第三一話【理解は遠き空の下】
「なあ、コルス。」
「なんだ、トニー。」
「お前がこないだつぶやいていたクリスマスってなんだ?」
「赤いローブを着た老魔法使いが竜の背に乗って、世界中の子供たちに贈り物をする異教の祭だ。ケーキと鳥の丸焼きと女王様の靴下を捧げるとなおよい。」
「なあ、コルス。」
「なんだ、トニー。」
「お前がこないだ言っていたチョコレートってなんだ?」
「黒くて甘くておいしいもの。カカオの実やバターや砂糖などを用いて作る。」
「菓子なのか?」
「そうだ。そして、女の子が祈りや呪術を込めてチョコレートを作り、男たちに投げつける冬の異教の祭があってなあ。」
「なにそれこわい。」
「なあ、コルス。」
「なんだ、トニー。」
「なんでお前は魚を生で食うんだ。」
「生で食える魚ばかりじゃないぞ。」
「アラルコン村の連中がビビっていたんだ。よくあんな食べ方が出来るなってな。」
「うう、食文化の壁は高く分厚いな。刺身はご馳走なのになあ。今度カルパッチョでも作ってみるか。」
「本気でやめてくれ。」
「闇エルフも旨い旨いと食っていたぞ。」
「あれは酔っぱらっていたからだろう。」
「そうか、酔っぱらわせたらいいのか。」
「コルス、俺たちはお前が心配なんだ。」
「仕方ない。アラルコン村以外では刺身を食べないよ。」
「なあ、コルス。」
「なんだ、トニー。」
「エルフの村に行くと男は歓迎されるって本当か?」
「例えばトニーがエルフの村に着いたとする。」
「おう。」
「三日後には、搾り尽くされて干からびてしまうだろう。」
「お、おう?」
「なあ、コルス。」
「なんだ、トニー。」
「なんでこの芋をサツマイモって呼ぶんだ?」
「サツマというのは勇猛果敢という意味の言葉だ。」
「ほう。」
「不作や飢饉を乗り越えられるような強さを持てますようにと願いを込めて、この芋をサツマイモと呼ぶ。」
「へえ!」
「なあ、コルス。」
「なんだ、トニー。」
「蕎麦粉をこねて麺状に刻んで茹でるって、手間暇かけすぎじゃないのか? それで魚醤のソースに浸けて食うっていうのがよくわからん。」
「トニー。」
「なんだ?」
「これが文化だ。」
「なあ、コルス。」
「なんだ、トニー。」
「珈琲って旨いか?」
「黒糖と山羊の乳を混ぜたら飲みやすいだろう?」
「これで一杯銅貨二〇枚ってのは納得いかねえなあ。」
「銅貨一〇枚以内に抑えるのが今後の目標だ。」
「苦い結果にならないといいがねえ。」
「なあ、コルス。」
「なんだ、トニー。」
「林檎の品種改良って難しいな。」
「タロン村の林檎は温泉村やハミルの街近郊の村々とは異なる方向性で攻める。」
「なんか似たようなもんに見えるけどなあ。」
「差別化を図らないと、多様な品を求める消費者の気分で発生した過酷な価格競争のためにあえなく敗北するおそれもある。質がよいから売れるというのは時に幻想だ。だから、油断してはいけない。ただし、生産品の品種改良は常に意識すべきだし、市場調査を積極的に行っておいしいものをより高みに持ってゆくのは生産者の意欲次第だ。我々は敏感に状況に対応し……。」
「ごめん、コルス。難しくてよくわからん。」




