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魔導兵(量産)2


 魔導兵ゴーレムが、前進し動きだすのを、ルーフェルは確認した。

堅実な手であるとは思う。あの東方伯であれば、ゴーレムなどいくらでも増産できるだろう。

 本来魔導兵は、何人もの魔術の心得があるものが力を合わせて作成するものだ。

 それを一人だけで、あれだけの数を生産しているのだ。

 英雄と呼ばれただけはあるということか。性根はもはや口にしたくないほどの下衆であったが。

 しかし、実際ルーフェルにとっては面倒な相手であった。

 魔導兵は、騎士の甲冑のようなものに生命を吹き込んだものであり、堅牢な防御が要の魔導物だ。

 意思を持った人形のようなものであり、その膂力は容易くヒトを凌駕する。

 

 平凡なヒト族、魔族、どちらでも対応できる相手ではない。

 下手な魔法は弾かれ、武器では、剣が刃こぼれし、大槌にはヒビが入り、矢は跳ね返される。

 実に優れた魔導の兵器であり、ルーフェルにとっても天敵であった。

 

――天敵であったのだ。


 わずか数秒の間のみ、息を深く吸ってから、吐く。

 心は落ち着いている。ルーフェルは、思い出す。

 自分が、彼に助けられて以来、どれだけ自らを鍛えなおしてきたか、剣と心を通い合わせてきたか。

 心は落ち着いていた。復讐のため、この時のために自らの腕を磨いてきたのだ。

 この程度を乗り越えられずに、東方伯へと復讐など、夢のまた夢にしか過ぎないのだ。

 今こそ、超えるとき、いや、超えなければならないのだ。

 だからこそ、自分は今から乗り越えるのだ。過去の過ちを、己の恐怖を、全てを乗り越えなければならない。


 「参ります」


 向こうから来るのは好都合、されど、自らの意思を持って斬り進まねば道は開かない。

 迫り来る魔導兵の数は五体。あの敗北を味合わされた時にいたのは合計で十体だった。

 前の時よりも半分もいないのだ。ならば軽々と始末しなければならなかった。

 

 駆け出していく。魔導兵たちが装備している大槌と、左手を構える。

 魔導兵たちは、その膂力で武器を振るい、敵をなぎ倒す。そして遠距離においては左手に溜め込んでいる魔力を矢とすることで対応する。

 遠近共に隙がなく、優れた兵である。


――だが。

 

 彼に鍛え上げられたものに比べれば、余裕である。

 あの地獄のような弾幕を見てからでは焦る必要などどこにもないのだ。

 魔導兵の放つ、魔術の矢を、刀で斬り伏せつつ前進していく。

 刺さりそうなものは、刀を振るい切り落とし、少し軸をずらせば掠る程度のものは、そのままずらす。

 足は、止まることなく付いてくる。足が悲鳴を上げることも、ない。

 

 魔導兵が、弾幕を掻い潜られたことに反応したのか、即座に大槌を両手に装備し、こちらへと振り回し始める。

 遅い。あまりにも遅い。

 振り回された、死神の大槌を紙一重で避けていく。髪の毛が、いくらか切られる。

 だが、懐へと潜り込んだ。もう大槌は触れない。左手で掴もうとするが、それも遅い。

 手に取るように、相手の動きが理解できた。


 「もう、いいですね」


 自分がどれほど成長したのかも、分かった。

 今度は、こちらの番だ。

 自らの愛刀を、躊躇うことなく、直角に、魔導兵へと振るった。 








 「冗談だろ」


 甲高い音が、一回聞こえた後、大地が少し震えた。

 大地が震えた原因を、何度も見返す。そして、現実だと理解してしまう。

 

 「マジで、魔導兵ゴーレムを斬り落としたのか」


 真っ二つにされた魔導兵は、綺麗に断ち割られていた。

切断面から、魔力が溢れだしていくのか理解できる。あれほどの魔力の密度がつまり、硬くなっているものを、あのエルフは容易く切断したのか。

 さすがに、特異な存在でありすぎる。魔導兵を一刀で斬り伏せる化物など想定されていない。

 次の魔導兵の一撃を、エルフの女が飛び越えるようにして、背後から刀を振るう。またしても、ゴーレムが沈んでいく。

 流れるようにして、魔力による矢を躱しては接近し、おおぶりな攻撃を誘って、一撃の元に斬り伏せているのだ。

 くそ度胸と、想像を絶する冷静さがなければとてもではないが出来はしない。

 一撃が当たれば、即死ぬのだ、ましてエルフの女は、自らの肉体に対して、強化するような魔法を掛けているようには見えない。

 掛けているとすれば、あとはそれこそ火力特化とするために、あの刀に掛けているのかといえば、そうではない。

 つまり、単純な技量だけで魔導兵を叩き伏せたということだ。


 「とんだ、化物だな」


 もはやプレトンには、笑うしかなかった。

 あんな化物を相手にしていたら、自分の命がいくらあっても足りないのだ。

 自分の腕ではせいぜい三撃を耐えて、終わりだろう。次には首を飛ばされている。

 自分は弱い。弱いということが自覚できている分、相手の強さにも敏感であった。

 弱い分、そうでもしなければ生きていけなかったからだ。

 相手の強さを知るということは本当に重要だったのだ。

 強さを重視する騎士団では、自分の生命線であったと言ってもいい。勝てない相手には挑まない。

 自分が生きてきた人生での鉄則であった。そして、今まさに戦っては行けない相手がいる。


 魔導兵が押されていることに慌てた狂信者が、急いで突っ込んでくるが、手遅れである。

 魔導兵ごと叩き切られるか、魔導兵に押しつぶされるか、ゴミのように切り払われるか。

 その三択しか、選択しか残っていない。引くことはしないだろう。

 彼らにとっては、英雄のために死ねればそれでいいと思っているところがあるのを、プレトンは知っていた。


 「んで、狂信者共が死んでいくと」


 彼らを助ける義理は、自分にはない。

 塵芥のように切り捨てられる彼らに哀れみを覚えないわけではないが、自分が代わりになることなんて、望んでなどいない。

 責任は彼ら自身の手で取るべきだ。自分がやることは、報告のみである。

 

 「ま、ちょうどいいか」


 自分の命が助かるのと、ゴミ掃除が一挙両得で出来る。

 そう考えると悪いものではない。

 プレトンは、颯爽と背中を向けて駆け出す。恨み事が聞こえるが、気にしない。

  

 死ぬべきものが死んだ。それだけだ。


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