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第二話【甘味料】

飲食品は謎が多いです。

今回の話は自己解釈がかなりあり、南瓜から砂糖が出来るという実話を参考にしています。

オレの名はコルス。

異世界へ転生しちゃった、温泉村の温泉旅館に住む現在七歳の子供だ。


ここは林檎と林檎酒が特産品の小さな村。


なんちゃって中世・近世風欧州的異世界へ転生してなにが不足するかといわれたらすべてとなるが、医療と治安に関してもかなり不安が残る。


風邪が流行すれば簡単に人は死に、飢饉が起きれば飢えて死ぬ。

抗生物質?

なにそれおいしい?


医療は半分まじないであり、乳幼児の死亡率も高い。

衛生観念そのものが存在しない。


治安は領主の責任だけど、街や村をちょっとでも離れたらそこは無法地帯だ。


盗賊団は日常的存在だし、騎士崩れや戦士崩れがいたら戦力的におそろしい。


行商や隊商は命がけの商売であり、博奕に近い要素がある。

儲かるか黄泉路行きかは運次第。


よって、行商人自体が腕の立つ戦士だったり元冒険者が商人になって隊商を組むこともある。


この世界の食はまだまだ遅れていて、元の世界で当たり前のように食べることが出来た食事に程遠いものが基本だ。


焼くなら焼くだけ、煮るなら煮るだけ。


うん、料理革命は必要だ。


岩塩が村近くのオサミシ山脈から産出するのがわかった時はとても嬉しかった。


さっそく夜に寝台ごと空を空間移動して塩掘りに出掛け、空間切断と制御を使って掘れるだけ掘る。


範囲選択して、塩とそうでないものを選り分ける。

塩だけを判別して、純度の高い塩にした。

小さな異次元収納箱に収め、鞄に入れる。


異次元の中は時間が止まっていて、中のものはいつまでも新鮮なままだ。


これを何度か繰り返して、台所の塩を豊かにした。

勿論、村の面々にもお裾分けする。

良質の塩は高価な品なので大変喜ばれた。


胡椒は存在しているのかな?

まだそれはわからない。

探索続けるべし。



問題は甘味料だ。


砂糖どころか黒糖を入手するのも高価且つ困難で、菓子屋なんて洒落たものは大都市くらいでしか成立しないらしい。

しかもそれは裕福な商人とか貴族とか王族とかの御用達で、庶民には無縁の世界。


うーん。


林檎を使った林檎酢は既に実用化させたが、甘いものが日常的な存在だった世界から来た者としては是非ともそれを普段使い出来るようにしたい。


隊商のおっちゃんに話をしてみると、甘いものなんて王族貴族富豪の食いもんだと言われた。


むむむ。


あ、あきらめてはいかん。


南ではサトウキビを収穫して、黒糖を作っている。


規模が大きくなればこちらにも回ってくるだろう。


……いや、いつになるんだ、そんなの。


爺さんになってからやっと甘いものを食べられるようになって涙を流すなんて、ちっともありがたくない。


サトウダイコンはどうだ?


だが、この世界には該当する野菜がない。


大根も米もないようだ。


麦芽糖はどうだとも思ったが、麦の収穫量は甘味を作れる程豊かな訳でもない。


うーん。


柿も薩摩芋もないようだが、何故か馬鈴薯はある。


なんだ、この世界。


果糖を砂糖化するのが早いかなあ。


養蜂も考えてみたが、教会が儀式に使う蜜蝋の関係で修道院は養蜂場を経営している。

下手に手を出して、宗教関係者を敵に回したくない。


天然の蜂蜜ならば問題ないが、供給は不安定だ。


林檎の糖度を高めることは出来ないかな?


