幼稚園と先生と母のお弁当
『ここを卒園した子の小学生は周りの子と違う。才能が伸びる』
そんな噂がある地元では結構有名な幼稚園に通っていました。
そこでの先生との関わり方。自分に出来た友達
そんな中、幼稚園には嫌々通っていた。
母と離れるのが嫌だった。
ただそれだけ。
幼稚園の中は、時間にも厳しく、行動するのも先生の言う通りにしなければならない。
先生の話を聞いてその話を後でそのまま先生に伝えなければならないという事もある。
これができなければ、帰れない。
だからいつも緊張状態でいる私がいた。
良い子でみられたい。好かれていたい。
その一心のみ。
一生懸命、さっき先生が言っていた事を思い出す。
だけど何分経っても思い出せなくて、帰れなくて
私はまたよく泣いていた。
「ごめんなさい。ごめんなさい。」
一生懸命泣いて謝って。
あんまり覚えていないけど、その後はいつも帰りに乗るバスに乗っていた。
乗せなきゃ帰れないし、色々苦情も来るからだと思うけど。
幼稚園の中の自由時間では、男の子と一緒になって
よくブロックでロボットや、家を作って遊んだ。
おままごと友達が誘ってくれたらやるけど、あんまり好きではなくて
人形遊びも、周りの子と感覚が違うって幼いながらわかってて
単純な物を作って壊す、という簡単な遊び。
その男の子達の何も考えていなさそうなグループに混じって
遊んでた。
基本、誰とでも合わせて、その子の期待通りに動いて
一人になることはなかった。でも、女の子のグループには入れたことが無かった。
なぜか馴染めない。でも、嫌われてもいない。
そんな私にはクラスでよく嫌われている、一人でいる、そんな子がよってきては
よく一緒に居て、その子がどこかのグループに行ったらさよならで
そんな繰り返しだった。
男の子と一緒にいたほうが楽だった。
でもそんなことも長い時間できない。長い時間遊んでいたら、あの子好きなの?
とか、へんに女の子から一目置かれる。
それが怖くて、誰とでも良い顔して、自分の気持ちよりも相手も気持ちを読み取って
合わせて。先生と同じ。良い子で見られたい。
いつだかの幼稚園で写した写真は、がちがちに固まって
気疲れしそうなぐらい真面目な顔で、足は閉じ、手はグーに強く握り締めて膝に置いて
周りの子は、どこか向いていたり、ピースしていたり、男の子だったらだらけて
座っていたり
どこか場違いな、無駄に頑張りすぎている自分の姿。
お昼だけが私を支えていた。
母の手作りのお弁当。
お昼だけは気が緩むことが出来た。
みんな真剣になって食べてる。私の弁当はいつもカラフルなお弁当。
外を気にする母だから、完璧に仕立て上げたかったんじゃないかと、今なら思う。
美味しい、とか、おいしくないとか。そんなのは私にはなかった。
ただ先生の言われたとおりに全部食べる。
家にいても食事ができたらただ物を口に運ぶ。そして飲み込む。
ただそれだけ。
この行動は23歳になっても続くことになる。
味がわからない。食べることが楽しめない。
でも、「おいしい。お母さんのご飯は世界一おいしい」
って、言ってた。
そう言うと母は笑うから。
機嫌が悪くて無視される日もあるけど、見捨てられたくなくて、嫌われたくなくて
毎日毎日
「おいしい。おいしい。」
って言ってた。
味なんてわからない。正直、そんなのどうでもいい。
少しでも母の思う良い子でいたい。
『お母さん。お母さん。手を握って。たくさんたくさん笑って。
良い子でいるから。おこらないで』
小さな小さな、誰にも言えない私のSOS。
誰も気づくことなく日々は過ぎてゆく。