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第一話【闇エルフ】

皆様、はじめまして。

阿鳥あとりと申します。

日々の合間に作ったお話をのんびり投稿していこうと思っています。


オレの名はコルス。


温泉村に住んでいる七歳の村人だ。


女神を自称する怪しげなねーちゃんからこの世界に送り込まれ、毎日温泉に浸かりながらあくせく働いている。


四〇過ぎのおっさんが赤ちゃんに生まれ変わるというのはなんだかなあという気がしないでもないが、まあ気長にやるしかない。


毎日かーちゃんの乳を吸うだなんて、なかなか慣れないものだった。


生まれ変わる前の身体だったら、或いは喜んでするかもしれないが。


かーちゃんが美人でなければ意識なんてそんなにしなかったと思うのだが、生憎とかーちゃんは村でも一、二を争う美人だ。

三〇過ぎで美人というのは、貴婦人でもなかなかいないらしい。温泉効果だろうか?


とーちゃんはどちらかというとあまり面相がよろしくないのだが、なんでも昔は冒険者をやっていたらしい。

オレが男前でないのはとーちゃんの遺伝だ。


とーちゃんとかーちゃんの馴れ初めをちらと聞いたことがあるが、おとぎ話みたいな内容だった。





オレの住んでいる小さな村は温泉と林檎と林檎酒が名物で、かーちゃんはこじんまりとした温泉旅館を経営している。


口の上手くないとーちゃんはかーちゃんの補佐をしていて、林檎や山羊や馬鈴薯や薪などを日々相手にしている。

うちの山羊の乳やチーズはとても旨い。


兄貴は三人産まれたが、一番上の兄貴は冒険者になって火竜との戦いで奮戦するも死亡。享年一七歳。

二番目の兄貴も冒険者になったが、ハミルの街の防衛戦で勇敢に戦って死亡。享年一五歳。

三番目の兄貴は堅実な性格で、温泉旅館をきっちり運営している。現在一三歳。


姉貴は二人いて、上の姉貴はハミルの街の商人と結婚してそっちに住んでいる。現在一六歳。かーちゃん似の美人だ。

下の姉貴は三番目の兄貴と共に温泉旅館を支えている。現在一二歳。どちらかというと、とーちゃん似だ。でも化けるかもしれない。


オレは四歳の時に転生特典の能力で温泉の源泉を水質強化した。

その結果、行商人や隊商や冒険者などを通じて治癒効果の高い温泉だと評判になり、貴族がお忍びで来るほどになったのは嬉しい誤算だ。


寒冷な気候の村で育つ林檎は転生特典能力による空間操作のお陰で害虫被害もなく豊かに実り、それは旨い林檎酒の元にもなる。


オレは村へたまに来る行商人や隊商のあんちゃんやおっちゃんたちと親睦を深め、この世界の情報収集に努めている。


情報は武器だ。


この世界では最大級の武器といっていい。


努力怠るべからず、だな。





今日はこの村へ来る六名の商人に集まってもらい、林檎酒の試飲会をすることにした。

林檎の収穫が一段落して、明日からまた忙しくなる。

その間隙を縫ったのだ。

内容は一七度のもの、一七度の一〇年・一五年・二〇年、そして四〇度のもの。


とーちゃんは世界各地に赴いているので情報源としては有能だが、それなりのものでも旨い旨いという人なので舌はあてにならない。


試飲会をすると言ったら、家族はまたコルスが訳のわからないことを言い出したという顔をした。


試飲会の概念を説明したのだが、さっぱりわからなかったようだ。


販売促進のための市場調査だ、と言ったらなにそれ意味がわからないと返された。


まっ、いっか。


林檎酒は特殊能力を用いて水分を減らし、度数を高めたり時間をいじったりして一七度の一〇年もの、一五年もの、二〇年ものも作ってみたりした。

また、度数を更に高くして四〇度のものも作ってみた。水分飛ばしの術!

なんてな。


転生特典とやらを工夫した結果、醸造酒を蒸留酒に出来るようになったのは大きな収穫だ。


通常の林檎酒は大抵二度から五度くらいだが、受け入れられるだろうか?


