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百二歳で大往生した葬儀屋、異世界で亜神として二度目の人生を始める〜最強葬儀屋、銀の杖で世界を安らぎの葬送に染め上げる〜  作者: 榎木丈


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5/7

止まった時間、動き出す明日

「……あんた、何者なんだ。魔法使いか? それとも、聖騎士様か?」

「いいえ。私はただの葬儀屋、結城 終と申します。……少しばかり、魂の行き先を案内する仕事をしておりましてね」


 終はラウルが見つめていた窓の中を覗いた。

 そこには、十歳ほどの少女・ミーナがいた。彼女の瞳は赤く腫れ、頬には涙の跡が乾いている。彼女は震える手で、石のように硬くなった黒パンを鍋に入れ、ふやかそうとしていた。


「お父さん、もうすぐできるからね。これを食べれば、また元気になるから……」


 ミーナの声は掠れ、うわ言のようだった。傍らのベッドには、すでに息を引き取り、白布を被せられた遺体が横たわっている。ラウルの遺体だ。

 村の人々が葬儀の準備を手伝おうとしたのだろう。しかし、ミーナは狂ったようにそれを拒み、父の遺体のそばから離れようとしないのだという。


「あの子は……ミーナは、俺が死んだことを認めてないんだ」

 ラウルが、透き通った拳を壁に打ち付けた。

「俺は病で死んだ。それは分かってる。でも、あの子に何も残してやれなかった! 貯金も、頼れる親戚もいない。俺がいなくなれば、あの子は飢えて死ぬ……。それを思うと、足が動かないんだ。地獄へも、天国へも行けやしない!」


 ラウルの魂が、じわりと黒い霧に包まれ始めた。未練が怨念に変わろうとしている。

 放置すれば、彼はこの地に縛り付けられた悪霊ゴーストとなり、最愛の娘に害をなす存在になってしまうだろう。


「なるほど。あなたが心配なのは、彼女の『明日』ですね」

 終は頷き、懐から純白の手袋を取り出した。

「では、葬儀屋として、少しばかりお手伝いをしましょう。……彼女の時間を動かし、あなたの旅路を整える。それが私の仕事ですから」


 終は小屋の入り口に立ち、銀の杖を掲げた。

「『聖域展開:安らぎの葬送(レスト・イン・ピース)』」


 杖の先端から、波紋のような黄金の光が広がった。

 光は壁を透過し、小屋の内部を隅々まで満たしていく。

 その瞬間、ミーナを襲っていた激しい動悸と、ラウルを縛っていた絶望の鎖が、雪解けのように消え去った。


 ミーナは、ふっと顔を上げた。

「……温かい」

 今まで感じていた刺すような孤独が、不思議と和らいでいく。

 終は、静かに扉を開けて中に入った。


「初めまして、ミーナさん」

 終の声は、凪いだ海のように穏やかだった。

「あなたの……そしてお父様の、心残りを預かりに来ました」


「お、お兄さんは……だれ?」

「お父様の友人ですよ。……遠い国から、彼を見送るために来ました」


 終は、何もない空間から一輪の白い花と、温かなスープが入った銀のボウルを取り出した。

供物の顕現(エターナル・ギフト)』。

 それはただの料理ではない。亜神の魔力によって「慈愛」を形にした、魂を癒やす供物だ。


「まずは、これを飲みなさい。お父様は、あなたが空腹で泣いているのを、一番悲しんでおられますから」


 ミーナは、促されるままスープを口にした。

 一口、二口。温かさが胃に落ちるたびに、凍りついていた彼女の心が溶け出していく。


「お父さん……お父さんは、もう起きないの?」

「ええ。彼は、一生懸命に自分の人生を走り抜けました。今は、とても疲れて眠っているだけなのです」


 終は、窓の外で立ち尽くすラウルの霊を、ミーナの目に見えるよう「顕現」させた。


「……あ!」

 ミーナの目が大きく見開かれた。そこには、生前と変わらぬ優しい笑顔を浮かべた父が立っていた。

「お父さん!」

 ミーナが駆け寄るが、その手は空を切る。しかし、父の温もりは、聖域の光を通じて確かに彼女に伝わっていた。

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