第一六話【薬草園】
「そうだ、薬草園作ろう。」
転生少年のコルスはそう言った。
「薬草園、ですか?」
「みゃあ、みゃあ!」
コルス一家の経営する温泉旅館の一室。
そこはコルスの私室。
隣にいた闇エルフのリーネと翼竜の幼体であるミューが応える。
「手っとり早く利益を上げるにはどうすればいいかな、リーネ?」
「そうですね。強い魔物の討伐などは利益が高いでしょうね。」
「魔物か出ない地域で、継続的に利益を上げるにはどうする?」
「高い利益を上げられる特産品や特産物を栽培したり生産したり収穫したり鉱物や宝石を採掘したり、でしょう。」
「そう。単価と利益率が高くて継続的に生み出せるものが好ましい。そこで、薬草園を作って薬草や薬品を高額で売り捌くのだ!」
「そんなに上手くいきますかね?」
「薬草はいつの時代でも貴重な品だから、これを成功させることが温泉村並びに周辺の宿場村やアラルコン村の繁栄に繋がるんだ。幸い、村の北部にあるオサミシ山脈とその周辺の森林は薬草の宝庫だ。村の近くで栽培出来るものは栽培し、栽培出来ないものは育成しやすいように環境を調える。」
「お酒の販売でも儲かるのではないですか?」
「酒類は現在梃子入れ中だ。基礎技術のないままなんちゃって高額商品を扱っていても地力にはつながらないからな。」
「竜の……あれこれは?」
「みゃあ?」
「竜関係の品はこの村の切り札だ。下手な流通をさせると最悪戦争だ。オレも討ち死にしたくないし、村が蹂躙されるのを看過する訳にはいかない。」
「意外と難しいですね。」
「地場産業が確立していない地域は、じり貧になるか大手資本の言いなりか大抵どちらかだ。この村だって温泉と林檎と林檎酒がなかったら、貧しい村だったと思う。」
「薬草はそのまま販売するのですか?」
「日持ちするものはそのまま、日持ちしないものは加工する。製薬工房が欲しいところだ。」
「薬師、ですか。」
「腕のいい薬師とその弟子が欲しい。」
「薬師ならいますよ。」
「そうか、是非とも紹介してくれ。」
「林檎酒の二〇年もの一樽ください。」
「よし、わかった。」
「では、どんな薬を作りましょうか?」
「ん?」
「わたしがその薬師ですよ、コルス。」
「リーネ! 謀ったな!」
「ふふふ、伊達に長生きしていませんよ。」
「まっ、いっか。じゃあ頼んだよ。」
「心得ておりまする。」
「ところで、コルス。聞きたいことが幾つかあります。」
「なんでもどうぞ。」
「野盗や盗賊や追い剥ぎなどについてどう思いますか?」
「自らやって来る労働力或いは農園や田畑の栄養。」
「大都市についてどう思いますか?」
「交易のための存在。そして人材確保や買い物のための場所。」
「竜についてどう思いますか?」
「稀少な資源。お宝。超高性能な素材。」
「王候貴族についてどう思いますか?」
「お財布。ありがたい取引先。お追従で済むなら安いものだ。」
「温泉村から旅立って余所の土地で暮らしたいですか?」
「相当魅力があれば考えるけど、たぶんそんなところはない。村を住みやすくする方がいいと思う。」
「座右の銘を教えてください。」
「為せば成る。為さねば成らぬ、なにごとも。成らぬは人の為さぬなりけり。」
「わたしのことはどう思っていますか?」
「大切な家族。いざという時の知恵袋。」
「しばしばおっさんくさいと言われることについてどう思いますか?」
「事実オレの中身がおっさんだから仕方ない。」
「個人的に今はまっているものはなんですか?」
「温泉村やアラルコン村や周辺の宿場村の開発並びに殖産興業。」
「今日銀貨一枚貰えるのと一年後に金貨一枚貰えるのと、どちらがいいですか?」
「金貨を貰うのは当然として、銀貨も貰えるように交渉する。」
「魔王が世界の半分をやると言いました。どうしますか?」
「具体的な場所を聞いてから考える。正式な契約書を取り交わして、誤魔化しがないように魔王にも強制力がある術式を用いる。拒否するようならいらない。」
「冒険者になりたいですか?」
「必然性があるならなるけど、特に必要性は感じない。」
「勇者になりたいですか?」
「金儲けをする方がいい。」
「勇者から仲間になるよう誘われました。どうしますか?」
「危険度と状況による。基本的に期間限定で延長なし、予め給金はきっちり決めておく。無茶を言ったら違約金。無料奉仕はお断りする。」
「勇者の仲間としての役割はなにがいいですか?」
「商人。荷物係。非戦闘員。後方支援要員。石を投げるくらいなら出来る。」
「勇者の仲間になって、陰謀に捲き込まれました。どうしますか?」
「取り敢えず捲き込んだ奴に太古の呪いをかけて、周囲に根回ししまくってそいつに考え得る限りの嫌がらせをする。流言飛語で悪評をばらまいて大打撃を与えるのも基本戦略だ。なにか仕掛けてきたら徹底的に追い詰めて、返り討ちにしてやる。勿論、そいつの財布はすっからかんにする。」
あたし、イーニー!
コルス様に従う三人のしもべのうちがひとりのおきゃんな犬娘よ!
クールな狼娘のミーニーちゃんとマイペースな猫娘のアイニーちゃんと共に、助けてもらったお返しをするの!
今日は温泉村の近くに薬草園を作るからって、村のみんなといっしょに出かけたわ。
コルス様とリーネさんがなにやらやって、それで場所を決めたり土を耕したりしたの。
森でコルス様が指をぱちんと鳴らしたら樹がいっぱい倒れたのでびっくり!
村のおじさんやお兄さんたちが運んで、ソリに乗せて村へ持っていったわ。
村を豊かにするため、コルス様はいつもがんばってる。そんな人に仕えることが出来て、あたしはとっても幸せ。
薬草園を誰に守ってもらおうかってコルス様とリーネさんが話していたけど、結局やってきた盗賊を逆に使おうってことになったの。
さすがね。
悪い奴を使おうってところが見事だわ。
明日も薬草園のお仕事がんばんなきゃ!
よーし、やるぞーっ!




