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第二五話【隣り合わせの剣と魔法】

えいしょう……ささやき……いのり……ねんねんころりよおころりよ。

とある地下迷宮深層。


シャンシャンシャンと錫杖を鳴らしながら、道化の服を着た小さな男が愉快そうに踊っている。

顔はヒビの入った仮面に覆われて、当然ながらその表情は窺えない。

仮面の口は裂けたように開かれていて、男は時折凍気の息を噴いた。

辺りに雪の結晶が舞い、幻想的な風景を生み出す。


「愉快です、愉快です。」


何回もとんぼを切る。


「あの方が来られる、あの方が来られる。」


喜悦のこもった声。

心の奥底からの声。


「この劇場もすっかりさびれてしまいましたが、お客様たちを迎える準備は万全に行われなければなりません。」


シャンシャンシャン。

錫杖を何回も鳴らす。


「嗚呼、待ち遠しい。こんな気持ちは一〇〇年ぶりですな。」


くるりくるり。

冷徹な狂気の塊が狂喜しながら踊り狂う。


「かの魔術師も面白い御仁でしたが、新たな主も個性的な方のようです。」


「あの忌々しい賢竜も狂王もいない今、私の為すべきことはひとつだけ。」


観客に向けるように手を広げる。


「軽業師に象に踊り子に虎に大鴉に少年。揃えるべきものたちを集めなくてはなりません。」


哄笑する高位妖魔が闇に溶けてゆく。





温泉村近くには入口の朽ちかけた迷宮がある。

その名をハネケン迷宮という。


昔の王朝時代には魔物が跳梁跋扈し冒険者たちが頻繁に訪れたらしいが、今では無人らしい。

嘗ては剣と魔法の時代だったのだ。

だが、今では剣しか残っていない。

それも、錆びかけた古い剣だけだ。

魔法使いも今は絶滅危惧種扱いだ。


タロン村の新人村長であるトニーは寂しそうに言っていた。


「昔の魔法使いは猛炎や爆炎や吹雪を巻き起こし、僧兵は如何なる傷も癒し、侍や忍者がばったばったと魔物を倒していたそうだ。お伽噺でしか知らないけどな。」





「という訳で、今回は迷宮探索を行う。」

「なんだかエセルナートみたいですね。」

「リーネ、メタ発言禁止。」

「むう、仕方ありません。」





迷宮探索隊の面々とその職業及び装備は以下の通り。


【コルス】

種族:人間

職業:村人

年齢:七歳

特徴:子供

性格:おっさん

特技:指パッチン(グルンガストも真っ二つ!)、三つの力

弱点:体力

装備:出刃包丁改六(ムラサマブレード相当)、小さな匣(四次元ポケット相当)、翼竜のマント(シャーマン戦車並の装甲)、キマイラの羽根(某翼相当)


【リーネ】

種族:闇エルフ(元ハイエルフ)

