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第一九話【夜の歌姫】

エルフの娘であるサーニャが目を覚ましたのは夜中だった。

どうやら崖から転落したらしい。

それにしては体に痛みを感じないのが不思議だったが、娘は体を起こした。

転落してからどれだけ時間が経ったのだろうか?

かつては治癒魔法というものが存在したらしい。

しかし、それは失われてから久しかった。

かなり上から落ちた筈なのに、痛みを感じないことなどあるのだろうか?

娘はぼんやりした頭で考えたが、よくわからなかった。

エルフの村を追い出された娘はあまり知性的ではない。

彼女は両親親戚縁者からも見放された。

娘が小さな頃は一族揃って教育熱心だったのだが、結局匙を投げられたのだ。

格別美しいということもなく、なにかに適性が見られる訳でもない。

精霊魔法は上手く使えず、弓もろくに扱えなかった。

遺憾であるが、彼女は落ちこぼれの烙印を押された。

エルフは長命だから、烙印を押されたならば余計に厄介である。

村を放逐されるということはどこかの村か街で生きるしかない。

だが、エルフの集落で暮らしたことしかない世間知らずの娘だ。

人間やドワーフらと共に暮らせる見込みはとても低いであろう。

下手をすると娼婦か奴隷である。

エルフ自体が稀少な存在なので高値が付くだろうが、娘がその生活に適応出来るかどうかは未知数だ。


現在の娘の肌は非常に青白い。

他のエルフと比べてもかなり色白だ。

蒼白ともいえる。

あまり細かいことを気にしない娘なので、兎に角歩いてみることにした。





どうも日中歩いていると大変疲れる。

娘は日陰でしばらく休むことにした。

今までこんなことなどなかったのに。

体質がどこかで変わったのだろうか?

娘はぼんやりした頭で考えたが、なにも思いつかない。

日が暮れてから動こう。

そう、思った。

どこかの村で暮らせたらいいなあとは思ったが、自分のような娘が受け入れてもらえるかどうかは不明だ。

雄大な山脈の中で娘はのんびり歩くことにした。





どうもおかしい。

娘は違和感を覚えた。

全然お腹が空かないのだ。

いかに少食のエルフといえど時間が経過すれば空腹になる。

当たり前のことだ。

だが、それがない。

娘が山脈に現れる動物たちに近づくと、どうしたものか皆ばったばったと倒れた。

ぼんやりしている内に体内がなにかで満たされる。

ぴくぴくしていた動物たちはやがて動かなくなる。

娘にはその原理がわからなかった。

なんだかよくわからないけど、楽でいいなあくらいにしか思わない。

熊も猪もコヨーテも蛇もなにもかも、娘の通った跡で死骸を晒した。





山脈を迷い迷ってずいぶん日が経ったと思われる頃、村らしき場所が遠くに見えた。

温泉村である。

娘がそちらへ向かおうとすると、絨毯が飛んできた。

娘はのんびりした調子でそれを見る。

まるで昔聞いたお伽噺みたいだと思った。

マントを羽織った少年と闇エルフの少女が絨毯から降りて、自分を見つめていた。

肌の色は違えど、同族に会えた喜びで娘は微笑む。

彼女に危機感はなかった。


「かなり高位か?」

「今までにここまで強力な個体に出会ったことはありません。」

「敵対的感情は見受けられないな。」

「生命力を奪われないよう、充分に気を引き締めてください。」

「了解した。」


二人はなにを話しているのだろう?

自分はもしかしたら受け入れてもらえないのだろうか?

