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友達は悪魔野郎  作者: pauel
日本編
7/23

悪魔野郎が語る事の全容


 飛鳥のいった通りだった。変なものが見える。授業中なのにもかかわらず、グラウンド側の窓から制服を着た男子生徒が入り込んで、そのまますぅっと廊下側のドアから出ていった。ドアは閉まったままだが。 誰も反応しない。キョロキョロしていると先生に叱られた。


 休み時間に教室の窓からグラウンドを眺めていると、キャッチボールをしている生徒に混じって女の人が立っているのが見えた。制服ではない。保護者の人だろうか? 昼の学校にいるのがものすごく不自然な感じがする。

 目が合ったので慌てて目をそらす。どうやらあれも霊っぽい何かのようだ。


 涼、と声をかけられた。飛鳥だ。  

 「慣れてきた?」

 いや、なかなか慣れそうもにもない、と俺は首を振る。


 「なあ、そろそろこの状況を理解したい」


 空腹を感じたため食堂に移動し、食事をしながら話をすることにした。飛鳥が涼からエネルギーを吸収しそれを魔力としているため、涼は普通より大量のカロリーを消費してしまう。


 俺はカツカレーを注文し食べ始める。飛鳥が語り始めた。




 飛鳥の話を要約するとこうだ。飛鳥の世界はフォームレスと呼ばれており、悪魔族と竜族が死闘を繰り広げているらしい。

 人間族と獣人族が竜族に肩入れし始めたため悪魔族は劣勢に陥っている。

 悪魔族の飛鳥は秘宝ブラッククリスタルに長年蓄積してきた魔力を使って、地獄から魔神を召喚して押し寄せる敵を退ける。

 しかし、短期間に繰り返し押し寄せる敵にブラッククリスタルを連続的に使用することを余儀なくされる。


 ブラッククリスタルは過負荷で魔力爆発を起こし、その衝撃で飛鳥は時空を超えて涼の世界に飛ばされてしまったらしい。 召喚で魔力を大きく消費し且つ爆発で傷を負った状態で。


 「ブラッククリスタルは、代々特定の種族に伝えられてきた秘宝で、それを一族の末っ子の僕が引き継いだんだ」

 「過負荷で爆発するなんて話は聞いたことなかった」

 「ただ、今の悪魔族の状況はフォームレス史上例を見ない厳しい状況でだったから……仕方ないとはいえ、魔神召喚を短期間で連発したのがまずかったのかも……」



 この世界に飛ばされた飛鳥は、魔法等の超常が極めて希薄で「科学」によって繁栄している人間族の世界に驚いた。


 地上のいたるところに人間族が繁栄しており、そのほかの種族はひっそりと生活している。


 あまりに科学が繁栄しすぎて「超常」の類は、人間には認識できなくなっていた。


 つまり、悪魔、神、妖怪、幽霊、魔法、精霊といったような超常の類は、飛鳥の世界と同様で存在しているのにもかかわらず、ここの人間族は、それを無意識に無視して生活しているのである。

 

 「確かに昔ほど信仰的なものは廃れているような気がする。 本来は必要とされるべきものだったんだろうな。最近では昔ながらの祖先崇拝とか精霊やようかいの類いは語られることすらまれなきがする。謎の新興宗教がそこにつけこんで……」


