プロローグ
プロローグ 植え込み
暗く、静かで大きな部屋。それはまるで無の世界。この世には誰もいなく、己しか存在しないと錯覚してしまうかのような場所。
部屋の中には巨大なメインモニタ、パソコン、コピー機、各種機械に本棚が所狭しと並んでいる。長机の上には分厚く、読むのが嫌になってしまいそうな本が数冊乱暴におかれている。
生活空間、と言うには少し不適切で汚くも映る部屋。壁には今時のアイドルのポスターや、アニメのポスターなどももちろんなく、赤と青の混じった何とも言えぬ模様が四方八方の壁に塗られ、そこにかかっている一つの時計だけがチクタクとこの部屋の中で存在感を示している。
そんな部屋に、電子パネルでロックされた部屋のパスワードを打ち込み、入ってくる一つの影。
影は部屋に入ると迷わず長机に置かれた分厚い本を手に取り、ページをめくる。《直系記憶》そう書かれた本だった。
「……うむ」
何やらお偉いさんのようにうなずく。
そしてまた乱暴に、投げ捨てるかのように本を置き、巨大なメインモニタへと近づいた。
画面には大きな円グラフや棒グラフ、人の形をした黒いシルエットに文字や細かな数値など様々な情報が記されている。
と、どこからかブーブー、とサイレンのような音が鳴り響き、画面も赤く点滅し始める。そんな状況でも影は慌てる素振りを見せず、横に置かれたパソコンに素早く何かを打ち込む。それによって反映されたのかサイレンのような音は止み、画面の点滅もなくなった。
ちらっ、と時計へと視線を飛ばす。
深夜十一時五五分。
もうすぐ日付が変わる。
「そろそろか」
視線を再びパソコンへと戻し、素早く何かを打ち込む。
しばらくすると『please wait』と言う文字が表示され、やがて画面にあった黒いシルエットは色を取り戻し、一人の人物がメインモニタ、パソコンいっぱいに現れる。
文字を打ち終わった影の指はパソコンの『Enter』に置かれ、いつでも押せるようにセットされた。
そして一二時〇秒。
影は指を弾いた。
キュィィィィィィィィィィィィィィィンと大きな音を立て、メインモニタでは膨大な情報が次々と渦巻くように画面にあふれてくる。出ては新たなものが出てきて、さらに出てきて……それは情報があふれて重なり合う光景。
そんな情報の山が全て画面に映っていた一人の人物へと取り込まれた。
「……成功だ」
影は低い声で言い、再びロックをかけて部屋を後にした。
如月蒼麻。
メインモニタに、パソコンに現れた人物の名。
世界は廻る。
覗いてくださった方がいらっしゃるのでしたらありがとうございます。この作品は過去に投稿した作品の付け加え設定を入れて書き直しています。同じ部分もありますが感想などくれると嬉しいです。