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前世の記憶を持つ二人で一人な双子が異世界に召喚されました

掲載日:2013/11/21

 日本という比較的平和な国の中の、神奈川県という都市近郊の地に、彼らは住んでいた。10人中10人が綺麗だという容姿を持つ双子がありふれた日常を送っていた。

 しかし、彼らは普通ではなかった。二人にはこことは異なる世界で生きていた記憶、つまり前世の記憶があったのだ。二人の前世での関係性は師匠と弟子に近い間柄であったものの、転生してからはもっと仲良くなった。

 二人は男女の双子である。兄は優しく、聡明であることから学校では王子様と持て囃され、妹はその可愛さと、控えめさから学校では天使と密かに愛でられていた。


 そんな二人は今、買い物の為に少し遠い所にあるデパートへと歩いていた。二人がのんびりと歩いていると、突然周りの音が聞こえなくなった。兄の方はいち早く気づき、妹を守るために傍に引き寄せた。二人が辺りを見回すと、全ての人・物が全く動かずに、止まっていた。何故自分たちは動けるのだろうかと考える間もなく、足元が突然輝き始めた。光の中では見え辛いが、魔法陣が描かれているのを見た兄は、前世の記憶を引っ張り出し、それが何なのかを察するとともに二人の体は一瞬にしてこの世界からいなくなった。


 妹が目を覚ますと、彼女はどこか不思議な空間にいた。周りには前世で見たようなフードを被った人物がたくさんいて、その中心に一人だけ違う格好をした男がいた。男は彼女の元へ来ると、膝をついて手を取り、口づけた。その瞳には、熱が籠っていた。


「なんと美しい姫だろうか。異世界から勇者を召還するのは反対だったが、まさかこれほど美しい人が召喚されるとは…」

「誰?ここはどこなの?」


 異世界から、という言葉を聞いてここが異世界だと察した妹だったが、ふと自分の大好きな兄がどこにもいないことに気が付いた。自分を常に心配し、導いてくれた誰よりも大好きな兄。彼はいったいどこに行ったのだろうか。彼女は不安に思いながらも、相手に気取られないように問いかけた。


「私の名はヴォルフラム・ヴェルネルザ。ここはヴェルネルザという名の、美しい自然あふれる国だ。美しい姫よ、貴女の名前を聞いても良いだろうか」


 正直な妹は、名前を聞かれたときに素直に答えようとした。しかしその時、自分の考えを読んだかのように声が頭の中に響いてきた。自分が何より大好きな、兄の声が。


(正直に言ってはいけませんよ、愛しい妹)

(…兄様?)


 咄嗟に声が出そうになった妹だったが、目の前にヴォルフラムと名乗る男がいることに気づき、心の中で声を呟いてみた。自分の幻聴だろうか?そう思った彼女は、その後再び聞こえた兄の声に安堵する。


(幻聴ではありません。どうやら僕はお前の中にいるようです)

(どういうこと?兄様が私の中に?)

(ええ、本来なら僕はそのままどこかへ連れ去られていたでしょうが…前世の技を試してみると、案外使えましたので魂だけは分離することができました)


 兄の言葉を聞く限り、どうやら彼の体は別の場所に移されたようだ。ならば、二人とも召喚した人物が違うということなのだろうか?そう彼女が疑問を念じてみると、直ぐに答えが返ってきた。


(ええ、この男またはこの国が僕らを召還しようとしたのは事実です。しかし、召喚の魔法陣に僕だけが別地点へと転送されるように本来の物の上に上書きされていたのです)

(兄様だけが別の人の所に行くようにしていた…ということ?)

(その通りですよ、愛しい妹。彼が訝しげにしているようなので名前を言っておやりなさい。ただし、名前は"ハナコ ヤマダ"とでも名乗っておきなさい)


 彼女は、兄に言われた通りの名をヴォルフラムと呼ばれる男に名乗る。


「ハナコ…ハナコ・ヤマダ」 


 他人の名前を名乗るのは恥ずかしいらしく、頬を染めて言う様はとても可愛らしい。男は一瞬にして心を奪われてしまった。しかし、彼女がそれに気づくことはない。彼女の中にいる兄は察し、妹に気付かれないように殺気を送る。そのまま手を取り口付けてしまおうとかと考えていた男は殺気に気が付き、正気を取り戻した。


「ハナコ、か…良い名前だ」

「あ、ありがとう…?」

(クスクス、名前の由来も知らないくせによく言えますね)


 自分でない名前が褒められたので、素直に喜ぶべきか一瞬疑問に思った彼女だったが、褒められたのでとりあえず礼は言う。妹を内心愛でながら、兄は男を嘲笑う。男は彼女の手を取ろうとしたとき、どこからか凄まじい殺気がしたので慌てて立ち上がり、周りを見回した。彼女は内心、この男の人大丈夫だろうかと思いながら一人で立った。彼女が既に立っていることに気が付いた男は、内心がっくりとする。それを兄は鼻で笑った。


「では勇者ハナコ。私と共に世界を周って、魔王を倒してくれないだろうか」

「いや」


 思わず即答した彼女に、兄は拍手を送る。男は唖然とした顔をしていて、それは見ていて滑稽だった。

周りにいたのに空気扱いされていたフードの集団は、動揺したようにざわめく。兄は、妹は、この世界の勇者になるつもりなんて全くない。彼らは彼らで、やるべきことがあるのだ。


 妹は周りが一瞬動揺した隙を付いて、人をかき分け走り出す。彼女の逃走に気付いた男は、慌てて彼女を追いかける。しかし、道を先回りしても、兵を導入しても、彼女は捕まらない。そして気付けば、半日経っていた。それでも、彼女は見つからなかった。


(ありがとう、兄様)

(お前の為なら何だってしますよ、愛しい妹)


 彼らは一足早く、城下街に出ていた。城を抜け出すことができたのは、単に兄の前世の記憶と力のおかげであった。この世界に来る前は前世の記憶があれど、技を出すことはできなかった。しかし、あの時時間が止まってからどうやら力を扱えるようになっていたのだ。


 二人で一人の双子は、兄の体を探し出すために異世界で旅をする。スタート地点は城、ゴールは一体どこだろうか?二人の旅は、まだ始まったばかり。










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