに来たらしい。

相変わらずの男である。


「爺さん、なんかやらかしたのか?」

「いやな、爺さん、ずっと一人暮らしだろ。」

「それがどうした?」

「いや、さみしいんじゃないかな、って思ってさ。」

「オレはトニーのそういう世話焼きなところを美点だと思うし、それだからハンナやタロン村を任せたんだ。だけど、みんながみんな、お前と同じ価値観を持っているとは限らんぞ。」

「うん、コルスからそういう評価をしてもらえて嬉しいよ。でもなにかしら試してみる価値があるんじゃないか?」

「まあなあ。で、例えば?」

「一人で暮らすんじゃなくて、複数で暮らすとかさ。」

「一人暮らしの方が生きやすい人間もいるんだぞ。トニーは昔から人付き合いが多いからわかりにくいのかもしれないけどな。」

「そうかな?」

「そうだよ。」

「コルスだって、いつも周りに人がいるじゃないか。」

「たまたまだ。」

「そうなのか?」

「そうだ。」

「でもさ。」

「あー、なにか考えとく。」

「助かるよ。」

「お節介焼きだな。」

「うん、自覚はある。ところで、あの爺さん、昔は傭兵やってて、各地を巡って武勲を立てたらしい。アスラン帝国やミトラス帝国にも行っていたそうだ。」

「へえ。」

「けっこう教養人だぜ。薬草の採取が丁寧で適切だ。薬草園警備の斥候隊の指導もなんだかんだできっちりやってくれたしな。あの連中も爺さんには一目置いている。」

「ああ。」

「爺さんの作る山羊のチーズや木工品はなかなかのものだ。昔山羊を連れてあの辺に行っていたけど、ずいぶん世話になった。」

「爺さんを高く評価しているんだな。」

「お前だって同じだろ、コルス。爺さんの息子も優秀な傭兵だったけど戦死しちまったしなあ。同僚に裏切られずに生きていたら…………仮定の話はやめとくか。」

「知っているのか?」

「ああ、小さい頃に可愛がってもらった。いい人だったよ。」

「そうか。」

「そうだ。」

「じゃあ、少し頑張ってみるか。」

「温泉村で逗留しているクララって子がいるだろ。」

「ああ、マクシミリアン商会の次女だな。足が弱いんだっけか? クラッセンの爺さんにも慣れている。いい子だと思うよ。」

「あの二人を一緒に生活させてみたらどうだろうか?」

「はい?」

「意外と仲がいいんだよ、あの二人。」

「そうか。」

「そうだ。」




そして、クラッセンは現在少女と二人で暮らしている。

相性が関係者一同から懸念されたが、今のところ問題はないようだ。





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