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電車に揺られて目的の駅に着いたのは1時数分前。
気が重いどころじゃなかった。
途中で何度も降りようと思った。
それでも降りなかったのは、やっぱり逢いたかったから。
「よっ、早かったな」
「っぁ、赤石、さん…」
笑顔で迎えてくれた赤石さんに心臓が波打つ。
「(海の、馬鹿っ)」
それでも笑顔になってしまうのは、やっぱり好きだからだろうか。
「悪いな。昼飯は先に食っちまったんだ」
「それは、海から聞いてます。私も家で食べてから来ました」
「なら良かった。おれたちは待っても構わなかったんだが、ナオがな」
「あぁ、ナオはそうでしょうね」
隣で笑う赤石さんを見て胸が詰まる。
涙が出そうなくらい、この瞬間が幸せに思える。
叶わないのは解ってるのに。
独りよがりなのは解ってるのに。
「……ユキ」
「は、い」
一歩前に出た赤石さんの表情は見えない。
「頼むから、そんなに縋らないでくれ」
「え…?」
私の足はもう動かない。
今、なんて言った?
「赤石、さん?」
「おれは…」
「言わないで下さい」
「聞け。おれは、」
「聞きたくありませんっ!!」
「ユキ、おれは、お前を…」
「私はっ、赤石さんが好きなんです!!」
「おれはお前を幸せには出来ない!!」
同時だった。
やっと口に出来た思いは、届くことなく砕け散った。
ここはまだ駅の中なのに、もう何の音も聞こえない。
(消えてしまったラブソング)
嗚呼何故、なんて。