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第一八話【北嶺の小賢】

「♪女の子がいなくたって~隣の奴がいたらいいじゃない~」


なにか妙な節回しで歌うはコルス。

寒冷な温泉村でひっそり生きている少年と自称する、異世界から転生したおっさんである。

外見は幼い子供だが、やっていることや言っていることはおっさんだ。

あまりのおっさんぶりに家族はため息をついている。

このままでは嫁もなかなかめとれないであろうから。

ただでさえ、闇エルフと翼竜の幼体が傍にいるのだ。

余程肝っ玉の座った者でなくてはならないであろう。

だが。

そんな娘がどこにいようか?

コルスの嫁取り物語はまだ始まってすらいない。


「♪愛の形はいろいろだもの~」


温泉旅館兼自宅の自室で温泉村周辺の詳細な地図を見ながら、なにやら書き込んだり首を捻ったりしている。


「コルス。」


隣ですやすや眠る翼竜の幼体をあやしながら、闇エルフのリーネが微妙な表情を見せる。


「随分とご機嫌ですね。」

「斥候隊が軌道に乗ったからな。イヤー、あの荒くれ共があんな風になるとは思って

もみなかった。」

「皆殺しにしなくてよかったですね。」

「殺すなんて勿体ない。生きている限り、大切にしますよ、オレは。」

「なんだか白々しいです。」

「処刑台に送るより、再利用する方がいいじゃない。」

「大抵はそれが出来ないから断頭台に送るんですけど、よく更正させましたね。」

「『愛と平和』を訴えたんだ、オレ。」

「なにか胡散臭いものを感じますが。」

「まあ、それは兎も角、今度はアラルコン村方面の宿場村について考えよう。取り敢えず温泉村とアラルコン村を寸断するオサミシ山脈をぶった斬り、そのふもとに村を建設する。」

「温泉が出るといいです。」

「そうだな、アラルコン村へ行くにせよ、そちらから帰ってくるにせよ、ほっと一息つけることは大切だ。連絡網が充実している方が絶対いいしな。」

「北は雄大なオサミシ山脈が広がってその先になにがあるかわかりませんし、東はたまたま海沿いの村が見つかって山を切り開きつつありますが、西はどうでしたっけ?」

「西もオサミシ山脈だ。今度絨毯で飛んでみるか。」

「北は?」

「言い伝えでは死の世界らしい。蛇の尾を踏むつもりはないさ。」

「では、アラルコン村方面の街道整備と宿場村並びに宿屋建設が最優先事項、西方面はそれが終わってからの調査でよろしいですか?」

「うん、それでいこう。」





俺の名はトニー。

最近結婚したばかりの新婚さんさ。

まだ童貞だけどな。

嫁のハンナが一〇歳でなきゃなー。

いや、嫁は可愛いし、ご飯も頑張って作ってくれるし、俺には出来た女房なんだけどさ。

まー、嫁は可愛いし、風呂には一緒に入るし、夜も一緒に眠るから、それはいいんだよ。

ただなー。

俺も男だからさー。

五年は辛抱しろってコルスや村長たちからは言われているし、まあ、それは守る。

ただなー。

やっぱりなー。

男としては悶々とするものがある訳だよ。

毎晩流れ行くものを見送るのも空しいし。

それで、コルスに相談した。

「よし、わかった。」

流石に『北嶺の小賢』と言われるだけのことはある。

俺は翌朝村の広場で会う約束を取り付けた。





「♪街道整備は~羅馬ローマの道に通ずるから~そいやっ!」


妙な節回しで歌いながら、コルスが樹を斬り刻んでゆく。

パチンと指を鳴らすと、何故か樹木が斬り倒されるのだ。

木々を運ぶのが俺たちの仕事である。

なんで、こうなった。

嫁関係の相談だった筈なのに。

……まっ、いっか。

ここら一帯の雪は吹き飛ばされており、天候は快晴。冬にしては珍しい天気だ。

コルスによると、工期の間は晴天が続くだろうという話である。

なんで春になってからやらないのかと聞いたら、春以降になるとそれはそれで忙しくなるからだと切り返された。

温泉村は春になっても寒い日が続くし、先もって出来ることはさっさとやってしまうに限る。

それが『北嶺の小賢』の考え方のようだ。

ならば。

俺はその後押しをすべきだな。

時折焚き火にあたりながら、厳冬期になるまでに粗方済ませようと皆に発破をかける。

寒さに不平不満を洩らす連中には、コルスの普段からの恩に報いろと言った。

それでも煩い奴には、出稼ぎに行かなくて済む儲けを蹴るのかと納得させたり村を豊かにすることが俺たちの使命だと奮起させたりした。


「♪働け~みんな働け~血が流れてため息吐いて~」


コルスが歌う。

なんか酷い内容だな。

ユリウスの爺さんが指揮する騎士隊やメルクリン村のドワーフや薬草園警備の斥候隊も作業に加わり、大規模な仕事になっている。

コルスがパチンと指を鳴らした。

今度はでかい土塊つちくれが宙に浮かぶ。

呆然とする俺たちを尻目に、積み木細工のように刻まれた大量の土塊が宙を飛んでアラルコン村の埋め立て予定地へと向かう。

其処の面積を広げる計画なのだ。


「♪山を越え逝こうよ~喉笛噛みきられ~」


諸行無常な歌だな。





温泉村から東へ一日ほど歩いた辺りにある宿場村建設予定地へ樹を橇で運び、其処で寝かせて材木に加工する。

すぐさま必要な建築分はコルスがなにかの術で乾燥させたものを使う。

仮設住宅に寝泊まりして、朝イチで業務内容を聞いて各々仕事をする。

固くなった大地はコルスの技で掘り返されたり耕されたりしていった。

出される飯の内容はなかなかいい。

パンにチーズにスープに林檎に干し魚に燻製肉に腸詰めに山羊の乳に馬鈴薯。

それらを茹でたり炒めたり焼いたり蒸したり煮たり。

俺が小さい頃はやたら堅い黒パンや干からびたチーズや傷んだ野菜や兎に角しょっぱい干し肉が当たり前だったから、確かに村は豊かになっている。

宿場村の名前はタロン村になるらしい。





「トニー、タロン村の村長にならないか?」

ある日、俺はコルスから真顔でそう言われた。

どうやら冗談ではないらしい。

「俺が村長? 他にやれそうな奴がいないのかよ?」

「トニーには村の衆を集めて物事を成す力がある。」

「でもよ、こうなにもないところに村を建てても、ひもじくなる一方じゃないのか?」

「温泉を掘るのは当然として、林檎の樹を植えるし、大麦や小麦や馬鈴薯や蕎麦も育てる。他もなにか考えとく。アラルコン村との往還が増えればそれで落ちる金も増える。旅人や商人にこの宿場村の価値を認めさせるんだ。伸び代は大きいと思うぞ。」

「コルス……。わかった。俺はタロン村の村長になる。」

「わかってくれたか。村人については、ハミルの街で移民を募る。ここは開拓村だ。豊かな明日に向かって走ろうぜ。」

「おう。」

「そうそう。」

「なんだ?」

「ハンナにはまだまだ手を出さないように。」

「しないよ! 俺、どれだけ信用ないのさ?」




俺の名はトニー。

未だに清い体の新婚新人村長さ。

タロン村は今年の夏開村予定だ。




頑張れ、トニー!

負けるな、トニー!

豊かな明日を目指せ!


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