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誕生日

希望に満ちて生まれた私は真っ暗な闇に吸い込まれた

長い長い時間が過ぎて幼稚園から家へ帰る。

行きも帰りも幼稚園から専用のバスがでていて、それに乗っていた。


私はいつも窓側に座って家の前で待つ母と母に抱えられている妹を見ていた。


母が先生と話す時、機嫌がよくなる。

というより笑顔でいなきゃけないからかもしれない。


少しでも母から何か関わりたくて、いつもわざと制服をだらけて着てバスから降りてみたり、

バスを降りる直前に帽子をだらしなくかぶってみたり


そんなことを毎日続けていた。


エレベーターの中


「ほら、ちゃんと制服きなさい」

「ちゃんと帽子をかぶりなさい」


そんな風に言ってだらしなくなっている部分を直してくれる。

それが嬉しかった。


家の中ではないから叩かれることもない。


家の中に入ると妹と遊んでいた。

やっぱりブロック作りだけど。


母は私が何か物を作るのが好きなのを知って、大きいブロックや小さいブロック、

積み木を買ってくれた。


嬉しくて毎日毎日、飽きずに妹を巻き込んで色んなものを作っていた。


父は大工をやっていて棟梁をやっていた。

私は父の血を受け継いでいるのかもしれない。


父はしょっちゅう出張に行っていて、帰りも遅くて父と一緒に居た記憶はない。


私の5歳の誕生日、特別に記憶に残っている。



「やっぱり帰って来ないね。誕生日やっちゃうか。」


母と父の帰りを待っていて、元気なく母は言った。

隣には無邪気にえへえへ座って笑っている妹。


テーブルには1ホールの苺のケーキと4人分ぐらいのいつもより華やかな料理が並んでいる。


何かメッセージの書いてあるチョコの板の周りには5本のローソク。

母が火を灯してくれた。


「ほら消しなよ。」

笑顔で言う。

「うん。」

無邪気に言って私は火を消した。


「ほらこれ、プレゼントだよ。」


そう言って母が指差した方には、大きな包みの箱があった。


「何?何?」


ワクワクして包装紙をビリビリに破ったのを覚えている。

その箱の中には、いつだか母と一緒にデパートへ行って欲しいと言った、シルバニアファミリーみたいな大きなおもちゃの家一つと、そこに住む小さなうさぎの女の子二体。


「わぁ!すごいっ家だぁ!お母さんすごいよ!家だよ!」


興奮がおさまらなかった。母は何も言わずニコニコしていた。

すぐに妹が触ろうとする。


「ダメだよ!これは由利のだよ!触ったらダメだよ!」


妹は不満そうな顔で見つめていた。でも次の日には一緒にそれで遊んでいた。人形が2体あるんだから。


母はそれを望んで2体うさぎの人形を買ったのかもしれない。

妹は私と違って人形が大好きだ。それは20歳になっても変わらないことになる。


私は家が欲しかった。物を作る時もなぜか家ばかり作ることが多い。車一台と、犬がとか作って、ブロックの家もなぜだか大体4人、人が家にいる。


私の帰れる家、いつでも迎え入れてくれるどんな私でも受けて入れてくれる居場所。


今の私は母の顔色をみて、幼稚園ではいい子で、息が苦しく感じる。

足のつかないプールを一生懸命ずっと、ずっと、泳いでいるような感覚。



父が私の誕生日会が終わって落ち着いた頃、ようやく帰ってきた。


「遅いんだよ!もう子供も寝る時間でしょ!?なんでこういう時ぐらい帰ってこないんだよ!」

「しょうがいだろ!仕事なんだよ。忙しいんだ!」


二人とも怒鳴りあっている。父が帰って来たらいつも怒鳴りあい。喧嘩の嵐。

その姿をじっと妹と隅っこの方で見ていた。妹はいつも泣くけど。


でも、この日はいつもと違っていた。この私の誕生日。


「何やってるんだよ!」


怒りに満ち溢れた目をしながら母は私のところへ来た。


バシン。


体制が崩れる。心臓が異常な程早い。私は何もしてない。していない?見ていたのがいけなかったの?


何がんだかわからない。でもきっと、何か気に触るようなことを、私はしたんだ。


「…ごめんなさい。」


震える声でつぶやいた。叩かれたのが痛いのかなんだかわからないけど、涙がでてくる。

私は悪い子だ。母の思っているように動けない。頑張るから頑張るから、いい子でいるから、もう喧嘩しないで。


必死に心の中で思う。

また叩かれるのを恐れて声が出ない。


母はふてくされた様な感じで、妹をつれて布団へ入った。


妹だけ可愛いんだ。私いらないんだ。


妹が母に連れられた時に、そう思った。


怒りというか、憎しみというか、色んな気持ちがこみ上げて。

でも母とは離れたくないという強い思い。


妹が連れられてたった一人になったように気持ちになって、ソファーで座っている父の隣へ行った。


「お父さん…どうしよう…」

涙があふれる中つぶやいた。


「とりあえずお母さんに謝ってきなさい。」


父からの思ってもいない言葉だった。

そんなにも、そんなにも、私が悪いのか。何回謝れば今日が終わるのか。


でも足は母と妹のいる布団へと動く。


「ごめん…なさい…」


母は何も言わない。そして1ミリとも動かない。


頭がだんだん真っ白になっていく。

母が目の前にいるのに、どんどんどんどん遠くなっていく感覚。


今、母は寝ているわけがない。

子供の私でもわかる。


私を全否定された瞬間だった。


それと同時に目に見えているのに何も言わない父ともどんどん遠くなっていくような気がした。



お父さん、これを私にやらせたかったの?



ただただ、呆然と立ちすくんだ。


どうすればいいのかわからなかった。


妹が母の隣で安らかな顔で、眠っていた。



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