収穫前に落ちて駄目になった林檎をすべて買い取って裏庭に時間凍結して置いてあるのだが、ひとつ試しに糖度向上を試してみた。


水分を含むものならば自在に操れる力を応用して、糖度を高めてみる。


思った以上に糖度が上がる。


皮がとろんとろんになった。


林檎を空間固定し、皮を空間切断してみると半ばジュースになっていた。

水分を飛ばすと、林檎糖の出来上がり。

林檎のほのかな香りがしていい味わい。

薄黄色のやさしい色合いが特長たる品。


裏庭の林檎を空間固定し、先程と同じように糖度を高める。

今度は思いきり高めてみた。

けっこうな量の林檎糖が出来る。


村の女衆を呼んで、林檎糖を使った焼きメレンゲをふるまう。


大好評だった。


「貴族様みたいだねえ。」


「コルスはほんに面白いことを考えるよ。」


林檎糖を皆に配る。

歓声が起きた。


村の女衆を味方に付けるのは大切なこと。

そうさ、旨いもんでこの村を満たすのさ。





先日助けた闇エルフのリーネは頭の回転が大変早く、手先も器用だった。


人間でいうと一二歳くらいに見える美しき少女は、オレの有能な助手だ。


彼女に旨い料理を作ってもらおう。


そうしよう。


猪や兎や鳥を捌くのも上手いし、川魚をおろすのも上手い。


簡単な漬け物を教えたら、短期間で名人級の腕前になった。


村の面々にも漬け物を教えたが、一番上手いのはリーネだ。


彼女は精霊魔法を使えて、弓矢も扱える。


闇エルフというと迫害されることが多いらしいけれども、オレが身元保証人なのと礼儀正しく明るい性格で意外とすんなり受け入れられた。


闇エルフを実際に見たことがない連中だったから、なんとかなったのだろう。


「コルスは甘いものが本当に好きなんですね。」


今は少女先日までは老婆だった闇エルフが微笑んだ。


村の近くの林で茸を狩ったり兎を狩ったりしている。


「そうさ。オレ、甘味王になるんだ!」


「ふふふ。貴方は面白い。あそこに蜂の巣がありますよ。」


よしよし。


蜂蜜を入手だ。


蜜のみを分離して瓶詰めし、一丁上がり。


「器用な能力ですね。」


「まーね。」


「……コルスは何者なのですか?」


「オレ、村人。七歳の子供。」


「とてもそうは見えません。」


林を抜けると竜が見えた。


「おっ、翼竜だ。狩っていこう。」


「当たり前みたいに言いますね。」


翼竜がこちらに向かってくると同時に次元刀で首を切断。


魔法も火の息も使わないし楽勝だ。


血抜きをしながら、解体してゆく。


翼竜の血は万能薬の元なので能力で粉状にして瓶詰めし、異次元収納箱に収めた。


肉や臓器や皮や爪や鱗などを部位ごとに仕分け、これらも箱に収める。


「翼竜の翼でみんなのマントを作ろう。リーネって、皮をなめしたり加工したり出来る?」


「なんでもは出来ませんよ。出来ることだけ出来ます。」


「そっか。わかった。」


リーネが何故か呆れた顔でオレを見つめる。


「今夜は焼き肉だ。村の衆を集めようぜ。」


お肉がいっぱい!

岩塩をまぶしてばちばち焼くぜ!


「翼竜といえば、本来三級以上の冒険者が集団で仕留める対象ですよ。」


「ふーん。じゃあ次はオークでも狩ろうかな。」


「オークも四級以上の冒険者が狩る相手です。」


「リーネは冒険者だったの?」


「一応、二級でした。」


「またまたご謙遜を。」


「昔話ですよ。コルスは難しい言葉を知っていますね。」


「本を読んだだけさ。」


「そろそろ帰りましょうか。」





翼竜はわたしが狩ったことになっていた。


やられた。


コルスの宣伝は巧みで、わたしが頼れる闇エルフという評価を村人たちに印象付けることに成功していた。


この子にはかなわないな。


あどけなく隣で眠る自称村人な不思議少年をしばし見つめ、わたしは眠りについた。




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