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第三五話【邂逅】

ダメ冒険者であるカスタの一日は昼頃から始まる。

もそもそとベッドから起きて、だらしなく欠伸をする。

ぺしゃんこな枕の傍にある質の悪い葡萄酒の瓶に直接口をつけ、気付けの一杯だと思いながら呑み込む。

ガシガシと頭を掻いて適当に着替え、手櫛でそれなりに頭髪を整えた後、ふらふらと冒険者専用宿舎を出る。


そこらの屋台で串焼きを食べたりして、知り合いのダメ冒険者たちがたむろする酒場に向かう。

『ローニン亭』は東方から来た顔に傷痕ある男が経営する店で、堅気の者が集まる場所ではない。

なにが混ぜてあるのかよくわからない安酒となにを捏ねたのかよくわからない肉団子、そして干からびかけた堅い黒パンとひねた野菜の酢漬けの組み合わせが銅貨五枚。

料理の量だけは多い。

これを食べながら、彼らはカード遊びをしたりどこの女がよかったあそこの女がよかったという下世話な話で時間を潰す。

冒険者が暇な姿は平和の証だが、破落戸ごろつきと大差ない姿を衆目にさらすのはよろしくないことだ。

居酒屋でごろごろしている姿は見苦しいが、だからといって村の中をぶらぶらされるのも困る。

有能でなく頭の回る冒険者は厄介な存在だ。

故に、村の役に立たせるべく動かすことが大切な業務だ。

コルスが斡旋する仕事をこなせば、彼らは半日で銅貨二〇枚かそれ以上稼げる。

仕事によっては三〇枚かそれ以上稼げる。

ただし。

一日丸々働こうという気概は彼らにない。

冒険者専用宿舎は月に銀貨一枚の金額を必要とするので、それと飯代と酒代を組み合わせた金額に基づく行動が彼らの規範だ。

彼らはぎりぎりで金を稼ぎ、特に向上心もなく惰性的に生きている。

鍛えればものになるかもしれない力は封印され、怠惰に日々過ごす。

温泉村へ来たのも景気のよさと風呂に毎日入れることが大きかった。

彼らは意外と清潔にしている。

清潔でないとコルスから講習会で滅茶苦茶説明されるので、最初は致し方なく清潔にするようにしていたのたが今は普通に清潔にしている。

ハウ・フローラル!

そんなダメ冒険者たちの等級は最低だ。

日々それなりに過ごせたらそれでいい。

カスタたちはそんな毎日に疑問がない。

独身男子群相手に一〇歳の娘でも躊躇なく嫁にしてしまうコルスだが、流石にカスタたちは独身のままだ。

嫁を与えたら少しはまともになるのでは、とトニーから言われた際にコルスはこう答えた。


「余計ダメになる。」





ある日、カスタたちはギルドに呼ばれた。


「ゴブリンは現在三体確認されています。それ以上存在する可能性もありますので、ご注意ください。」


冒険者ギルド温泉村出張所所属の中年男性職員は、事務的に無表情のまま言った。


ゴブリンは小鬼とも称され、迷宮や洞窟などに好んで住みつく亜人種だ。

独自の生態系を持ち、中には文化的な気配の見える集落を築く者たちも少数ながら存在する。

訓練された彼らはひとつの脅威だが、ぽつぽつと少人数で生活するゴブリンはさほどおそろしいものではない。

人間の方がよほどおそろしい存在だ。

それは兎も角、討伐依頼があるならばそれは冒険者たちの実入りになる。

生活のための害獣駆除。

そんな感じの依頼内容。


カスタは仲間の冒険者たちを集めて、意気揚々とゴブリン討伐に出掛けた。

元騎士見習いだった戦士のカスタにしてみれば、この依頼は楽勝に見えた。


だが、結果としてこの討伐は失敗する。

ゴブリンは三体どころか一八体おり、それらの連携はカスタたちのそれをしのいでいた。

森の中で冒険者たちは翻弄され、撹乱され、個別に撃破される。

斥候が逐一行動を把握していたらしく、動きは的確だった。

弓兵が冒険者たちへ次々に矢を当て、薮の中から短槍が突き出されて致命傷を与える。

組織だった戦闘に冒険者たちの付け入る隙はなかった。

戦士四名斥候二名の寄せ集めパーティは無惨に潰滅し、彼は友人を全員失った。

錬度の差が勝敗を分けた形になる。

命からがら敗残兵として逃げ帰ったカスタの報告を受け、騎士隊が素早くゴブリン討伐に出掛けた。





仲間たちを失ったカスタが反省したかというと、特にそのようなことはない。

『ローニン亭』でうすらぼんやり過ごす光景が常のものになってきただけだ。

訳あり風店主はそれを見ても、別段文句を言わなかった。


そんなカスタに転機が訪れたのは、冬のある晴れた日のこと。

コルスが見知らぬ黄色い肌の黒髪のおっさんと共に、カスタの目の前に現れた。


「こいつはカスタ。ダメ冒険者だ。先日ゴブリン討伐に失敗した。」


ひでえ言い方だと思いながら、彼は余所者を見つめる。

おっとりした物腰からするとこの中年男は貴族なのか?


「彼を鍛えて欲しい。」


にやりと悪いおっさんみたいに嗤うコルス。

おっさんたちはこうして邂逅した。





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