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第一〇話【若様探偵】

会話文のみです。

「アラルコン村? そんな村の名は初めて聞くぞ。」

「だろうな。俺も初耳だ。温泉村から東へ三日ほどの寒村で漁村だとよ。」

「お前ほどの腕の奴がそんな僻地へ行くのか?」

「ああ。ここいらじゃ大した仕事も戦もないだろうし。」

「この間の盗賊団討伐でも随分と活躍したじゃないか。」

「コルスから頼まれたんだよ。」

「コルス? あいつがどうした?」

「アラルコン村は辺鄙な漁村だ。但し、エールと魚介類が旨いと言われてね。しかも俺を戦士隊の隊長にしてくれるそうだ。」

「ちょっと待て。話が見えん。」

「お前も一度村に来るといい。」

「なあ、ほんとに行くのか?」

「ああ、ほんとに行くのさ。」

「本気なんだな。」

「ああ、本気さ。」

「お前一人か?」

「これから副隊長の奥さんと娘さんのところに行って挨拶してくる。」

「そうか、なら三人だな。」

「なに言ってんだ、お前。」

「これは餞別だ、受け取ってくれ。」

「おいおい、こんないい剣を貰っていいのかよ。」

「友人が出世するんだから、これくらいするさ。」

「すまんな。」

「どういたしまして。さみしくなるな。」

「子爵様に措かれましては、ご友人が沢山おられるではありませんか。」

「やめろよ。隊長殿。」

「ははっ、漁村のなんちゃって戦士隊だけどな。」

「近い内に行くよ。」

「待っている。じゃあな。」

「ああ。」





「若様、お呼びでしょうか?」

「頼んでいた調査はどうなっている?」

「大変申し訳ございませんが、さほど進んではおりません。ただ、妙な話を聞きました。」

「どんな些細なことでもいいから教えてくれ。」

「はい、あの辺りに住む物乞いの老人から聞いたのですが、普段挨拶もろくにしない無愛想な若い娼婦が、上機嫌で旅支度をしていたそうです。しかも、老人に気前よく少なくない銅貨を渡したとか。貰っておいて言うのはなんだが、とてもそんなことをする娘には見えないので驚いた、というのが老人の評です。」

「確かに妙な話だな。それはいつのことだ?」

「年若い娼婦たちがいなくなったという報告のあった、数日前のことだそうです。」

「孤児の方はどうだ?」

「修道院の尼僧から聞いた話ですと、振るまい粥を貰いに来る子がいつもは沢山いるのに、最近はめっきり少なくなったと申しておりました。」

「さすがに孤児たちの行動までは掴めなかったか。」

「申し訳ございません、若様。」

「いや、そこまで調べてくれるのだから、文句なんてないさ。……いなくなった連中に冒険者はいなかったか? 特に稼ぎの悪い者は? 最近顔を出さない者はいなかったか?」

「そういえばギルドは未調査でした。では早速参ります。」

「いや、お前にはすぐアラルコン村へ行ってもらいたい。」

「アラルコン村、ですか? 聞いたことのない村ですが、最近開拓された村でしょうか?」

「話が早くて助かる。僕はアラルコン村になにかがあると考えている。」

「では行商人の姿で参ろうと思います。」

「それがいいだろうな。その村は温泉村から東へ三日ほどの場所にある漁村らしい。山越えをする必要がある。温泉村へ向かう隊商がいるから一緒に行ってくれ。話は通しておく。」

「わかりました。ただちに用意します。」

「頼んだぞ。」

「ははっ。」





「やあ、最近ギルドの景気はどうだい?」

「若様、こんにちは。景気はまあまあですね。依頼ですか?」

「そうだな……依頼という形にするか。」

「では内容を教えてください。」

「アラルコン村で貴重な海の幸を入手してもらいたい。等級不問、経費はこちら持ち、ものによっては報酬額に色を付ける。」

「わかりました。……アラルコン村は初耳ですが、どこにあるのでしょうか?」

「温泉村から東へ三日ほど歩いたところにある漁村だ。僕もまだ行ったことはないが、その内行こうと思っている。」

「若様は行動派ですね。」

「ところで最近顔を出さない冒険者って、どれくらいいるんだ?」

「そんな者はけっこういますよ。憧れて冒険者にはなったものの、仕事がなくてあぶれる者も少なくないですから。」

「そんなものかな?」

「そんなものです。」

「では僕がささやかな宴を開催しよう。五級の冒険者限定で募集してくれないか。連絡がつかない者をこちらに教えてくれるとありがたい。僕の方からなにか仕事を与えるようにしたいからさ。

「若様は慈悲深いですね。」

「よしてくれ。これも貴族の責務ってやつさ。」

「わかりました。依頼の件と宴の件は本日から広く告知しておきます。」

「頼んだよ。」

「わかりました。」






会話順。

アラルコン戦士隊隊長(会話の時点ではとある騎士の三男坊)。

若様直属の密偵。

冒険者ギルドの職員。


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