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小学1年生

弟が生まれた事によって、母は誰よりも弟を愛するようになった。


「男の子はやっぱり女の子より可愛いわ。」



それが母の口癖になった。

母の気持ちもわからない訳ではなくて、妹も私も弟を可愛がった。そして父と顔を合わせない日々が始まった。



が、ある日、何気ない日に、母と3人兄弟で病院へ行った。

弟は腸重積にかかっていた。


母は慌てていたが、しばらくの間、母と弟で入院し、妹と私は父と暮らす様になった。


3人だけの生活。母のいない生活で普通なら不安になったりするだろうはずが、変な安心感が私の中に漂っていた。

朝起きたら父がご飯を作って幼稚園のバスが来るまで見送ってくれる。

幼稚園から帰って来たら妹と一緒に友達の家で遊ぶ。

その友人宅に夜仕事が終わったら父が迎えに来る。


その後はカップラーメンを食べながら夜遅くまでわいわいゲームをやる。


そして寝る。


その繰り返し。


父は妹、私に向かって怒ることも叩くこともなく、優しかった。

たまに3人でお見舞いへ行った。


「もう大変だよー。」


母はそう言っていたが、顔は笑顔だった。その横にくっつく様に寝転がっている弟。

とても苦しそうに見えなくてニコニコしていた。


なぜかわからないけれど、心が満たされていく様な気がした。その弟が入院している頃、

私は小学一年生になった。


入学式に来れなかった私に、色々なお母さん達が寄ってきて

「どこの幼稚園からきたの?」

と質問責めになった。

一つ一つ答える事に、「しっかりしてるねー。」

とか

「あの幼稚園からきたの。すごいねー。」

など言われていた。何が凄いのかわからなくて、どう対応したらいいのかわからなくて

「あはは」

と笑ってごまかした。


小学校ではすぐに友達ができた。

優しくて頭のいい子。そして真面目。そんな子と一緒にいる事が多くなった。

幸いにもいじめられることなく、私はクラスに溶け込んでいった。


家族も弟と母が戻ってきて、またほぼ4人での暮らし。

弟がいることによって母は不安定でもなくなった。全てはもう順調だった。


もう大丈夫だ。

この生活が続くんだ。


そう思っていた。



ある日、母にテストを見られた。別に隠してもいないかったが。


「なんでこんな大事なもの…見せなかったのよ!なによこの点数。今までのテスト全部みせな!」


私に興味がないから、テストなんて関係ないと思っていた。

一度も

「プリントみせて」

「テストある?」

とか聞かれなかったから全部自分の責任だと思って、いくら点数低くても関係あるのは自分だけだと思っていた。


「なに…これ…」


国語30点。算数20点、計6枚程出てきたテストの点数はそんな数字が並んだ。


バチン。


久しぶりに叩かれたから、ボーっとしていて舌を噛んでしまった。


「なんで早く言わないの!今から勉強するよ。まずこれのどこがわからないのよ?」


舌から血が出ていて、痛いなぁ。という気持ちとなんでこんな怒っているんだろう。

私なのに。と冷静に思っていた。


母の指差した一番最初に受けただろう、算数のテスト。


「何が、わからないの?」


低い、どすの効いた声。

威圧感。


「なにがわからないか、わからない。」


バチン。


正直に答えたつもりだった。


「これとこれが一緒になると何個になる?」

財布から10円玉をだして聞いてきた。


「…2個。」


心臓が早くなっていく。


「そう。じゃあこの問題やってみて。」

チラシの裏に書かれた簡単な問題。でも私にはわからなくて、適当に書いた。


バシン。


「なんでっわからないのよ!?こんな問題わからなくてどうするの?1たす1は2になるの。わかる?」


「うん…」


怒りまくっている母に、なんでこんなにも怒っているのかわからない。まずそこからわからないよ。お母さん。


心の中で話した。


「ほら、この問題やってみな。」

また手作りの問題。わからない。


バシン。


「なんでっ」


この繰り返しが30分ぐらい続いた。結局1たす1は2になる。

という事だけ覚えた。なぜ2になるのかわからないまま。


「本当に物覚えの悪い子だね。しばらく一人で勉強してな。」

冷たく言われて、私は一人机に向かった。

「わからなかったら教科書読みな。それで理解しな。」


真面目に授業は受けている。ノートにだって一つこぼさず黒板を写している。

ただ問題だけはわからなかった。


夜ご飯を食べる以外、全ての時間勉強に捧げた。


学校へ行くと毎日『居残り』をされた。母はこの時間、友達と遊んでいると思っていたみたいだが。


放課後居残りのメンバーはいつもコロコロ変わるが、私はほぼ毎日。あまりにも学校に居続けるから、

当番でもない掃除を手伝っていた。


「ありがとう。」

「由利ちゃんがいると掃除が早く終わるよー。」


等、クラスから言われていた。


「いいんだー。なんとなくしちゃうんだよねー。」


と笑顔で言った。

本当はみんないつも居残りする私をバカにしているんだ。と同情しているんだ。と思っていた。頭の悪い私を笑っているんだ。となぜかそう思っていた。


毎日居残り。家に帰れば母との勉強。夜ご飯以外、勉強。


ある日のテストで、点数順に名前が教室に張り出された。私の友人達は上のほうだった。私はというと、一番下だった。

クラスの中で一番下の人。バカすぎていじめられるのではないかと思ったけど、皆何も気にしていないようだった。


休み時間になるといつもと変わらず友人達は来てくれて、何も変わらなず接してくれた。


そんな日々が続く頃、参観日がやってきた。


クラスに張り出された順位はそのまま。

弟を抱っこして母は来た。


その日に母は狂った。


家に着くなり、私を叩き出した。


「痛い。なにっ。」

「なんでっなんでこんなに勉強教えてあげてるのに一番下なんだよ。なんでそんなにバカなのよ。勉強だってわかったふりするんじゃないよ!」


なんかよく解らない事を叫びながら叩いてくる。

顔はもうマヒしているのか、痛みを感じなかった。ただただ叩かれる。

私を叩くのに飽きたのか、次は食器を次から次へと割り出した。


「ちくしょー。」


なんか叫んでる。恐怖で手が震えた。それでも今やるべきことは勉強だと思い、机へ向かった。


後ろからは激しく食器の割れる音と、母の奇声で頭が痛くなった。


鉛筆を握る手も震える。

声を殺して泣いた。泣きながら教科書を読んだ。涙でページが柔らくなった。


どうしてわからないんだろう。


自分で自分に聴いてみた。


頭が悪いからだ。勉強以外でもどんくさいだろ。いつもお母さんが言っているだろ。何も出来ないんだよ。お前は。


そっか。


自分の中自分は、そう答えた。

なぜかわからないけど、その間は幽体離脱をしている感覚で、ボーっと奇声を発している母と、机に向かっている私を第三者のように、少し遠い所で私は見ていた。




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