職業:精霊使い

年齢:外見は人間換算で一二歳くらい、中の人は千年女王

特徴:美少女

性格:知恵袋、ほんのり郭嘉風味の知識人

特技:雷電的解説

弱点:コルス

装備:精霊の弓、翼竜のマント


【サーニャ】

種族:エルフ

職業:歌姫

年齢:外見は人間換算で永遠の一七歳、中の人は今一つ不明

特徴:おっぱい美少女

性格:おっとりさん

特技:怪力、エナジードレイン、ぱふぱふ

弱点:太陽光、聖なる力

装備:星球式槌矛モルゲンステルン改二、身かわしのマント


【フリートヘルム・キルステン】

種族:人間

職業:騎士見習い、コルスの護衛

年齢:一〇歳

特徴:赤毛の美少年

性格:騎士の中の騎士

特技:アンネリーエ召喚

弱点:アンネリーエ

装備:真っ二つの剣、革鎧改一、木製の楯、鉄兜


探索隊ではないが、おまけ。

【アンネリーエ・ミュールマイスター】

種族:半妖

職業:料理人、縫製師、狂戦士、戦乙女

年齢:一五歳

特徴:一見儚げ系美少女

性格:フリートヘルム限定でやらしい人、通常はやさしい人

特技:フリートヘルムの危機を察知して、瞬間的にその場へ出現可能。魅了の力は皇帝や王をも虜にするが、勿論そんなことには使わない

弱点:フリートヘルム

装備:出刃包丁改三(カシナートの剣相当)、妖精の針、派手な下着(エロス+五)、貞淑そうに見える服(紙装甲)、媚薬、精力剤





「本日の前衛を担当するキルステンだ。」

「僕の名前はフリートヘルム・キルステンです。よろしくお願いします。」

「あら、可愛い坊やですね。わたしはリーネです。今後ともよろしく。」

「サーニャです。よろしくお願いします。」

「リーネとサーニャ、あんまりキルステンにべたべた触らない方がいいぞ。美人の婚約者がすっ飛んでくる。」

「迷宮へですか? なんの冗談……。」

「フリート。辛い時はわたしの名前を呼ぶのですよ。」

「はい、アンネリーエさん。」

「あら、呼び捨てでいいのよ。」

「そういう訳にはいきません。」

「い、いつの間に……。」

「ミュールマイスターさん。お仕事に戻って欲しいんだけど。」

「はい、わかっています。フリート。名残惜しいけど、無理はしないでね。」

「はい、アンネリーエさん。」

「兎に角潜ろうか、皆の衆。」





「『鬼火』を呼び出しました。これで視界は良好ですね。エルフは夜目が効きますからわたしたちには不要ですが、人間は闇を見通せないので明かりが必要ですね。不便なものです。」

「壁は落書きだらけですね。『ララ・ムームーには気をつけろ!』『俺たちの戦いは始まったばかりだ!』『うほっ、いい男!』『信頼のボッタクル商店では二四時間買い取りを実施しております!』『ムラムラするの禁止!』『マンフレッティの店にて熱烈謝恩会開催中!』『邪悪な魔術師の事務所は午前九時から午後三時まで営業中! ご用の方は事前連絡を!』『逃げちゃダメだ! 逃げちゃダメだ! 逃げちゃダメだ! 逃げちゃダメだ!』『戦士Ⅱはサキュバスを激しく突いて、そして外した!』『引き返せ! 出来る限り早く! 死の運命に囚われた者たちよ!』『マイルフィックのニコヤカ商会近日開店予定!』、と沢山あります。」

「なんか変なのないか?」

「落書きとはそういうものです。」

「生きている者の気配は感じません。」

「この階層に敵はいないな。生命反応がない。階段はあっちだ。」

「コルスの空間把握能力は便利ですね。」

「全能じゃないけどな。おっ、宝箱を発見したぞ。よーし、中身を取り出した。」

「あの、コルスさん。今のは?」

「まあ、オレの特殊能力だと思ってくれたらいい。古い銀貨だな。帰ったら曇りを落とそう。」

「これは古代王朝時代の銀貨ですね。下手に曇りを落とさず、このまま売った方が儲けになります。銀貨一〇枚かそれ以上の価値があります。」

「よし、さっそくお宝入手だぜ!」





「あんまりお宝はないな。」

「下の階層に降りなくても魔物や宝箱の存在がわかるというのは便利ですね。」

「大炎や快癒などの呪文が使えるならまだしも、やられたらそれまでだしな。」

「魔物はいそうですか?」

「モンスターアロケーションセンターすらもぬけの殻だ。青いリボン入手。昇降機は動くのかな? 取り敢えず地下八階まで検索してお宝を此処まで飛ばし、一旦帰宅する。」

「了解、周囲の警戒を続けます。」

「小鬼も人食い鬼も巨人もなにもいないですね。」

「今回が初陣ですが、空振りに終わりそうです。」

「いきなりレッサーデーモンやグリーンドラゴンなどが現れても困るし、まあ、こんなもんかな? ん?」


迷宮の構造を調べていたコルスがピクリとした。


「帰ろう。」


突然、彼は重々しく言った。

一体、どうしたのだろうか?