娘はちょっと悲しくなった。


「温泉村へ行こうとする理由はなんだ?」


少年が話しかけてきた。

闇エルフは精霊を呼び出そうとしているようだ。


「私、エルフの村を追い出されたんです。それで、どこかの村か街で暮らそうと思うんです。」


途端。

詠唱を止めた闇エルフが少年に詰め寄る。


「わたしと一緒ですね。コルス、この子を保護しましょう。」

「リーネ、打ち合わせの時に言ってたことと全然違うじゃないか。」

「臨機応変に対処すべきです。」

「しかし、このまま彼女が来ると村は酷いことになるぞ。」

「なんとかしてください。コルスならきっと出来ますよ。」

「ひでえ!」

「あの……私、やっぱり去ります。ご迷惑をおかけする訳にはいきませんから。」

「ちょっと待ってくださいね。ほら、コルス。彼女が可愛そうじゃないですか。」

「ええーっ! こんな高位の力を封じる護符とかそんなものなにかあったっけ?」

「あの……ご迷惑ですよね?」

「少し待っていてください。コルスが必ず旗をへし折ってくれますから。」

「旗?」

「ええ、厭な旗です。」

「ええと、空間制御であの子の周辺を結界で覆ってしまえば……或いはウルスラの腕輪みたいな魔道具があれば……それともなにか中和力を持つ品を所持させ……。」

「あの……。」

「あのさ、その力を限界まで絞れない?」

「絞る、ですか?」

「こんな感じでさ。」


少年がぎゅっとなにかを絞るような仕草をした。

力ってなんだろうと娘は思う。

自分はエルフの落ちこぼれだ。

そんなことなど出来るのかな?


「コルス、手つきがエロいですね。」

「だって他に思いつかないからさ。」

「はっ! もしかしてコルスはエルフ祭を考えているのですか? 両手に花を狙っているのでしょう。ませてますね。」

「なんだよ、それ。」

「もっと簡単な方法があります。」

「なにかある?」

「以前わたしに行った方法です。」

「時間遡行か。よし、取り敢えずやってみよう! …………なんかえらく抵抗感があるぞ。」

「どうにかなりませんか?」

「今の状態が体にしんなり定着しているんじゃないかな? 無理にやったら壊れる気がする。」

「やはり絞るしかないですか?」

「今思いつくのは、力を制御する方法しかない。」

「娘さん、聞いてください。」

「はい。」

「こうやって力を絞ってみてください。」

「うわ、リーネ、それめっちゃエロい。」

「コルスの仕草の真似をしただけです。」

「あの……やってみます。」


娘は二人の仕草を真似てみた。

むっちゃエロい仕草であった。

映像でお見せ出来ないのが残念だ。

自分自身になんらかの力があって、それを制御出来ないといけないらしい。

彼女はそれを理解した。

娘は一生懸命力を制御しようと踏ん張る。

「もう少し、もう少しですよ。」

「もうちょっと、ほらもうちょっとだ。」





夜が明ける頃、二人から合格点を貰えた。


「やれば出来るじゃないか。これなら問題ないな。」

「よく頑張りましたね。これで大丈夫ですよ。」


二人から褒められた娘は感激のあまり、抱きついた。

生まれてこのかた誰にも褒められたことのない娘にとって、それは天にも昇る心地の言葉だった。


「おお、少し脱力感はあるがなんとか耐えられるな。」

「エロい人に襲われても、これなら撃退出来ますね。」


よかった。

娘は涙を流す。

おろおろする少年とにやにやする少女と共に、村への帰途につこうとした。

日の光が眩しい。

思わずどこかへ消え去ってしまいそうだ。

娘は何故かそう思った。


「なんだか、力が抜けてゆきそうです。」

「この子、どんどん白くなっています!」

「あかん! 空飛ぶ絨毯パワー全開や!」





話し合いの結果。

娘は日中地下室で眠り、日が落ちてから歌をうたって過ごすことになった。

娘にいろいろやらせてみた結果、歌をうたうのが上手いと判明したからだ。

聴衆の前で歌うという経験は初めてだったが、娘はその生活にすぐ慣れた。

人から褒められることがこんなに嬉しいとは思わなかったので、懸命に張り切ったお陰かもしれない。

エルフにしては随分青白い肌だったが、既に闇エルフを受け入れている村の衆にとっては特に問題なかった。

そもそもエルフをお伽噺の存在だと思っていたから、二人もいる状況が不思議にさえ感じられたのだ。

娘の傍に近づくとにょほほな気持ちになるし、なんだか刺激的な存在だった。

娘はエルフの中では十人並みだったが、人間世界では十二分に美少女である。

特殊体質なので夜しか会えないということで神秘性も煽られていた。

演出担当のコルスの狙いは当たったのである。





サーニャはコルスを見ると最近どきどきする。

何故だろう?

リーネには感じない気持ちだった。

素直な彼女が二人に相談すると、微妙な顔をされた。

格別美しいとは感じられなかった最初の頃に比べ、めきめき美少女度を上げている。

相変わらず肌は青白いが。

日が暮れてからしかまともに動けず、歌うくらいしか出来ないが、それでも幸せを感じる。

これが、おそらくは生きているということなのだろう。

娘は無邪気にそう思った。

力を開放したらどうなるかなどと、考えることもなく。




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