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第二八話【円環の理】

たぶん、ここは夢の中だ。

そう、コルスは判断した。

青みがかった、高級な調度品の置かれた部屋。

そこのふかふかした長椅子に彼は先程から座っている。

他にも何人かいるみたいだ。

自分自身がなにかぼんやりした影のような形であることを自覚するが、周りの人影もなんだか同じような感じを受ける。

彼らは転生者だ。

なんとなくわかった。

転生者同士の親睦会でもやらかすつもりだろうか?

あまり長居したい雰囲気でもない。

空間切断或いは次元切断でもして脱出を図るか。


「皆さん、物騒な考えはやめていただきたいものですな。」


甲高い声の壮年の男が左右に若い男女を引き連れて現れた。


「ここは青の部屋。意識と無意識の狭間にある場所です。」


男はぎょろりとした大きな目玉に、シラノ・ド・ベルジュラックみたいな長鼻が特徴的だ。


「皆さんに危機感を持っていただきたいのです。先日、何人もの転生者が魔王によって討ち果たされてしまいました。」


ざわざわした気配で動揺した雰囲気は伝わってくる。


「魔王は強大な力を有しており、単純な力比べでは皆さんに勝てる見込みが御座いません。」


魔王は転生者狩りでもしているのだろうか?

何故?

何故そんなことをする?

邪魔だから?

何故、邪魔になる?

オレたちは討伐対象だとでもいうのか?

何故?

何故、討伐対象になる?

オレたちは、もしかしたら尖兵なのか?

だとすれば、誰の?

誰の、尖兵なのだ?

オレたちの存在意義は……。


「このままですと、下手をしたらここにいる全員がカロンの舟に乗る羽目になりかねません。」


この男はなにか重大なことを隠している。

確信した。

だが、知らぬ間に自分をこんな場所に連れてきてしまう力を持つ相手だ。

喧嘩をするなら、先ずは相手のことをよく知らないといけない。

弱みを握らなくてはならない。

もしくは先手必勝、相手の機先を制する。


「そこで、新たな特典を用意しました。」


勿体ぶった言い方だ。

気に入らない。

現状の敵対勢力ではないにせよ、警戒する必要がある。


背中から撃たれるのは真っ平御免だ。

男が懐から一枚のカードを取り出す。


「このカードさえあれば……。」


パチン。

コルスは指を鳴らす。

男によって高々と示された札が真っ二つになり、その片方がはらりと落ちて溶けて消えた。

禍々しい力が微かに漏れていた。

ろくでもない代物に間違いない。


「あんたのお先棒を担ぐのは御免こうむる。」


コルスはそう宣言した。

気配を探ると、どうやら他の面々も同じ考えのようである。


「これは取り引きではないのです。無償の提供です。」

「世の中、タダほど高いものはない。」

「誤解なきよう申しあげますが、これは善意から申し出ているのですよ。」

「人を勝手に此処へ呼びつけた奴の善意を信じろというのか? ずいぶんなめられたもんだな。」


ぼんやり感じられる他の者たちはなにも言わず、なにもしようとはしない。

だが、二人の動きを無視している訳でもない。

推移を見守っているのだろう。

それぞれから強い力を感じる。


「元の場所に帰せ。」

「交渉は決裂のようですな。」

「交渉? いや、それは違うな。あんたの都合通りにオレたちを働かせようとしただけだろう。フラック! 出番だ!」


コルスの陰からすうっと現れたは小男。

それは地獄の道化師。

伝説の妖魔にざわつく周囲。

長鼻の男の傍で控えていた男女が身構える。かなりの遣い手のようだ。

一触即発の気配。


「流石はお館様! このフラックめに早速出番を与えてくださるとは! この劇場はやや手狭ですが、踊るには充分で御座います。観客の皆様にも楽しんでいただかないとなりませんな。」


シャンシャンシャンと錫杖を鳴らしながら踊る地獄の道化師。その足元でなにかが蠢いている。


「い、致し方御座いませんな。皆々様を元の場所に戻しましょう。」

「お館様、少々踊ってもよろしいでしょうか?」

「そうだな……。」

「お、お待ちください! ここで魔物に暴れられては後々困ります。」

「オレは全然困らない。一方的に理不尽にやられるのは嫌いなんだ。」


同意する他の者たちの気配。

魔方陣が足元で点滅する者や魔力のおそるべき高まりを示す者もいる。


「わかりました。今回は皆々様の意思を尊重しましょう。」

「尊重しない事態も発生する可能性があるということか?」

「混ぜっ返さないでください。それではこの辺で失礼いたします。」


部屋の風景が歪みだした。


「お館様。あの者たちの石像は如何でしょうか?」

「いらん。」


そう言った瞬間、コルスは気を失った。

渋々彼の陰に移動する妖魔の気配が直前に感じられた。





翌朝。

コルスは暴れられなかった妖魔から、延々愚痴を言われたのだった。


「二回も! 二回も戦いの機会を逃したのです! あな口惜しや、あな口惜しや。あの鼻長男に冷気を一吹きしとう御座いました。折角の好機でしたのに……。」




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