契約スキル発覚
どれだけ走っただろうか。
喉が渇いた……お腹が空いた……
飛鳥のやつこんなときでも俺からエネルギーを吸収しているのだろうか。なんという悪魔。
目についた公園で水飲み場を探し、水をたらふく飲んでベンチに座る。
あれは確かに親父に見えたーー何か視界がもやっとしていたが確かにあれはーー
ベンチで座っていると小学生くらいの少女に大丈夫かと声をかけられる。余程酷い顔をしているのだろうか。
「大丈夫だよ。夜遅いからお嬢ちゃんも早く帰った方がいい」というと、無視して砂場で遊び始めた。
弱々しく「やれやれ……」と呟き、ベンチで座り込む。公園の時計の針は八時を指している。
家には戻れない。仕方ない、とりあえずこのまま夜が明けるのを待って明日、飛鳥に相談しよう。
「おい」揺すぶられて目が覚める。
「何してる、名前は?」
ライトを顔に当てられる。眩しい。思わず手を上げて光を遮る。
警官だ。二人。一人は少し離れた場所で無線を持っている。
寝てしまったのか。
「どうした、 酷い顔をしているな」
ええと、大丈夫です。と愛想笑いをして立ち去ろうとするが……
「話を聞かせてもらおう」
しまった。この俺が非行で補導か。それよりなんと説明すれば。
それよりあの子はいいんですか? と砂場に顔を向けるが、警官は砂場を一瞥したものの、それっきり俺に視線を固定していた。
うぉい! 俺より少女を保護しろや!
とは言わずに俺は大人しく交番に連行された。まあいいさ。他人にお節介をやけるほど余裕があるわけでもないし、権力には逆らえん。
しかしタイミングよく警官が現れたな。
どうやら家の近所の誰かがガラスの割れる音と叫び声を聞いて通報したらしいのだ。
俺は叫び声をあげていたのか。気がつかなかった。よっぽどビビったんだな。
警官が駆けつけたところ、我が家の玄関ドアは開きっぱなし、そして割れたガラス。家には誰もいない。
事件性を疑った警察は俺を探すため近場を巡回していた。そういうことらしい。
警官が事情を聞いてくるが、俺はそのまま話すことについて躊躇する。
あ、ありのまま 今 起こった事を話すぜ! 死んだ親父が化けて出たんだ!
……バカ丸出しだ。いや、それどころか警官がバカにされている、と不愉快になるかもしれない。
とにかくそのまま信じてもらえるはずがない。しかし、何もなかったと言い張るのもいかにも不自然だ。
悩んだが結局話すことにした。ただし、死んだ親父ではなく『誰かが』侵入してきた。そして寝起きだったので、寝ぼけていたかもしれないと付け加える。
「その侵入してきた奴の顔に見覚えは?」
「わかりません。よく見ていません」
「服装は?」
「全身黒っぽい感じでしたが」
「黒?」
「自信はありません」
「窓ガラスを割ったのはそいつ?」
「いえ、自分が割りました。逃げるために切羽詰まって」
「自分でか? そいつは何かしてきた?」
「いえ……」
警察官は不審に思うような表情を俺に向ける。
実質的な被害であるガラス戸の損傷はこいつ自身で、その他に被害無し? こいつは病んでいるのではないかーー先日俺が事故にあったことは把握しているかもしれない。
「……じゃあ、何か取られていたら被害届け出して」 と、警官は俺を見ながらゆっくりと、調書を机の上に置いた。
事情聴取を終えて現場に連れていかれるようだ。
マジで?イヤだ。いや、本当は見間違えかもしれない。普通にその辺りの変質者が乱入してきただけだったら悩むことはない。
とはいえ、ここ数日の自分の境遇を思い起こす。何が起こってもおかしくない。
結局、現場検証を拒む理由が見つからず、半ば強制的に家に連れていかれる。
恐る恐る家に入るが、 何の気配もない。リビングにはガラスの破片が散らばっていた。
「何も取られていないようです」
警官は顔をしかめる。もしかすると自演乙と思ったかもしれない。
「被害が無いようなら被害届けは提出しなくてもよいです」とだけ述べて戻っていった。
家に一人で取り残される。
家に誰もいないことは確認した。割れたガラス戸の前に大きな家具を配置し出入り出来ないようにする。そして念入りに戸締まりをして、昼買った駄菓子をお腹に詰め込む。
夜中の2時だ。もう寝よう。
明日は学校で飛鳥に相談だ。あのバカに頼るのは気が引けるが。
二階に上がりベッドに潜り込む。疲れているため直ぐに眠れそうだ。
ふとベッドの中から顔を出してテラスに通じるガラス戸を見た。向かいの家の二階の部屋から明かりが洩れている。受験生でもいるのか。
しばらく見ていると、暗くなる。
電気が消えた……と思った。
しかし違った。光が洩れていた位置に黒っぽい奴が立っていた。
うわあ!
飛び起きて逃げたい衝動に駈られるが、身体が疲れきって動かない。
もしかしたら、じっと身体を動かさなければ見つからないかもしれない。
もしかすると幻覚かもしれない。
もしかすると今でも居間で寝ていて、これも夢かも。よくある話だ。
ガチャ……
黒っぽい奴はテラスの鍵を開け、のっそりとした動作で部屋の中に入って来てベッドの側に移動してきた。
恐怖で喉がカラカラだ。
口から心臓が飛び出そうた。心臓が激しく鼓動する。
布団の中で手を握りしめる。爪が手のひらに食い込む。
恐ろしい。ヤバい。イヤだ。怖い。負の感情が俺を支配している。
視線だけ動かしてそれをに見る。
親父……無言で俺の顔を覗き込む。
そしてバッーーと四散した。
ーーということがあったんだ。
俺は次の日、教室で飛鳥に相談した。
飛鳥はふんふん聞いていた。
「涼~それはすごいことだよ!」
「ええ? まあそういう体験だからすごいとは思うが」
「涼の私の世界での適正がわかったよ。結構レアものだよ~」
「はあ?」
飛鳥の説明によると、俺が昨日見たのは「霊」らしい。
なんだと? とするとあれは親父の霊魂とかそういうのか? 公園の少女も警官が認識していなかったからもしかして地縛霊とかそういうのか……
要するに飛鳥との契約で霊感がついたらしい。
なんてファンタジーなんだ。まあ悪魔がいる時点で十分ファンタジーか。
飛鳥の説明によると、悪魔との契約者は何らかの卓越スキルを持つ、例えば念力、予知、身体能力五感の劇的向上とかもある。
契約悪魔の特徴にもそれなりに影響される。霊感は相当にレアだそうだ。もしかすると飛鳥はレア系悪魔かな。
そしてこの世の人々のスキルと飛鳥の世界のスキルはそれなりに相関があるらしいのだ。
「涼があっちにいったら相当の戦力なるよ! 是が非でも飛んでくれないか?」
お断りします。俺が飛んだら、誰が母さんと俺の身体の面倒を見るんだよ!