第二六話【カマクラ】
北嶺にあって寒冷な気候の温泉村及びその周辺では、冬になるとそれなりの積雪量がある。
冬期は陸の孤島になるのが当たり前であったが、昨年からはコルスの指導で雪かきを頻繁に行って交易を促進するようにしていた。
特産品の林檎を真冬の時期に販売することが出来るのである。
林檎酒やアラルコン村のエールやその他の特産品も販売可能。
冬に動けることは様々な意味で利点を生み出すことになった。
屋内でひっそりと春の訪れを待つ日々は終わりを告げたのだ。
普段薬草園やその周辺の警備業務を行う斥候隊が雪かきの主力となり、鋼鉄製の匙あるショベルを持って作業に邁進している。
鋼の意思持つ不屈の男どもが折れない心とショベルを持って雪の塊と格闘するのだ。
ハミルの街は気候の関係でさほど積雪がないから、冬場も普通に交易を行っている。
故に、ハミルの街まで難なく往還出来るようにすることが温泉村の冬の命題である。
具体的には、温泉村から徒歩で三日かかるロマラン村までの道を通す必然性がある。
ロマラン村以南はそこの村民やハミルの街の人間が対応すべきことだ。
彼らだって生活がかかっているのだから、利点が大きければ動くのだ。
むさ苦しい男どもが妙に気合いを入れて雪かきする様は獲物を追う人食い鬼にも似て、恐れおののく者さえ現れる始末だったがそれは致し方ない。
そもそも顔の造りのごつい者が殆どなのだから。
薩摩隼人の如く勇猛な斥候隊隊長が隊員たちに発破をかける。
「我ら雪かきに力を籠める者たちナリ!」
「「「おうっ!」」」
「我らの身は斥候にして不倒の決意に溢れた者たちナリ!」
「「「おうっ!」」」
「我らは剣! 我らは楯! 我らは雪かきをして商いの道を切り開く者ナリ!」
「「「おうっ!」」」
「我らの為すことは、豊かな暮らしを作るために必要なものナリ!」
「「「おうっ!」」」
「皆に問おう! 我らに力はありやなしや?」
「「「勿論ありナリ!」」」
「もはやなにも言うまい! ひたすら雪かきするナリ!」
「「「おうっ!」」」
暑苦しいこと著しいが、確実に効果は現れていた。
多人数で業務を行っているから作業の進捗が早い。
武装勢力が精力的に活動しているから、街道は安全地帯である。
コルスの発案によって『カマクラ』と称する簡易休憩室が幾つも作られ、作業効率を向上させていた。
それは雪のみにて作られた雪洞で居住性は悪くなく、中の保温性は意外に高い。
中のむせかえるような男どものにおいが、特定の人々にはたまらないかもしれないと視察に訪れたコルスは考えた。
彼と一緒にいた商人のアヘヒロが熱い眼差しで見つめられていたのは、たぶん戦力として期待されたからであろう。
吹雪いてくると、流石に作業は中断する。
旅人がカマクラへ避難することもあった。
夜をカマクラで過ごす者もちらほらいる。
夜中になると呻き声がカマクラのそこかしこから聞こえてくるのが難点ではあったが、それはほんの些細なことだ。
そのうち、彼らは冬の風物詩になるのだろう。
ラッセルにハッスルするマッスル。
むさ苦しさ満点ではあるが。
『ハイッテタンセ』と呼ばれる、本陣的大型カマクラ。
その中に設置された火鉢で焼いた干し魚や干し肉をかじりながら、コルスは半袖で走り回る斥候隊の面々を苦笑いしつつ眺めたのだった。




