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勇者?

ドタバタと階段を降りてくる音の後、アンドレアスの前にコッペル村長が現れた。


村長は、突然の来客を不気味に思いながら、

おそるおそる、

「えーっと、何か私にご用でしょうか?」

と尋ねた。


「あんたが、村長なのか?」

「えぇ、そうですが」

「それなら話が早い。あんたの娘さんには信じてもらえなかったが、実は俺、勇者なんだよ」


(この男が、勇者....?)

とても信じられる話では無かったが、無下に断れば後が怖い。下らぬ妄想であっても、下手に怒らせれば、この浮浪者が一体何をするのか分かったものではない。

コッペル村長は、喉から飛び出しそうになる、『信じられない!』という言葉をとっさに飲みこんだ。


「そ、そうなのですか。こんな辺境にようこそお越しくださいました。して、ご用件は何でしょうか、"勇者様"?」


コッペル村長がそう答えると、なぜか男は俯いて黙りこんでしまった。


(マズい!)

「ど、どうなさいましたか、"勇者様"?私めが何か失礼をいたしましたか、"勇者様"?」


コッペル村長は頭の回る男だったのだが、今の自分の対応に不備は見つけられなかった。


一体この男はどうしたというのだろうか。間違いなく、頭のおかしな人間に対する受け答えとして、満点だったと思うのだが。なぜ黙ってしまったのか、もしここで暴れられたらどうやって娘を守ったものか。私がここで殺されたら、あの子には家族がいなくなってしまうというのに。母を失ったあの子には、頼れる者は私しかいない。仕方ない、ここは私がこの男に立ち向かうしか...


と、危うくコッペル村長が武器を取りかけたところで、男は顔を上げて、満面の笑みを浮かべた。

「いや〜!嬉しいな〜!初めてだよ、俺を勇者だって信じてくれた人!」


それは、本物の勇者としてはあまりに哀しいセリフであった。

感動から立ち直った勇者は、今のところ唯一の支持者である村長に、握手を求めたのだった。


村長は、男と同じように満面の笑みで握手をすると、密かに胸をなでおろした。そして、相手はどうやら真性のバカだ、と悟った。



「それで、ご用件は?」

村長はもう一度尋ねた。こういう人間は、適当に言うことを聞いて、さっさと帰ってもらうのが最も良いと考えたのであった。


「そうそう、用件なんだがな。ちょっと、この村に住みたいんだよ。どうにかできねぇかなぁ」


「......は?」


「いや、ちょっとした手違いで王国を追い出されちゃってな。別に家をよこせというわけじゃない。ただ、この広ーい村の端っこの方でいいから、居させてくれないか?」


「えーっと....」

村長は目をつむって、少し考え込むようなそぶりを見せた。


こんな男の考えなど手にとるように分かる。この男はただのバカでは無い。どうやらこの男、勇者を騙って住む場所を得ようとする、バカな浮浪者(ホームレス)のようだ。


村のために働こうという意思は乏しいコッペルであったが、こんな小汚い男を我が村に入れたくないという嫌悪感はあった。


「申し訳ありません。ですが、勇者様が勇者様だとわかる証拠がなければ......。あっ、違いますよ、私めはもちろん信じておりますとも!ただ、住民たちが分かってくれるかどうか....」


村長にとっては、できるだけ悩んでいるように見せつつ、丁重に断ったつもりであった。まさか偽物が証拠など持っているはずもない。これで諦めてとっとと帰ってくれれば...


「証拠かー。...あ、そうだ、これを見てくれ」


そう言うと、男は一つの封筒を取り出した。

その封筒には、美しい狐の印があった。


「これは...北の王家の印?!」

村長はアンドレアスを怪訝な目で見つめた。

まさかこんな怪しげな男が、勇者の証拠を、それも王家の印付きの物を持っているとは考えもしなかった。


「あぁ、その通り。良く知ってるな。とりあえず読んでみてくれ」


(まさか、本物か?いや、そんなはずはない。じゃあコレはどういうことだ?)

村長は疑いの目を向けつつも、封筒を手にとった。

「わ、分かりました。では...」


封筒を開けると、中には一枚の紙が入っていた。

そこには...


『こいつマジ勇者。ホントホント』


と大きな字で書かれていた。


「その紙に、しっかりと書いてあるだろ?俺が勇者だって。いや〜、別れ際に王女さまがくれたんだよ。『もしあなたが行く先で、本当に勇者か疑われたら、これを渡せば相手も信じてくれるはずよ......ふふっ』ってね。

最後まで勇者だって信じてもらえなかったと思ってたんだけどな。結局は王女さまも勇者だと分かってくれたんだなぁ、とその時は本当に感動したよ。

いや〜受け取っておいて良かった〜。その王女さま人を困らせるのが好きなお人でさ、いつもいつもイタズラされて困ってたんだけど、やっぱり、いい人だったんだなぁ」


あまりにも哀しい勇者であった。


読んでいただき、ありがとうございます。

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