この世界での葡萄酒の品質はまだまだで長期保存出来るものなどは稀少な品だし、麦酒の品質も今一つだ。


混ぜ物偽物当たり前の世界だし、向上心の高い醸造所ばかりでもない。


ならば、この村の林檎酒で世界を驚かせるのも悪くないな。


「コルスは時折妙なことをするのう。」


一番歳上且つ代表者の隊商のおっちゃんが、真っ赤になりながらそう言った。


ずいぶんきこしめしているらしい。


貴族や王族との会席に参加することもあるおっちゃんの舌が、この面々では最も確実だ。


「どれも旨い。今までこんな酒を呑んだことがない。コルス、どうやって作った?」


おっちゃんが敏腕商人の目でオレを見る。


「ないしょ。」


「こういう時だけ子供ぶってからに。」


おっちゃんが苦笑いする。


まさかこんな子供が旨い酒を作ったとは思えまい。


村の家々には既に試作品を届けてある。

村の付き合いを忘れると酷い目に逢う。

ならば、先手を打てばいい。


売るのも呑むのも自由だ。


「一樽幾らになるかな?」


「無邪気ぶりおって。皆、どう思う?」


一人の商人に独占させるよりも、複数の商人に分散させた方がいいとオレは考えた。


この面々全員と来年もまた会えるとは限らないのも理由の一つだ。


いつ死ぬかわからないご時世だからな。


販路は多い方がいい。


幸い、皆違う方向へ向かうから販売地域が重複することは少ないだろう。


「コルス、すぐ売れるか?」


おっちゃんは真顔だ。

呑んではいるが、呑まれてはいない。

流石だ。


「一人それぞれ中樽一つずつある。」


中樽は約一八〇リットルだから、瓶にするとおよそ二四〇本分だな。


おっちゃんたちがひそひそ話を始める。


一七度のものはフェニキア、一〇年ものはフロンテーラ、一五年ものはエナーレス、二〇年ものはヒメネス、四〇度のものはヨイチという名前にした。


それぞれの陶器瓶に顔料で色付けした布を貼り付けてある。

オレの作った酒ということで、真田六文銭を意匠として施した。

オレは真田幸隆が好きなのだ。


幾らにしようか?


おっちゃんたちの意見がまとまらない。


世界で初めての酒だものな。


提案してみよう。


「それぞれの樽の値段だけどさ。」


おっちゃんたちがオレを見つめる。


「一樽あたり、フェニキアは銀貨一〇枚、フロンテーラは銀貨二〇枚、エナーレスは金貨一枚、ヒメネスは金貨二枚、ヨイチは金貨四枚、即決してくれるなら、各種一瓶ずつおまけするよ。」


「買った!」


全員が唱和する。


「契約成立だな。」


「コルス、二言はないぞ。」


商人たちがぎらぎらした目でオレを見ている。


温泉村で醸す林檎酒は元々旨いが、元は度数も低く一瓶が銅貨一枚の品だ。樽でも銀貨二枚になるのが精々だな。

それが最高で金貨四枚の品になるのだ。

二〇〇倍にもなるのだからおそろしい。

暴利も暴利、大暴利だ。


これらが帝国の首都に行ったら幾らになるかは、そのうち誰かから聞いてみよう。


村の余った林檎を高く買って酒にする。

多すぎる収穫で困る農園を救済する意味合いもある。

そして、利益が出たら村に還元する。

村が豊かになるのはよいことだ。


あんちゃん、おっちゃん、宣伝よろしく。





そんなある寒い夜、闇エルフの老婆が我が家を尋ねてきた。


彼女はもうそんなに長くないだろう。

それは誰の目にも明らかだった。


長命のエルフだからここまで生きてこれたのだと思う。元は質がよかっただろう茶色のローブもあちこち擦りきれていた。


「此処の林檎酒はとてもおいしいとハミルの街でうかがいました。」


品のよいばあちゃんだ。


「これで宿泊代と酒代になりますでしょうか?」


彼女は指輪を渡そうとしたが、とーちゃんは受け取らなかった。


様々な種族を見てきたとーちゃんだから受け取れないのだろう。


「コルスの判断に任せる。」


お人好しなとーちゃんはそう言った。


オレはヒメネスをばあちゃんに呑ませた。

一七度の二〇年もの。

特殊能力で生み出した酒だが、味は本物だ。


呑みやすくするために能力で生み出した氷も付ける。


「こんなにおいしいお酒は初めてです。」


元はいいとこの娘だったんだろうな。

品がよくて、毅然としている。


オレはばあちゃんと一緒に風呂に入り、共に寝ることにした。

彼女は大変嬉しそうな顔をしていた。


夜中、ばあちゃんが苦しそうにする。


「ばあちゃん。」


「はい。」


「生きたいか?」


「昨日まではいつ死んでもいいと思っていました。」


「今は?」


「こんなにおいしいお酒を呑めて、毎日温泉に入ることが出来て、コルスや家族の方々と一緒に暮ら……。」


ばあちゃんの息が荒くなってくる。

このままでは長くない。

明け方までもたないだろう。


「ばあちゃん。」


死に近づいた闇エルフにオレは囁いた。


「オレの力でばあちゃんを若返らせる。」


命の灯がどんどん弱くなってゆく。


オレは全身全霊を込めて力を開放した。


ばあちゃんがどんどん若くなる。


命の灯が尽きるのを防がなくてはならない。


範囲設定した時間制御の力を更に高めてゆく。


ばあちゃんが下の姉貴くらいの年齢になったところで、命の灯が再燃焼するのを感じる。


危機は脱した。


……どう言い訳しようか?


翌朝、美しい闇エルフの娘が我が家の一員になった。


「朝起きたら、ばあちゃんがおねえちゃんになったんだ!」


うん、これで通そう。


オレは七歳の子供だしな。


温泉村の住人が、こうして一人増えた。









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