訪れ
この世界の住人は、自らの世界のことを『ゾッグ』と呼ぶ。この世界を生み出した神に由来すると伝わる。
ゾッグには二つの大陸が存在する。互いに文化は異なり、話す言語も違うが、大陸間の関係は良好である。そこには、魔王や魔物の存在も関わっている。
北大陸、ゾールケ。
その東に広がる森林地帯を領土とする、サニエウル共和国は、軍事力こそ他国に劣るものの、豊富な資源と"賢き者"エルフの高度な技術によって、強国としての立場を確固たるものにしている。
サニエウル共和国の中央には、ナレウ山脈と呼ばれる大山脈が横たわっている。
そこに数多く存在する山里の一つに、ある一人の男が訪れていた。
「ここが、ザナバ村か...」
彼の名はアンドレアス・ジェネオス。
旅の汚れで薄汚れた服に、色褪せたマント、無個性な顔。このあたりでは珍しくない、赤っぽい茶色の髪の毛や無精ヒゲも、土ぼこりに塗れてくすんだ色をしている。
貧乏な冒険者か、あるいは野盗のたぐいか。
そう思われてもおかしくない程に、みすぼらしい姿をした男である。
背中にやたらと大きな荷物を背負い、険しい山道をただ一人で登ってきた彼の額には、大粒の汗が浮かんでいた。
「はーぁ、俺が何をしたんだよ...」
自らの置かれた状況に小さく愚痴をこぼしつつ、アンドレアスは村の中へ入っていった。
サナバ村の村長宅、執務室。村長は黙々と仕事をする......フリをして本を読んでいる。
ザナバ村はそう大きくはないとはいえ、100人程度の住人を抱えた立派な集落であり、近隣の村々のまとめ役も担っている。もちろん、その村長に仕事がないはずがない。
ただ、このコッペル村長には働く意欲が全く無かった。彼の父が村長であり、頭の回転も早かったために、周囲の強い要望で村長を継いだものの、毎日をただ平和に暮らすことだけが望みの彼には、村をより良くしようという気持ちは微塵もなかった。
やらなければならないことだけを済ませ、後は口うるさい父や娘に見つからないよう適当に手を抜く。
それがコッペル村長の日課であった。
しかし、彼の読書は急に中断された。
「おとーさーん!お客さーん!」
下の階の娘が呼ぶ声に、コッペル村長は読書用の老眼鏡を外し、急いで返事をする。
「分かった!少しお待ちいただけ!」
読みかけの小説にしおりを挟み、彼は小さくため息をついた。
「今日来客の予定は無かったはずだが...」
とは言っても、緊急事態の可能性もあるので、村長は急いで格好を整え、階段をかけおりた。
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