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第三話【翼竜の血】

書けば書くほど迷宮です。

オレの名はコルス。


異世界へ転生しちゃった七歳の村人だ。


現在温泉村の温泉旅館で暮らしている。


ここは温泉村と呼ばれるだけあって、村人は皆肌艶がよく清潔だ。


古代帝国時代から続くという温泉は歴史が古く、湯治に来る者も少なくない。


元々薬効のある温泉をオレが【力】で源泉強化したので、怪我や病気を癒す湯として評判となっている。


実際、よく効く。

貴婦人はよく金を落としてくれるので上得意だ。

くくく。


かーちゃんの経営する旅館も割合に繁盛していて、兄貴と姉貴とオレがてんてこ舞いになることも時々ある。


村が豊かになるのはよいことだ。


村の市場には時折露店商が店を構え、様々な品を売っている。


クロフツ爺さんお手製の革製品を持ち込んで、オレ自ら販売に勤しむこともある。

まあ、代理販売だな。

売り上げは爺さん七割、オレ三割。

爺さんは半々でいいといったが、その腕前は高く評価されるべきだ。

オレは口だけなんだから。

素材はオレが持ち込み、加工して貰っている。

爺さんは最近弟子を持つようになって、その匠の業を更に高めていた。


オレ特製の林檎酒は隠し玉だ。


同居人の闇エルフのリーネは周りを刺激するといけないから、厨房で料理を特訓して貰っている。


さて、店開きだ。

革製品に林檎酢に岩塩に蜂蜜を机の上に見本として並べた。


先日狩った翼竜は尻尾抜きでもバス並みのでかさだったので、翼を使ったマントは家族全員(勿論リーネも含む)に行き渡ってまだ余ったし、革鎧はとーちゃんと兄貴とオレとリーネに作ってもまだまだ余った。


元冒険者のとーちゃんが何故か涙目だったのはご愛敬だ。


次の目標は火竜だな。


一級の冒険者でもなかなか狩れないらしい。

そのうち暇を見つけて狩るべ狩るべ。


オレが店を開くと知り合いの商人たちが殺到して、めぼしいものは即時完売する。


がっついてるなあ。


「コルス、そのマントはなんだ?」


午前中に売り切れたので馴染みの隊商のおっちゃんとお茶を飲んでいたら、木箱に載せていた翼竜のマントに素早く目をつけられた。


「翼竜のマント。」


「はあっ? な、なんでお前が、よ、翼竜のマントなんぞを持っているんだ!?」


竜の翼は加工が難しいし、そもそも素材がなかなか手に入らない。


レアアイテムちゅうやつやね。


冒険者が必死になって倒した翼竜は傷だらけで、殆ど使えないし。


翼竜一体丸ごとあれば一財産だ、とは冒険者のよく使う言葉だが、オレはそこで踏みとどまるつもりなどない。


「おねえちゃんが翼竜を狩ったから。」


「おねえちゃん? 姉貴ってお前はいつも呼んでいるよな。親戚か誰かが冒険者なのか?」


「おねえちゃんはね、闇エルフなんだよ。」


「や、闇エルフ!? コ、コルス、その子供喋りを止めろ。ワシにわかるように話せ。」


「闇エルフを助けたら彼女は元冒険者で翼竜をあっさり狩ったんだ。このマントはクロフツ爺さんお手製だぜ。」


「クロフツが作ったのか。よく出来とる。で、コルス。」


「大人用だと金貨一〇枚ってとこかな。」


日本円で大雜把に換算すると一〇〇〇万。

相場がわかんないや。


「買った! コルス、あと何枚作れる?」


「爺さん次第だけど、五着くらいかな。」


帝都辺りに持ち込めば、金貨二〇枚くらいにはなるだろう。


稀少な品だし、おっちゃんに利益も出させないといけない。


匙加減は意外と難しいと思っている内、おっちゃんがあきんどの顔になる。


「コルス。」


「翼竜の牙や爪もある。血もあるぜ。」


「翼竜の血? そんなもんまであるのか?」


「粉状にしてあるから、日持ちする。」


陶器の小瓶を机の上に置いた。

これだけで、金貨二〇枚はくだらない。

王族貴族富豪ならばもっと出すだろう。

竜の血は万能薬として珍重されている。

粉状にするにはかなりの施設が必要だ。

血を採取して時間凍結させ、加工する。

血が腐ったら、その時点で駄目になる。

計画的に狩れるような存在ではないし。

オレからしたら【力】で水分を飛ばすだけだから、そんなに手間暇はかからない。

次元刀で首を落とし、血を抜き取って水分を飛ばすだけなので実に簡単な作業だ。


村のすべての家庭に翼竜の血があるのはここだけの話で、竜の血のお陰で村人は若々しく艶々である。

他所の者には温泉の恩恵と映っている。

確かに温泉の恩恵もあるが、それだけではないんだな。

リーネは今や、村にいてもらわないといけない存在になっている。


くくく。

思惑通り。


「コルス。」


「金貨二〇枚かな。」


「何人知っている?」


「おっちゃんが初めてだね。」


他所の者としてはな。


「幾つある?」


大量にあるが、値崩れしても困る。


「二〇個あるよ。」


実はもっとある。


「全部くれ。」


「即金?」


「金貨二〇〇枚なら今ここにある。」


「いっぱい持ってるね。」


「茶化すな。」


「じゃあ、先ずは値段分。これはおっちゃんへのおまけ。」


全部で一一個渡した。


「コルス、いいのか?」


「おっちゃんとはこれからも長い付き合いになると思うから、長生きしてもらわないとね。さっそく試してみたらどうだい?」


ほんのひとつまみをおっちゃんは口にした。


「む、むう。なんじゃ、この全身にみなぎる力は?」


「それが本物って証拠さ。」


「どうやって作った?」


「ないしょ。」


教えても意味不明だろうから、説明するだけ無駄だ。


「こんな時だけ子供ぶりおって。」


「マントは今度おっちゃんが来る時までに縫ってもらうよ。」


「明日、翼竜の血の残金を払う。」


「はい、じゃあ、これ。」


翼竜の血の小瓶を一〇個渡す。


おっちゃんはため息をついた。


「コルス、ワシが騙したり持ち逃げするとは思わないのか?」


「そしたら、今後付き合わないだけさ。」


おっちゃんは儲けるのが大好きだが、そんなに悪辣ではないと知っている。

裏切られたら、それはオレに人を見る目がなかったというだけに過ぎない。


「はい、これ。」


【力】で度数を高めた四〇度の林檎酒も渡す。

ヨイチと名づけた特級品。

銀貨二枚で販売している。


「これは?」


「オレがおっちゃんを信用している、っていう気持ちさ。」


おっちゃんが真顔になる。

瞳が少し潤んでいた。


「ところでさ。」


「な、なんじゃ?」


「これらが火竜の血やマントだったら、一体幾らになるかな?」


「ワシの感動を返せ、こんにゃろめ!」





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