悪魔契約
涼は病院のベッドに横たわっていた。身体中がだるい感じだ。
部屋には涼が寝ているベッドと小さな机と椅子がある。机の上には果物が置いてある……リンゴだ。リンゴがいくつか置かれている。
リンゴは他にもあった。椅子に座った男の左の手のひらでがっしりとリンゴが握られている。 男の右手には鋭いナイフが収まっている。
そのナイフによってリンゴの皮は薄く綺麗に削ぎ取られる。 そして、彼の右手に握られた果物ナイフによって、更に切り刻まれ、均等に分断にされていく。バラバラにされたリンゴ片は無残にももう一人の男の口元に運ばれーー
「おい飛鳥。訳の分からない独り言は止めてくれ。気味が悪い」
「お気に召さない?」
「召すか!」
「あーん」
「やめろ自分で食べるから……」
俺が目を覚ましたのは昨日だった。トレーラーに押し潰された車から助け出された三人は病院に搬送される。しかし俺は無傷。
無傷なのに体調悪すぎ。
母さんは未だに意識が戻らないが外傷なし。
そして飛鳥はピンピンしている。三人とも死亡してもおかしくない事故だったので医者は無傷の我々に驚愕していた。
「なあ、俺達どうやって助かったんだ?」
「うん、正確にいうと、君らの肉体はズタズタになるところだったんだ。君の母さんは僕と契約したろ?」
「ああ、らしいな」
「僕と契約した人には僕の核と接続されて必要に応じてエネルギーが供給される。こちらから頂くこともあるけど……」
「つまり、死にそうだった俺らは飛鳥からエネルギーの供給を受けて人体が超回復した、と言ったところか」
「まあ、大体合ってる」
「……君は僕と契約していないが母さんとの契約により君にもエネルギーを供給させてもらったよ」
「……母さんの契約とはどんな内容だ」
「オッケー説明する、けどその前に契約の基本的条項を説明しよう」
「先に説明したけど、僕の核は契約者と繋がり、互いにエネルギーを融通する。基本的にはその融通具合は私の意思に従って為される」
「今は君の母さんから少しずつエネルギーを頂いている状態だ」
「てめえ、けが人の母さんに何してやがる!」
「ちょっ、涼、落ち着いて。 もちろん問題ない程度にだよ。
契約者が死んでしまう程エネルギーを吸収することは悪魔にとっても損失なんだ。契約者とは協力関係にあるほうが長期的に見て好ましいんだよ」
「……自分でエネルギーを作り出せばいいだろう」
「残念ながら僕の体はここの食べ物を効率よくエネルギーに変換できないんだ」
「普通に生活する分には問題ないのだけど……」
そうか、こいつは俺らにエネルギーを供給して魔力を大幅に消耗しているといいたいのだ。
「で、結局、君の母さんとの契約により、私の核から緊急的に君にエネルギーを供給して君を再生させ、また契約者である母さんにも当然エネルギーを供給し再生させた、こうして君らは無事に生還したというわけなんだ」
「母さんは意識が戻らないようだが……」
「涼、冷静に聞いてくれよ?
母さんは今、私の世界にいる」
「なんだと……趣味的な意味合いでですか?」
「違うよ!」
「実は僕は君らを助けるために大量の魔力を消費してしまった。まあ、普通は契約者から地道にエネルギーを返還してもらうのだけど、あまりに大量の魔力だったので、普通に少しずつエネルギーを吸収しようとすると……」
飛鳥はそう言うと、目を閉じて腕組みをする。
「……すると?」と痺れをきらせる。
「なんと250年かかる!」ためにためた飛鳥がとんでもないことを言っているので唖然とした。
ボカッ!
俺は飛鳥の頭を新聞紙で叩いた。
「その前に寿命で死んでしまうわ!」
「痛いよ涼~。まだ話は終わってないから」
俺は更にと振りかぶった新聞紙をピタリと止める。
「これ以上の割合で契約者からエネルギーを頂くと増担がか大きすぎてーー早々に死んでしまう可能性もあるし。しかし母さんは人間だ。250年も生きられないよね」
「そりゃそうだ」
「手詰まりとも思える」
「ふむ」
「だから、この世界より魔力が満ちている世界に移転してもらったよ!」
「アホか! なにしてんじゃ! 母さんはこの病院に入院しているはずだろ?」
「精神体だけ飛んでもらった。向うの世界では別の身体を用意したから」
「日本語でおk」
「……向こうはこの世界と違い魔力が濃い。だから彼女が魔力を体に取り込む速度は相対的には5倍だ。そのエネルギーは私が吸収出来るので、そういう作戦で投資を回収できるというわけだ」
「母さんを勝手に飛ばしやがって……」
「いや、君の母さんとは合意済みだから……」
「だめだ飛鳥、お前何とかしろ!」
「無茶言うなよ。君らは死ぬ運命だったんだ。僕はリスクをおってまで君らを助けたんだ、少しは感謝してほしいな。
だいたい親友の君だから無茶したんだ! 僕だって大量の魔力を使いこむようなリスクはとりたくなかったんだ! このマザコン」
飛鳥は少し涙目だ。そして少しふて腐れている。
言い過ぎたか……最後に聞き捨てならないセリフが聞こえたがこの際無視しよう。
飛鳥は、なんだよなんだよ! 頑張ったのにと、ぶつぶつ言っている。
確かにそうかもしれない。もともと死ぬところだったのだ。彼なりに俺らを思っての行動だったのかもしれないが、結果に対して文句ばかり言う自分がいる。
「飛鳥、悪かったよ。ありがとう助かった。お前のおかげで死なずにすんだ。今は混乱しているし現状も把握していない。今後のお前との関係もどうすればいいのかさっぱりわからないが今は言わせてくれ。ありがとう。お前がいてくれてよかったよ」
飛鳥の顔がパァッと明るくなりーー
涼~! と飛びついてきた。
「いたたたあぁぁ!! 離れろ! うっ、腰が! 腕が!」
俺らは落ち着きを取り戻し、母さんの話に戻る……
「で、母さんはどのくらいで意識が戻るんだ?」
「涼ってお母さんにべったりだね。不健全じゃないか?」
「お前に言われたくないわ!」
「それでどうなんだ? 魔力をいっぱい吸収できたらさっさと復帰できるんだろ?」
「そうだよ~普通だと250年だったけど、この方法なら、五分の一の50年くらいで復帰できるよ!」
「ふざけんなてめえぇぇ!」と飛鳥の首を締める。
「うぐぐぐ…離して…まだ…方向はあるから!」
「なにっよしっ聞かせろ!」
それはね……君が稼ぐんだーー