 飛鳥にとっても、この世界は相当過ごしにくい世界だった。あまりに使われないため存在すべき魔力が全体的に希薄化してしまっていた。


 従って、飛鳥は適当な人間族と契約関係を結び魔力を供給してもらうことが急務だった。


 しかし想定外の事態に飛鳥は困惑することになる。


 この世界の人間に認識されるためには相当気合いを入れて実体を維持しなければならなかったのである。

 飛鳥が気を抜くと、人間には姿形も見えず、声も届かない。気合いを入れるためには魔力を消費する。

 竜族との戦いで魔力が大きく消費し、傷を治すこともままならない。

 このままだと魔力が枯渇して消滅してしまう……


 背に腹は代えられず、残りの魔力を使い人間の赤子に転生し、人間の家庭内にもぐりこんで生活していたらしい。


 「僕は普通の人間として生活し、15才を迎え魔法が発動できるようになった」

 15歳は悪魔族の成人に相当するようだ。

 成人を迎えて魔法が使えるようになると魔力の消費が激しくなるが、15年間蓄積された魔力がある。


 魔法が使えるようになった飛鳥は先ず、元の世界に連絡を取り自分が無事であることを伝え、移転手段をこちら側に送るように手紙を出した。


 伝達の方法は、魔力を込めた文を赤ポストに入れるだけでフォームレスの家族の元に届く、という魔法らしい。

 仕組みはどうさわからないから突っ込まないことにした。



 しばらくして魔力が蓄積されていない移転手段に手紙が添えられて飛鳥の元に届いた。

『こちらも余裕がないので、移転の魔力は自分で用意されたし』


 もう少し魔力をためてから移転したほうないいかな。



 「この世界の人間と初めて契約したときは少し驚いたよ」

 契約をした人はなにかしらの超常的な変化があったからだ。


 「これだけ超常の類いが存在しないような世界だから、無いと思ったんだ」


 この世界は超常の概念とは無縁に見えるが、魂的にはそういうものを否定しておらず、超常の一端に触れることにより眠っている何かが目覚めるということだろうか。


 「フォームレスでは普通なんだけどね」


 典型的には、勘が鋭くなるとか、軽い簡単なものを持ち上げられるようになるとか予知や、念力の類らしい。


 「ほとんどの人間族は超常的なスキルを手に入れたいがために契約をしたがる」



 「そうこうしているうちに、僕の身体も成長していった。そして去年、涼と出会う」

 「最初は友達のうちの一人として接していたんだけど、ある日を境に涼には死相が出ていた」

 「それから涼に興味を持ち始め接近していったんだ。涼をよく知れば知るほど気になっていった」

 「涼は、皮肉屋で性格がねじれていて、イケメンの割には、友達も驚くほど少ないし、意外なほどモテないし、何かこう、負のオーラといいますか? なんとなく近寄りがたいと思わせる感じだった」

 「そこがたまらなくイイ! 涼は僕の理想だ!」

 「涼のことは何でも知りたかったから、涼の好きな食べ物や得意科目とかも調べたのさ。この前なんか涼がお風呂にはいっているときにコッソリと……(以下ry)」


 「というわけで、事故の直前、君の母さんに懇願されて、君らを助けたんだ。君の母さんと契約し、返してもらう事を条件に僕の魔力をエネルギーとして供給して君らを再生するという契約だ」


 「君の母さんは本当に息子想いだよ。息子のためならこの命ってね」

 「そういうわけで魔力を使ってしまったから、しばらくフォームレスには帰れない。かなり大きな決断だった。僕がフォームレスに戻れないと悪魔族としても大きな戦力ダウンだから」



 「ふ、ふーん……」 あまりのことに俺はあいた口が塞がらなかった。


 俄かには信じがたいが……しかし信じるしかあるまい。既に超常的な世界にどっぷりと浸かってしまっている。


 彼の話からすると俺の身体の半分は、飛鳥の魔力で再生されたものだ。

 飛鳥の魔力そのものが血肉となっているともいえる。そのせいか飛鳥の言っていることが嘘ではないと感じる。

 

 「涼、君とは本当に一心同体の関係だ。僕らは契約関係を結んでいる」

 「もっと言うと、君の身体の一部は僕の魔力が元となって構築されているし、そのおかげか契約スキルも相当レアな『霊能』が発動したじゃないか!」 


 「『霊能』だなんて、暗くてジメジメしたスキルで涼にぴったりじゃないか!」と、満面の笑顔だ。


 「そっ、そうか……ありがとう」と、動揺しっぱなしの俺は、何も考えられないまま礼を言う。


 「……そういえば母さんは、その、フォームレスにいるんだろ? 移転には大量のエネルギーが必要なはずじゃないか?」


 「ああ、人間の魂というか精神は、僕ら悪魔とは違って比較的小さなエーテルで構成されているから、移転に必要な魔力はそう大きくないんだ」


 なるほど。


 ずいぶん長く話し込んでいる。お腹が減ってきたため、更にかつ丼を注文する。最初に注文したカツカレーは話半ばで食べ終えていた。


 「涼ってカツ系の食べ物好きだよね。チェック済みだよ。ふふん」


 「そうか」 飛鳥の言葉を軽く受け流し、更に母さんについて質問をする。



 「で、母さんは何をしているんだ?」



 飛鳥は、母さんの現状について俺に説明した。




 悪魔メイドだと?

 母さんはフォームレスの悪魔城でメイドをしているらしい。 悪魔城は、フォームレスの『魔界』という地域にあるようだ。

 そこで働いて給与をもらってという健全な生活を送っているとか。


 そういえば、母さんは寝言で『魔界』とか『制服』とかいっていたなぁ……


 こうして、フォームレスで普通の生活をするだけでも、体内に蓄積される魔力量がこちらの世界と比べて大きく、結果として飛鳥に供給されるエネルギーがかなり多くなるらしい。


 普通にこっちの世界で過ごす場合には250年かかる、つまり返せないのだから契約した時点でフォームレスに移転したのか。


 それでも俺らを再生するのに費やした魔力を取り戻すには、魔界で生活しても50年かかるらしいのだから、俺らのを再生に莫大な魔力を消費したとわかる。


 母さんだけをこんな目に合わせるわけにもいかないな……


 「なあ、その世界には俺も行けるのか?」



 「もちろんだよ!」と飛鳥が食いつく。

 「僕といっしょに魔界に帰ろ? ね? ね?」



 俺はもともと魔界の住人じゃないっつーの。

 そういいながら冒険心がむくむくと湧き上がるのを感じた。


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