天才降臨
まんが刑務所に新たな仲間が加わった。
「鈴木幸子です。よろしくお願いします」
正座してぺこりと頭を下げたのは黒髪ロングの美少女だ。目がパッチリしていて少女漫画のヒロインのような顔をしている。雰囲気はさわやかで清涼感がある。むささくるしい牢獄に花が咲いた。
「ぼくは秋野幽暮です。宜しくお願い致します」
「俺様は夏野海だ。よろしくな」
「オレは桜春太。よろしく」
「わしは遠山幻冬斎じゃ。よろしくお頼み申す」
夏野はみんなが疑問に思ってることを口にする。
「女の子を男と一緒にしていいのかよ?」
「セクハラしたら死刑みたいです。白鳥さんが男どもに伝えとけって」
「あの人ならやりかねんな」
夏野はうなる。白鳥さんの見た目はいかつい。夏野以上のマッチョでドーベルマンのような顔をしている。無類の漫画好きで漫画家に漫画制作だけに集中させれば必ずヒットが出ると信じている狂気の漫画編集長だ。有言実行の男でもある。幽暮は眼鏡のブリッジを持ち上げる。
「鈴木幸子。はて?そんな漫画家聞いたことありませんけど?」
「あっ、ペンネームは青井花です」
美少女漫画家はニコリと笑う。
オレたちは言葉を失った。青井花といえば全世界30億部売り上げた漫画界の女王だ。
代表作の『怪盗キッズ』は映画化、キャラクターグッズになり爆売れした。作者の正体はベールに包まれている。読者に作品を読むことに集中してもらうために顔出しはしない主義らしい。
若手に興味がない幻冬斎先生ですら知っているご様子だ。
「はっはっは。冗談はよくねぇぜ。お嬢ちゃん。いくらなんでも若すぎだろ?」
夏野は両手を広げて肩をすくめる。
「連載してたのは12歳から15歳です。いま花は17歳なのであってます」
「うっそでーい!」
夏野はまったく信用してない。幽暮も信じていないようだが花をフォローする。
「いや、プロ顔負けの絵が上手い小学生はたくさんいますよ」
「信じられねーな。キャラクターを描いてくれよ」
夏野はまっさらな原稿を花に突きつけた。花はあごに指をそえる。
「絵なんて1年ぶりだなぁ。まだ描きかた覚えてるといいけど・・・」
やる気のようだ。花は用意された机でえんぴつを持つ。手をグーパーして腕をぐるぐる回す。それからいよいよ絵を描きはじめた。と、思ったら線を長く引いたり丸を描いている。
花はつぶやく。
「ウォーミングアップです」
「OKOK。だいじだよなぁ」
夏野はあいずちを打つ。
「行きます」
花は真っ白な原稿用紙にえんぴつを走らせた。なめらかな線が走りあっという間に可愛らしい美少女が誕生した。うまい!描かれた線から星が舞うようだ!
みんな描き上がった絵を凝視した。
「あは。なんか楽しい。腕が覚えてる♩」
花はルンルン気分で次々に自作品のキャラクターを描いていく。建物や背景や小物もつけ足す。すべてが抜群にうまい!前世でも漫画家だったんじゃないか?
人生7回繰り返してもこの領域に達せられるかどうかわからない。
美しき容姿に天性の絵の才能。天は二物を与えたな。
「こんな感じです。信じてもらえました?」
花は手を止めて振り返る。
「し、信じるよ。つーか、いままでのご無礼失礼いたしました花先生!」
夏野はガバッと土下座する。
「いや、全然失礼じゃなかったですよ?信じてもらえなくて当然です」
「花先生、わたくしなどに敬語は結構です。どうぞタメ口でお願いします!」
「ぼくもタメ口でいいよ。大尊敬する花先生に敬語を使われたくないからさ」
「オレもタメ口でいい。実力がはるか上の人間に敬語を使われたくない」
「わしもそなたを格上と認めよう。かしこまった喋りかたはせんでええ」
漫画界は実力主義の世界だ。とくにまんが刑務所のような閉鎖された空間では実績が序列を決める。牢名主は花だ。
「じゃあ、遠慮なく。花のことは花ちゃんって呼んで。あと敬語禁止。改めてこれからみんなよろしくね」
花は指を絡ませて微笑する。
「御意っ!」
「承知した」
「うん」
「了解だ」
オレたちは一瞬で花のとりこになった。
「花ちゃんの借金額はいくらなんだい?」
夕暮は花にたずねる。
「う〜んとね。2000億」
「にっ、2000億?花ちゃんなにしたんだよ?」
夏野はひっくり返る。気持ちは同じだ。幻冬斎先生も目を丸くしている。
花は頭をかいた。
「ベガスでしくじっちゃった。マフィアに銃を突きつけられて砂漠に穴を掘らされて埋められちゃうところだったんだけど、ロールス・ロイスで白鳥さんが駆けつけてくれて助かったんだぁ」
「シャレになってねーな」
「春太くんとほぼ同じだね」
「急死に一生を得たの。その命、大事になされ」
「うん。大事にする。春太くんも同じなの?」
「オレはすまきにされてヤクザに海に沈められる寸前だった」
「わお!あぶなかったね〜。いっしょだね♩」
「2人とも一生分の運を使い切ったんじゃねーの?」
「ううっ、イヤなこといわないで。2000億円返すために花がんばる!」
花は胸の前で両手の拳を固めた。白鳥さんが建て替えたということは2000億円返済できると考えているのだろうが、いくら天才美少女漫画家でも険しい道のりだ。
何本ヒット作を出せばいいのやら。しかし情熱は見習いたい。
「オレもシャバの空気を吸うことをまだあきらめてない」
「ふむ。若者はがんばるとええ」
幻冬斎先生はお茶をすすってうなずく。じぶんはもうここで余生を過ごすつもりなんだろう。飯もタダで運動もできる。規則正しい生活も送れて医者もすぐ駆けつけてくれる。警備も万全だ。
「花ちゃんがきてくれたおかげで刑務所の雰囲気がよくなったぜ。花ちゃんは女神さまだ」
夏野は手を組んで拝む。
「雰囲気悪かったんだ?」
「最悪」
「最作じゃ」
「最先だ」
「最悪だよ」
みんな声がそろう。牢獄に笑い声が響き渡った。




