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第三三話【埋伏】

蒸溜酒を作るための蒸溜器がメルクリン村のドワーフたちを中心にして試行錯誤の末に完成され、ようやく運用の目処が立ってきた。

濾過には白樺の木炭を使用し、穀物酒を中心にして市場に売って出るつもりだ。

今はまだ冬だが、計画は早く練るに限る。

一旦動き出したら、修正しにくくなるし。


村の公会堂。

温泉村やアラルコン村の村長や幹部たち、メルクリン村の技術者たるドワーフたち、タロン村の新人村長であるトニーと愉快な仲間たちやリーネやアヘヒロなどの面々に今後の開発計画を説明する。


「アラルコン村はエール作りに定評があるので、その力を使ってウイスキーを作る。アラルコン・ウイスキーだな。エールやセーターや魚の干物などの販売を通じて実績を作り、五年後にはウイスキーを販路に乗せる。オレの【力】を使って醸したなんちゃってウイスキーな『アラルコン一二年』は限定販売し、その七年後に『本物の一二年』と擦り合わせを行いながら販路拡大を図る。」


「おい、おっさんたち。酒かっくらってべろんべろんになってんじゃない。トニーと愉快な仲間たちもなにきょとんとした顔してんだ。お前らも関係する話だぞ。」


「話を元に戻す。タロン村ではサツマイモの生産性を強化し、干し芋や芋羊羮や芋焼酎の販売を開始する。アラルコン村の近海でテングサを発見出来たのは大きな利点になるな。このまま、小豆や大豆も見つけたいところだ。楓はあるんだろうか? あったらメープルシロップが作れるんだけどな。後で探索に行くか。鉱物の探索は春以降に行うとして、先ずは……。」

「なあ、コルス。」

「なんだ、トニー。」

「羊羮ってなんだ?」

「元は羊のあつものだな。古代王朝時代に食べられていた羊の煮物が、いつの間にか小豆と甘味料と寒天で作られた菓子の名称に変化した。たぶん、食文化の関係で変遷したんだろう。小豆はまだ見つけていないので、芋羊羮を先行させる。林檎糖とサツマイモ本来の甘味を加えた味わいが特長だ。サツマイモと林檎は親和性が高いので、パイも並行して開発しよう。アブラナを見つけて菜種油も生産したい。胡麻を見つけて胡麻油もいいな。サツマイモの天麩羅をおつゆに浸して食べたいな……ダメだ、醤油が作れない。あれは難しすぎる。魚醤をなんとか改良するか。大豆が見つかれば味噌も豆腐も作れる。豆腐は凍り豆腐にすれば保存食になるし……。」

「コルス。」

「なんだ。」

「訳がわからなくなってきた。」

「すまん。」

「なあ、コルス。」

「なんだ、トニー。」

「芋焼酎ってなんだ?」

「芋を使った蒸溜酒だ。勇猛果敢を意味するサツマの名を冠したサツマイモを使い、勇敢な魂を招き入れる酒でもある。」

「本当か?」

「そうだ。」

「それはいいな。」

「蒸溜酒の生産に並行して高酒精度の消毒液も生産しよう。衛生面の強化を更に徹底させる。疫病や伝染病や風土病や感染症を防ぐ方法は複数化した方がいい。医療の充実化も要検討だ。華陀が欲しいなあ。なんか出現イベントでも起きないかなあ。郭嘉や陳宮がいたらなあ。埋伏の計とか離間の計とかやってみたいなあ。で、出産後の主婦や乳幼児や子供の死亡率を下げる工夫も同時進行で……おい、呑兵衛たち、いい加減にしろ。リーネ、闇エルフの酔っぱらい。率先して酒盛りするな。それらは試食用に用意しただけであって、酒の肴じゃないぞ。その酒樽はどっから持ってきた?」

「これはよいものです、ウララン。」

「誰だよ、ウラランって。えーと、話を続ける。後で冊子にまとめたものを配るからよく読んでおくように。温泉村の酒は林檎酒を蒸溜したものや干し葡萄を作る時に剥いた皮を用いたマール、それとロマラン村から仕入れた黒すぐりを使うカシス・リキュールの販売を強化する。他にも薬草の漬け込み酒も販売する予定だ。嗚呼、清酒を醸したい。米はあるんだろうか? 各々の村で高価値商品な特産品の販売促進を行い、連携しながら販路拡大を狙う。先ずはハミルの街の飲食店に売り込みをかけ、来年にはオーファーアイセルの街などへも販路を拡げる。ミトラス帝国やアスラン帝国も想定商圏だ。気合いを入れろ。その辺の交易の舵取りは敏腕商人のアヘヒロに任せよう。」

「面白い試みだ。任せてくれ。」

「ミトラス帝国の皇帝陛下への献上品として、蒸溜酒や長期保存可能な特産品を用意する。」

「それはいい。皇帝陛下もお喜びになられることだろう。」

「よし、今回はここまでにしよう。……あ~あ、宴会を始めやがった。」






アヘヒロを温泉村へ派遣したお陰で面白い酒が手に入った。

参内した重臣たちは皆沈黙しておる。


「王国の小さな村では革命が起きておる。」


沈黙の理由は、温泉村やその周辺の村々で開発された商品群だ。


「これらと同等、もしくはより以上の品を我が帝国で作ることが出来るか?」


異なる意匠の布が貼られた瓶に詰められている酒精はいずれも透明ながら、悉く味が異なっている。

穀物の風味、芋の風味、林檎の風味。

なかなか個性的だ。


「帝国の技術力は『北嶺の小賢』に負けるのか?」


まだ黙っておる。

発破が足りぬか。

ならば。


「帝国はすぐれた葡萄酒の産地である。それを蒸溜酒にする案が、その『北嶺の小賢』から出されておる。また、ケツァール周辺で生産される珈琲の蒸溜酒も提案されておる。ところで、カカオの実とはなんであろうか?」


ここまで言っても誰も答えぬ。

つまらぬのう。

サタケ辺境伯でもおればよいのだが、南部のケツァールで珈琲生産の視察団を率いさせたために此処にはおらぬ。


「勅命である!」


やれやれ、伝家の宝刀を使うしかあるまい。

やっと重臣たちの背が伸びた。


「予は命ずる。これらの酒に比肩し得るものを醸すのだ。王国の民のみを勝利に酔わせてはならぬ。帝国の庶民が、路地裏の居酒屋でこれより優る帝国産の酒を呑めるようにするのだ! 他国に遅れをとってはならぬ!」


檄を飛ばす。


「「「皇帝陛下の御心のままに!」」」


ふむ。

アヘヒロの報告が精細を欠いているように見えるのは気の所為か?

コルスにも会ってみたいものよ。

さて。

政務も終了したし、久々に街の居酒屋へ繰り出すか。





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