と、その時。


チン、と鐘を鳴らすように軽やかな音がした。

遠くで扉の開く音がする。

ひたひた。

ひたひた。

なにかの近づいてくる足音が聞こえてきた。


「なにっ! 昇降機が今も生きているのか! リーネ、『水の壁』を! サーニャ、槌矛を構えろ! キルステンはオレの傍に! オレは座標を確認して、転移準備を始める!」


シャンシャンシャンと鈴の音が聞こえる。

やがて、暗い通路の先から緑色の道化服を着て錫杖を持った小男が現れた。

激しい凍気が迷宮の廊下に広がって、瞬時に水の壁は砕け散る。

彼は割れた仮面の下から愉快そうな声を出して話しかけてきた。


「おお、皆様、何処へ行かれるのですか? お待ちください。私はもう一〇〇年以上待ち続けていたのですよ! おお、なんと豪勢な面々なのでしょう! 精霊公に不死姫に、それに……これは実に素晴らしい! ずっとずっと此処にいた甲斐があるというものです!」

「座標を確定した。撤収するぞ。皆オレに掴まれ。」

「な、なんと!? 一戦もしてくださらないなんて、そんなむごいことを仰らないでください! 私はどうなるのですか!?」

「知らん! 伝説の妖魔がどうなろうとオレは知らん!」

「流石です! 流石です! 私のことは既にご存じなのですね! ならば我が名もご存じなのでしょう?」

「知らん!」

「いえ、そのご様子では絶対ご存じの筈! わかりました、このフラック、お館様のために身命賭けて働きましょうぞ!」

「わあ、この妖魔、自分で売り込んでオレの元へ押し掛けるつもりだ!」

「私は戦いたいだけなのです! 冒険者たちと血沸き肉躍る戦いをしたいだけなのです!」

「そんな時代はとっくに終わった!」

「なんと……そんな……くっ、殺せ!」

「おまいは女騎士か。知らんよ。あと一〇〇年くらい待てばいいんじゃないの?」

「そんなに待てません!」

「『地獄の道化師』なんていらん!」

「おお、流石はお館様! 我が二つ名をご存じとは! これは生涯仕えねばなりませぬ!」

「必死に求職しないでくれ!」

「よいではありませんか! よいではありませんか!」

「魔物としての誇りはないのか!」

「ここを逃すと、永遠に就職出来そうにない気がします! かの魔術師の事務所とは既に雇用契約が終了しております! 普段はお館様の影に潜んでおりますので、なにとぞ! なにとぞ! お慈悲を!」

「オレは代官かっ! 勝手に影に潜むな!オレではお前の欲望を満たせない! 諦めろ!」

「なにを仰いますやら、お館様! お館様からは戦のにおいが色濃く漂っております!」

「トレボーと一緒にしてんじゃねえ!」

「おお、あの忌まわしき狂王! あやつも無事に黄泉路を渡りました! 亡霊も成仏済みで御座います! 今こそお館様の時代で御座います!」

「オレは村を豊かにしたいだけだ!」

「わかりました! 取り敢えずそういうことにいたします!」

「待てい! 勝手に納得してんじゃない!」

「不肖、このフラック、お館様の手足として必ずやお役に立ってみせましょうぞ!」


ふっ、と妖魔が消えた。


「……真っ二つにしてもあいつの『本体』は死なないからなあ。変な奴に見込まれてしまった。とほほ。」

「コルス。」

「なんだ、リーネ。」

「古人曰く、『諦めが肝心』。」

「ぎゃふん。」





*コルスはあたらしいぶかをてにいれた*





『隣り合わせの灰と青春』に於いてフラックは火の息を吐きますが、此処では原典回帰としまして凍気の息を吐いています。


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